Amazing grace

国沢柊青

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act.72

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 セスは、青い作業服の上着を着た男の背中をしばらく目で追った。
「セス! どうした、行くぞ」
 同僚のホッブズに声をかけられて、セスは爆弾処理班の車の後部座席に乗り込んだ。先にジョイス・テイラーが乗り込んでいる。
 車のエンジンが始動して、ゆっくりと群衆をかき分けながら、現場を後にする。
「被害者の子どもと知り合いだったのかな」
 テイラーが呟く。
 セスがテイラーに目をやった。
 テイラーは前を見たまま、付け加えた。
「さっきの男だよ。まるで、自分が死にそうな顔をしていた」
「・・・確かに・・・」
 セスはそう呟きながら、窓の外に目をやる。
 一瞬だが、群衆の山の先に青い後ろ姿が見えたような気がした。
 セスは、先ほどカッと見開いた目で自分を見上げてきた男の病的な表情を思い出していた。
 よほど少年とは仲がよかったのだろうか。
 男は少年の死が信じられないといった様子で、「なんてこった・・・」と譫言のように呟き続けた。そして生気を抜かれたように、よろよろとその場に崩れ落ちた。
 こういう瞬間に出会うと、さすがに心が痛む。
 人の死というものは、いつだって残された人のものなのだということを痛感してしまう。
 時には残された者の方が、死んだ者より深く傷つき、打ちのめされる。
 暴力によって突然訪れた死なら、なおさらだ。
 被害者に関わるもの全ての人間が、戸惑い、錯乱し、時にはその死を受け入れられなくなってしまう。
 男のあの病的に見開かれた瞳は、そのことを物語っているように思えた。
「本当に酷い事件だな・・・」
 彼自身が深く傷ついたかのように、テイラーが囁いた。


 冷たくなった食事がのせられたプラスチックトレイが運ばれていく。
 そのトレイを持った看護師を、セント・ポール総合病院の精神科医ビクシーが呼び止める。
「これ、誰の食事?」
 看護師は深い溜息をついて、答える。
「ローズ先生のものです」
「一口も口をつけなかったのかい?」
 器の中を覗き込みながらビクシーが訊くと、看護師は頷いた。
「こちらが何を言っても、まるで反応がなくて。瞬きもしないんですよ。あんなに酷くやつれてしまって・・・。まるでローズ先生じゃないみたい・・・」
 看護師の声に、涙が滲む。
 ビクシーは、さっき看護師がして見せたように、深い溜息をついた。
 確かに、以前の精力的に働くマックスのことを知っている人間にしてみれば、今の彼は正しく『生きる屍』だった。
 ビクシーは、薄く開いた個室のドア越しに、中を覗き込む。
 ベッドの上に腰掛けたまま、宙をぼんやり見つめているマックスの横顔が見えた。
 闇の光に照らされたマックスの横顔は、まるで蝋人形のように真っ白く微動だにしない。
 薄く開けられた窓から吹き込む風が、時折彼のブロンドの髪を揺らしているだけだ。
 彼には、とにかく時間が必要だ。
 自分の身に起きたことを消化できるだけの時間が・・・。
「やはり明日調書を取るのは無理だな・・・・」
 ビクシーはそう呟くと、個室のドアを閉めた。


 マックスは、ちらりとドアを見た。
 しばらくじっとして、足音が遠くなるのを聞き取ることに神経を集中させた。
 病室の前からあらゆる物音が遠ざかり、静まり返る。
 マックスは、痛む身体を軋ませながら、ベッドの下に手を伸ばした。
 レイチェルに頼んで持ってきてもらった紙袋を取り出す。
 マックスは、ベッドの上に出されたままのテーブルに紙袋の中身を取り出した。
 ハート家のメイド、ステラの手料理が並んでいた。
 どれもしっかりとしたボリュームあるメニューばかりだった。とても病院に入院している人間が食べるような食事とは言えない。 ── プロテイン飲料まである。
 マックスは、ふうと息を吐くと、片っ端から食べ始めた。
 とにかく、血が足りない。骨を早く接がねばならない。筋肉に栄養を与え、まともに身体が動くようにしなければならない。
 病院が出す食事を食べていては、時間がかかりすぎる。
 ── とにかく、何をするにも身体が基本だ。身体がいうことをきかねば、どうしようもない・・・。
 口を動かすたびに、顔に受けた裂傷が痛んだが、構ってはいられなかった。
 ── 早く、食べてしまわなければ。じき、医者達が自分の容態を鑑みて、点滴か何かを用意してくるだろう。
 マックスは、ローストビーフをトマトスープで流し込みながら、痛む肋骨を押さえた。


 酒場は、いつものように無骨なジャズソングが流れる中、様々な肌の色をした客がぱらぱらと座り、酒を飲んでいた。
 酒場とは大概薄暗いものだが、この酒場は一段と暗い。
 オーナーであるバーテンも、まるっきり愛想なしで、ましてや愛嬌を振りまくウェイトレスなんかいやしない。看板すら出ていないのに、それでもこの店には客が来る。毎日、客の数は少ないが、バーテンが食っていくだけの稼ぎはある。
 その日の遅く、馴染みの客も帰り、もう店じまいしようかとバーテンが思った時、店のドアが静かに開いた。
 黒い編み上げのブーツ、黒の着丈の長い革ジャケット、揃いの革手袋。
 バーテンは、男のその格好に故郷の泥臭いにおいを感じ、顔を顰めた。
「まだ酒は飲ませてくれるか」
 男の低い声に、バーテンは首を緩く横に振って溜息をつくと、カウンター中央のスツールを指で指し示した。
「どういうつもりなんだ、その格好は」
 バーテンは、あからさまな嫌悪感を浮かべた表情のまま、男の好みの酒をグラスに注いだ。
「この間も報告してやっただろう。ジェイク・ニールソンの陰は掴めない。だから、動くべきではないと」
 男は、ブルーに輝く瞳でバーテンを見つめた。
 バーテンは、疲労感漂う動作で自分のグラスも取り出して、濃度の濃いその酒を注ぎ、一気にあおった。
 男のその格好は、否が応でも昔を思い起こさせる。
 男がその純粋な忠誠心を利用され、したくもないような殺戮に手を染めていた頃。
 次々と、拳銃で、ナイフで、そして時にはその素手で、人に死を与えていた時代。
 『死の黒い司祭』と呼ばれていた頃を象徴する姿だった。
 この国に命からがら逃れてきて、やっと決別できたはずの自分を敢えて引き寄せようとする男の姿勢が、バーテンにとっては不快なものに感じてしまう。あまりにも辛すぎて。
「どういうつもりなんだ、ウォレス」
 バーテンは、再度男にそう言った。
「今の段階で、爆弾事件にニールソンの陰は見つけられない。そうだろう、ウォレス。なのに、その格好ときたら・・・。冗談にしても笑えないぞ」
「冗談ではないさ」
 男は、酒を幾ら飲んでも全く酔わない様子で、バーテンを見つめた。
 強い瞳で。
「会社も辞めてきた。娘とも、愛する人とも別れをつけてきた。── まったく、冗談なんかじゃない」
 バーテンが身を乗り出す。
 バーテンは、いつもの彼からは想像できないほど、動揺した表情を浮かべていた。
「どうしたんだ、ウォレス。いつも俺以上に冷静なお前とは思えない。何を好きこのんで、昔の暗い時代に戻ろうとしているんだ。なぜそんなに切羽詰まっている?」
「 ── 出てきたんだ。ジェイクの陰が」
 バーテンの表情がこわばる。
 今度は、男が身を乗り出す番だった。
