66 / 75
第4章 魔女の館と想いの錯綜
2階(4)
しおりを挟む————どういうことだ?
ユウリがサムの石を奪っていない?
だけど確かに、サムの腕輪に石は無かったはずだ。
「ユウリ……? 本当にサムの石は奪っていないのか?」
「……うん、おにぃに嘘は言わないよ」
ユウリの瞳には、一切の曇りが見られなかった。
その表情から、とても嘘を言っているには思えない。
————だとすれば、他の誰かが奪った?
ラルフ————は考えにくい。
サムは何かを飲まされて気を失い、気づいたら地下2階に居たと言っていた。
ラルフが他人に薬を仕込む、という芸当を取るようには思えない。
ならばギルバート————?
しかし武器庫の中で、サムの石はユウリに取られたと俺が話した時も、全く動じていなかった。
いや、それすらも演技という可能性もあるが————。
確かに真実を知った後でも、俺の石を奪い取ったこともある。
今でも石を集めて魔女に会う権利を狙っているという可能性も————。
「……ギルバートが、サムの石を奪ったのか?」
俺がそう呟くと、ユウリが「んー……」と考え込むように、細い顎に右手を乗せた。
「ねぇ、あの人はおにぃになんて言ったの……?」
「あの人って……サムのことか? 確か……」
ラルフと共に地下2階に落ちた時の事を思い出す————。
俺はサムの膝の上で目を覚ました。
それからラルフの石をユウリに奪われた地下1階での一連の出来事を説明したはずだ。
そのあとで、サムは確かこう言っていた————。
「……地下1階の迷路でさまよっているうちに、突然後ろから何かを飲まされて気を失った。気づいたら地下2階フロアにいて、その時には石は無くなってた。……と、そんな感じだったと思う」
そういうとユウリはすぐにピンと閃いた顔をして、それから「……ふうん」と一言呟いた。
「それ……ボクがラルフさんの石を奪った話をした後にしたんでしょ」
「……た、確かにそう、だな」
「……なら、おにぃの話を利用されたんだよ」
「利用……?」
その時、ある可能性が————頭に過る。
まさか————。
「……サムは石を奪われた、と俺に ”嘘を吐いた” のか?」
するとユウリは「ごめ~と~☆」と俺を見て、嬉しそうに手を叩いた。
静かな空間にパチパチと、ユウリの拍手の音が響く。
「魔女さんが用意したゲームは5つの石を集めること、だったよね。一つでも欠けたら、たとえ4つ持っていても意味がない。だから、このゲームで一番有利なのは……自分しか知らない場所に石を隠すこと。……ボクとおんなじ考えだよ」
ユウリは「ふふん!」とまるで探偵気取りのように、顎に手を当てる。
そして楽しそうに俺の周りをくるくると、ゆっくり歩き回っている。
「あの人は後ろから何かを飲まされて……て、言ったんだよね。ラルフさんの石を奪った後ならボクに間違いなく疑いが向く。でも、もしかしたらボクじゃないかもしれない。……誰が取ったかはわからない。……少なくとも、もう自分の手元に石がないと皆に思わせることで、自分の身を守ることにしたんだ」
「そうか……なら、全て辻褄が合う」
しかし、俺にはどうしても一つ引っかかることがあった。
サムが俺に嘘を言った事が————今まで、思い当たらなかった。
サムは————いつだって、真正面から俺と向かい合ってくれた。
なのに————サムに嘘を吐くのは、俺の方だった。
「……でも、サムは嘘を言うような人間じゃないんだ」
するとカツカツと地面を鳴らすユウリの足音が、ピタリと止んだ。
「……それだけ、本気ってことでしょ」
ユウリがいつにない真剣な声音で、天井を見上げながら、そう呟いた。
「……」
————俺の呪いを解くために、サムは俺に初めて嘘を吐いた。
————真実を知らないのは、もう、サムだけだ。
「早く……サムを探さないと」
するとユウリは小さくため息をついて、「はーぁい」と面倒くさそうに言った。
「ボクも手伝うよ。……もう石が必要なくなったって、なんだかおにぃ以外の人に集められるのは不愉快だから」
ユウリは不服そうに唇を尖らせていた。
俺は宥めようとユウリの頭に伸ばした手を引っ込めて、小さくお辞儀をした。
「ありがとう、ユウリ」
それを見たユウリは「……やめてよ、おにぃのバカ」と、俺から視線を逸らしそっぽを向いた。
「……じゃ、いこっか」
俺は仕方なく、膨れるユウリを横目に、部屋から出るためにドアノブに手をかけた。
しかしその扉を開いた先には————先ほど見た景色ではなかった。
目の前に広がるのは巨大な茶色の壁であった。
「あれ……?」
俺は部屋の外に一歩出る。
それから左右を見渡すと————突き当りが見えないほどに、長い、長い廊下が広がっていた。
「……どういうことだ?」
————これも魔女の館のカラクリ、なのだろうか。
————その時、後ろでギィ、と何かが軋んだ音がした。
「おにぃ!!」
————背後で、ユウリの声が聞こえた。
バタン————!
後ろで、強くドアの閉まる音がした。
「!?」
俺は咄嗟に後ろを振り向くと、今出たはずの扉が閉まっているのが目に入った。
ユウリの姿はそこに、ない。
「ユウリ!」
俺は慌てて今出た扉を開くと————元居たはずの部屋はすっかりなくなっていた。
そこは、全く別のがらんどうの部屋だった。
「……参ったな」
その時、どこかで聞いたような「フフフ……」という笑い声が、遠くから聞こえた気がした。
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる