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第1話 佐藤裕二(1)
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今日のBGMのループは、これで何度目だろうか。
最近流行りの楽曲が、今日も必死に ”愛” だの ”恋” だの、を叫んでいる。
———そういえば、明日はクリスマスイヴか。そんなことを思い出して、俺は大変うんざりとした気分になる。
手元に持っていた粉末で作る栄養ドリンクの商品箱をその場に投げつけたくなる。そんなことを考えた時、自動ドアが開いてお客が来たことを告げる効果音が鳴った。俺は投げつけようとした手元の商品箱を持つ手を、慌てて引っ込める。
「いらっしゃいませ~」
俺の気だるげな声に、入店した客はこちらを見ることもなく、カツカツと高いヒールの音を鳴らして奥へと入っていく。———ああいう客は、直ぐに目当ての物だけを選んで、レジに並ぶだろう。俺はそんなことを考えながら、手元の商品をのんびりと棚へと並べていく。
この商品を並べたら、ぼちぼちレジのサポートに入るとするか。
「あの、佐藤さん」
その時、背後から今日のバイトに声を掛けられた。
「品出しもうすぐ終わるなら、すぐレジ入ってもらえますか?」
「あー、はいはい」
俺の適当な返事に、バイトは不満そうな顔を隠さずにそそくさとレジへと戻っていく。
バイトの名前は重野さん。確か半年くらい前に入った女子大生だ。
レジの方に目を向けると、そこには複数の客が並んでいて、重野さんは一瞬だけレジを抜けて俺に声を掛けてきたようだった。
何年も仕事をしているというのに、大した仕事をこなさない俺に不満が駄々洩れ———きっと、そんなところだろう。別にそんなことに苛々するほどの気持ちも、もう持ち合わせていないのだが。
ここで正社員となって、もうすぐ丸5年経つ。アルバイト先だったこのドラッグストアで延長線のように、俺はそのまま社員となることを選んだ。
当たり前のように白を基調としたこの店は、うんざりとするほど清潔さに満ち溢れている。別に俺が居ても居なくても、この店は永遠にこのままだろう。
俺は大きくため息をついて、明日のクリスマスイヴは何をするか、ということに心を傾けることにした。その間にも一応、まあ手は動かしておく。
仕事の後の予定はもちろんない。最近気に入っているyoutuberのチャンネルを見るとしようか。クリスマス特別企画を確かやると言っていた。お供は無難にビールとチキンかな。でも、チキンはきっと今からじゃもう買えないか。
———結局、いつもとやることは変わらない。そうやって俺は、毎日毎日ゆるい快楽に飲み込まれながら、静かに絶望へと落ちていくのだ。
そんな悲劇のヒロインぶった、無駄な自虐に浸っているところで、何やらレジから視線を感じた。目を向ければ先ほどの重野さんが、俺を睨みつけている。
(へいへい)
俺は心の中でそう呟いてから、並べ終えた商品を満足に一瞥した。レジにはいつの間にか5,6人が並んでいて、重野さんが必死に捌いている。俺は店員用のカウンターを通り、彼女の奥を通り過ぎて、横のレジに並んだ。
「すいませんー、お次の方、こちらどうぞ」
俺が次の客へと声を掛けると、自分と同じ30くらいの男性がこちらへと並び、カゴを置いた。俺は無言でカゴの中の商品を一つ一つ手に取ってスキャンして読み取っていく。
あーあ、今日はさっさと上がって、明日に備えてビールを買い占めよう。そんなことを考える。
そう、今日も何も変わらない日々のはずだった。
「裕二?」
「……え?」
制服のネームプレートには俺の苗字である「佐藤」としか書かれていない。ということは今、目の前にいる客は俺の知り合い————。
俺は手元の商品を置いて、顔を上げる。
「やっぱりそうだ! 裕二だよな!? 俺の事わかる? 高校の時一緒だった、孝也。江口孝也!」
「……あ」
そう、そこにいた客は、紛れもなく高校の時の同級生。
俺が今人生で最も会いたくない人物————当時、好きでどうしようもなかった江口孝也、本人だった。
最近流行りの楽曲が、今日も必死に ”愛” だの ”恋” だの、を叫んでいる。
———そういえば、明日はクリスマスイヴか。そんなことを思い出して、俺は大変うんざりとした気分になる。
手元に持っていた粉末で作る栄養ドリンクの商品箱をその場に投げつけたくなる。そんなことを考えた時、自動ドアが開いてお客が来たことを告げる効果音が鳴った。俺は投げつけようとした手元の商品箱を持つ手を、慌てて引っ込める。
「いらっしゃいませ~」
俺の気だるげな声に、入店した客はこちらを見ることもなく、カツカツと高いヒールの音を鳴らして奥へと入っていく。———ああいう客は、直ぐに目当ての物だけを選んで、レジに並ぶだろう。俺はそんなことを考えながら、手元の商品をのんびりと棚へと並べていく。
この商品を並べたら、ぼちぼちレジのサポートに入るとするか。
「あの、佐藤さん」
その時、背後から今日のバイトに声を掛けられた。
「品出しもうすぐ終わるなら、すぐレジ入ってもらえますか?」
「あー、はいはい」
俺の適当な返事に、バイトは不満そうな顔を隠さずにそそくさとレジへと戻っていく。
バイトの名前は重野さん。確か半年くらい前に入った女子大生だ。
レジの方に目を向けると、そこには複数の客が並んでいて、重野さんは一瞬だけレジを抜けて俺に声を掛けてきたようだった。
何年も仕事をしているというのに、大した仕事をこなさない俺に不満が駄々洩れ———きっと、そんなところだろう。別にそんなことに苛々するほどの気持ちも、もう持ち合わせていないのだが。
ここで正社員となって、もうすぐ丸5年経つ。アルバイト先だったこのドラッグストアで延長線のように、俺はそのまま社員となることを選んだ。
当たり前のように白を基調としたこの店は、うんざりとするほど清潔さに満ち溢れている。別に俺が居ても居なくても、この店は永遠にこのままだろう。
俺は大きくため息をついて、明日のクリスマスイヴは何をするか、ということに心を傾けることにした。その間にも一応、まあ手は動かしておく。
仕事の後の予定はもちろんない。最近気に入っているyoutuberのチャンネルを見るとしようか。クリスマス特別企画を確かやると言っていた。お供は無難にビールとチキンかな。でも、チキンはきっと今からじゃもう買えないか。
———結局、いつもとやることは変わらない。そうやって俺は、毎日毎日ゆるい快楽に飲み込まれながら、静かに絶望へと落ちていくのだ。
そんな悲劇のヒロインぶった、無駄な自虐に浸っているところで、何やらレジから視線を感じた。目を向ければ先ほどの重野さんが、俺を睨みつけている。
(へいへい)
俺は心の中でそう呟いてから、並べ終えた商品を満足に一瞥した。レジにはいつの間にか5,6人が並んでいて、重野さんが必死に捌いている。俺は店員用のカウンターを通り、彼女の奥を通り過ぎて、横のレジに並んだ。
「すいませんー、お次の方、こちらどうぞ」
俺が次の客へと声を掛けると、自分と同じ30くらいの男性がこちらへと並び、カゴを置いた。俺は無言でカゴの中の商品を一つ一つ手に取ってスキャンして読み取っていく。
あーあ、今日はさっさと上がって、明日に備えてビールを買い占めよう。そんなことを考える。
そう、今日も何も変わらない日々のはずだった。
「裕二?」
「……え?」
制服のネームプレートには俺の苗字である「佐藤」としか書かれていない。ということは今、目の前にいる客は俺の知り合い————。
俺は手元の商品を置いて、顔を上げる。
「やっぱりそうだ! 裕二だよな!? 俺の事わかる? 高校の時一緒だった、孝也。江口孝也!」
「……あ」
そう、そこにいた客は、紛れもなく高校の時の同級生。
俺が今人生で最も会いたくない人物————当時、好きでどうしようもなかった江口孝也、本人だった。
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