「一連の爆弾事件は、私にとって“邪魔だ”と犯人が思い込んだ人間に対して、行われている。その証拠を、私は目にした・・・」
 男は、ゆっくりと呟いた。


 C市警のハドソン刑事は、オーバーに両手を広げ、天を仰いだ。
「いい加減にしてください!」
「そうは言ってもですね!」
 ハドソンの目の前には、セント・ポール総合病院の精神科医ドナルド・ビクシーが立ちはだかっていた。
「あなたも今、ご覧になったでしょう。今の彼の様子を。一日やそこらで治るような心の傷ではないんです!」
 ハドソンは苛立ったように、ビクシーの前を行ったり来たりした。
 その向こうのガラス窓越しに見える部屋には、温かく穏やかな日差しが差し込み、部屋の白い壁を際だたせている。
 白い壁に、白い床、白い天井。
 その中にぽつりと、濃いブロンドヘヤーに翡翠色の瞳をした男が、パイプ椅子に座り込んでいる。
 微動だにしないその様子は、出来のいいマネキン人形だ。
 ハドソンは、そんな男を手で指し示しながら、ビクシーに食ってかかった。
「初日は! 意識が戻った直後は、俺の質問にもしっかり答えてたんだぞ、あの若造は!! 絶対嘘に決まってるんだ!!」
「ある意味、彼が心を閉ざしてしまう引導を渡したのは、あなたのその不躾な質問かもしれないんですよ!」
 ハドソンは、自分の首からマフラーを乱暴に抜き取ると、床にたたき付けた。
「刑事を馬鹿にする気か? 誓ってもいい、あいつは狂ってなんかいない」
 ハドソンが唸るような声を出し、ビクシーの鼻先に獣のように歪んだ顔を近づける。だがビクシーは怯まなかった。
「例えそうだとしても、彼は私の患者です。私の許可なしに彼に詰め寄るのはやめてください。彼は被害者なんですよ。お願いします」
 ビクシーの言葉は丁寧でも、その口調はハドソンと同じぐらいに獰猛だった。
 ハドソンも根負けしたらしい。「回復次第、ただちに署に連絡すること。事件の早期解決のためには、彼の証言が必要なんです」と言い残し、不服そうな顔つきのまま、病院を去っていった。
 ビクシーが大きく溜息をつく。
 ── まったく、警察の連中ときたら、どいつもこいつも・・・。
 顔をしかめるビクシーにマイク・モーガンが声をかけた。
「帰ったのか」
「ああ」
「どうだい、今朝のマックスの様子は」
 マイクの問いかけに、ビクシーは更に顔をしかめた。
「こちらの呼びかけに、一切反応を示さない。極度のうつ症状だ。あまりに悲劇的なことが起こりすぎて、心が対応できなくなったのだろう。食事もとってないから、昨夜からずっと点滴で対応している。いつになったら回復するのか、正直俺もわからないよ」
「そんなに悪いのか・・・」
 この分じゃ、身体の回復も・・・。
「取りあえず、身体の方の具合をみてみよう」
「わかった。君は彼と親友だろう。できるだけ普段話すように話しかけてみてくれ」
 マイクは頷く。
「マックスの身体のチェックが終わったら、後で君にも容態を知らせるようにしよう」
「ああ、頼むよ」
 マイクとビクシーは互いに肩を叩き合うと、別々の方向に歩き始めた。
 マイクは、マックスのいるリハビリルームのドアをノックすると、「よう、マックス」と努めて明るい声をかけながら室内に入った。
「どうだ、具合。かなり痛んでき始めたろう、胸が」
 鎮痛剤が切れかけている頃だ。
 完全に折れた腕はがっちりとギブスで固めてあるが、胸部は呼吸をする度に痛むはずだ。
 骨にヒビが入る方が、ある意味始末が悪い。
 それでも呻き声一つ上げず、黙って座り込んでいるところを見ると、本当におかしくなってしまったのか。
 マイクは内心泣きそうになりながらも、普段の彼と何ら変わりのない笑顔でマックスの傍らに跪いた。
 「昨夜のテレビドラマでさぁ・・・」と普段するような意味のない話をしながら、マックスの顔の傷を見る。
 ガーゼを新しいものに取り替えながら、ちらりとマックスの表情を窺った。
 ビクシーが言う通り、マックスの瞳は、何も映していないようにみえる。
 マイクは、他愛のない話をなおも続けながら、脈拍を測るためにマックスの右手を取った。
 おや?と思う。
 ── 食事をまったくとっていない人間にしては・・・
 マイクがそう思った瞬間、マイクのその手を、マックスの右手がグッと握った。
 ギョッとしてマイクがマックスを見ると、マックスは瞬時にマイクに声を出さないように「静かに」と囁いた。
 マイクは口を開けたまま、2回大きく瞬きをした。
「・・・マックス・・・お前・・・」
 マックスは、部屋の窓ガラスの外を窺う。
 数人の看護師や患者が行き交っているのが見える。
「窓ガラスから見えないところに椅子を移動させてくれないか」
 耳元で囁くマックスに、マイクは頷いた。
「ここは日が当たりすぎて暑すぎるな。ちょっとあっちに移動しよう。さ、マックス、立って。歩けるだろう・・・」
 マイクは大きな声でそう言いながら、マックスを立ち上がらせ、椅子を部屋の隅に移動すると、マックスの手を取って、その椅子に座らせた。
 マイクは誰も部屋に入ってこないように入口のドアの鍵をかけると、壁に立てかけてあったパイプ椅子を取り、マックスの向かいに腰掛けた。
「どういうことだよ、マックス?! お前、大丈夫なのか?!」
「マイク、声が大きい」
 マイクが両手で口を覆い、首を竦める。
「・・・すまん。でも・・・」
 マイクは口をパクパクとさせた。手は頼りなく宙を泳いでいる。
 マックスはその手を右手で力強く握った。
「心配かけたな。ごめん」
 マックスが苦笑を浮かべる。
「お前・・・芝居だったのか?」
 マックスは頷く。
「ちょっと事情があってね。俺なりに考えを整理する時間がほしかったから・・・。混乱した状態で警察と話をしたくなかったんだ」
「どうして・・・・。あ・・・ひょっとして・・・」
 マイクは、いつかの夜、偶然出会ったマックスとマックスの連れだった黒服の紳士を思い出していた。
 マックスが意識を回復した後、病室で騒ぎを起こしたこともマイクの耳に入っている。そして、マックスが今一番大切に想っている人が、彼だと言うことも。
「彼か・・・。彼が何か関係しているのか、今度の事件に・・・」
 マイクにそう言われ、マックスは目を伏せた。
「俺にも事情はよくわからないんだけど・・・。でも誓ってもいい、彼は被害者なんだ。彼が悪いんじゃないんだよ」
 マックスは真摯な瞳でマイクを見る。「そんなこと、わかってるよ。お前が好きになった人だろう」とマイクは返した。
 マックスは少し驚いた顔でマイクを見る。
 マイクは照れ臭そうに天を仰いだ。
「メアリーがさ、言ってたんだよ。マックスは、やっと自分から愛することのできる人に出会えたんだって。そのことが嬉しいんだって言ってた。それがまさか、あの紳士のことだとは、俺も驚いたけどな」
「・・・ごめんな、びっくりしたろ? 俺だって正直、自分が同性相手にそんな感情を持つなんて思ってもみなかった。けど、理屈じゃないんだ」
 マイクは、病院の中庭が見える窓の外を眺め、ぼんやりと言う。
「何となくだけど・・・。お前の気持ち、わかるような気がするよ」
「え?」
 今度はマックスがマイクの顔を覗き込む番だった。
 マイクは溜息をつくと、マックスに向き直る。
「いやさ、お前、小さい頃に両親亡くしてるじゃん。俺も、父親を早くに亡くしてるの知ってるよな」
「ああ・・・」
「どことなくさ、そういうの、求めてしまうのかもしれないなぁと思ってさ。それにあの人、どことなく傍にいてあげたくなるような雰囲気、持ってるしな・・・」
 マイクが突然そんなことを言い出したので、マックスは苦笑いをする。
「おいおい、マイク・・・」
「いや、俺はメアリー一筋だよ。誤解すんなよ。たださ・・・。お前が病室で騒ぎを起こした日の前の晩、お前の病室の前で立ってるあの人を見たんだ」
 マックスの顔から笑顔が消える。
 マイクは俯いて、指でせわしなく膝を叩きながら、先を続ける。
「お前にこんなこと言うのは、酷かもしれないけどな・・・。あの晩、あんまり根を詰めすぎるとよくないから、仮眠室に案内しようかと思ったんだ。声をかけようと近づいたけど・・・、あの人、泣いてて。ひとりぼっちで泣いてて・・・。包帯だらけのお前の姿見ながら、大の大人が、顔をくちゃくちゃにしながら泣いてた。そして呟くんだ。愛してる・・・愛してるって・・・・。俺・・・とてもじゃないけど、声、かけられなかった」
 マックスの目が見開かれる。その大きな瞳から、ぽろりと涙が溢れ落ちた。
 マイクは、そんなマックスを見上げた。
「お前、本当に愛されてんだなぁと思ってさ。その後、お前が病室で大騒ぎしたって聞いて、お前が本気なのも痛感した。気が変になっちまうのも、当たり前だって思ったさ。・・・でも実際は、俺が思ったより、どっかの誰かさんはタフだったみたいだけど」
 マイクの最後の台詞にマックスは涙ぐんだまま、そしてマイクは口を尖らせたまま、笑い合った。
「馬鹿、泣いてる暇があるか。お前、本当に心底愛されてんだぞ」
「ホント、そうだよな」
 マックスは、ズズズと洟を啜りながら、指で鼻の下を擦った。
「で、これからどうするつもりなんだ?」
「ああ・・・・」
 マックスは、マイクの頭に、更に自分の頭を近づける。
「警察は、犯人逮捕に躍起になっている。彼らのことだ。ジムのことを知ったら、彼らがどう出るかわからない。彼を守りたいんだ。どうしても」
「それで?」
 マイクはもう、学生時代を彷彿とさせるように爛々と輝く目で、マックスを見つめている。
「とにかく、早く病院を抜け出したい。レイチェルが持っている手がかりを元に、情報を集めていきたいんだ。俺はあまりにも愛する人のことを知らなさすぎた。そんなんじゃ、彼を守ることはできない」
「しかし、その身体で病院を抜け出すには・・・」
 マイクが、苦虫を噛んだような表情を浮かべる。
「だから、マイクに協力してもらいたいんだ。悪いけど、食事は病院食とは別に用意して食ってる。嫌というほどね。栄養を取ったら、後はリハビリだ。とにかく身体を動かしたい。だが、警察の手前、昼間人目があるところでひょこひょこ動くわけにはいかないから、昼間寝て過ごして、夜にリハビリを行いたい。作業療法士のケリーを巻き込んで欲しいんだ。彼女のリハビリはハードだけど、一番効くって知ってるからね。彼女は口も堅いし。お前とも仲がいい」
「それを言うなら、お前とも仲がよかっただろう?」
「イヤミを言うなよ」
 いまだにマックスが病院を辞めたことに対して異論を唱えているマイクである。
 だがマイクは、マックスの申し出を快く引き受けた。
「おい、ただし条件があるぞ」
 マイクは、自分の椅子を元のあった位置に返しながら言った。
「可能な限り、俺もそのリハビリに参加する。ケリーはプロだからお前に無茶な真似はさせないと思うが、お前がどう出るかわからん。主治医として、あまり無茶されるとマズイからな」
「はいはい。わかりました、先生」
 マックスがおとなしく従うと、「よもやお前が、俺の患者になるとはな・・・」とマイクは溜息をついたのだった。
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