魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ

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第4章 魔女の館と想いの錯綜

魔女とのゲーム(2)

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「……アナタたちの左腕に、”腕輪” がついているのがわかるかしら」

その言葉に全員が左の手首を見つめる。
確かにそこには見覚えのないシルバーの腕輪がついていた。

―――いつの間に、こんなものがついていたのだろうか。

「アナタたちを眠らせている間に仕込ませてもらったわ」
「!」

腕輪をよく観察する。
表面がつるりとしたメタリックで、やや厚みがある。
そして真ん中の穴に、赤い石が1つ埋め込まれていた。
同じくらいの穴が他に4つ―――計5つあり、赤い石は別の穴にも入りそうだ。

「……」
「……」

次にみんなが顔を見合わせた。

おそらく考えている事は皆同じだろう。
どう考えても意味深すぎる。
腕輪の穴は5つ、そしてここに居る全員は5人。

「みんなも石がついてる……のか?」

俺が尋ねると、みんなは直ぐに頷き、口々に石の”色“を呟いた。
サムは青、ラルフは緑、ユウリは黄色、ギルバートは紫、とそれぞれ違う色の石が1つずつ腕輪にはつけられているようだ。

状況を確認していた時、頭上で魔女の少し不気味な笑い声が聞こえた。
この状況が面白くてたまらないのだろう。
文句の一つも言いたい。
しかし、そういうわけにはいかないのだ。
俺は今もなお心臓がドクドクと波打つのを感じていた。

「……察してくれたかしら☆ ルールは簡単よ。今から全員で闘ってもらうわ」
「!」

一斉に全員が息を呑む。

「闘う……って、なんだよそれ」
そう呟いたのはサムだ。

「闘うって言っても、やり方は様々でいいわ。4階にあるワタシの部屋に入るには、腕輪に赤、青、緑、黄色、紫の合計5つの石をはめる事が必要なの。……つまり腕輪についた石を奪い合って5つを集めた、ただ1人……だけが本物のワタシに会えるの」

みんなが顔を見合わせる。

「どう? 面白いでしょう☆」

―――魔女に会うただ1人を決める。

それなら、話し合って決めることもできる―――そう思って皆の顔を見た。
しかし安心の表情ではない、曇った表情が目にとれた。
そこからは、少しばかり ”疑心” それから ”固い決意” のようなものが感じられた。

もしかしたら。
それは ”自分こそ” が俺の呪いを解いて、俺を助ける。
そういう意思の表れかもしれない。
なら、それは―――嬉しいことだと思う。

だけれども、そうじゃないのだ。
俺は誰よりも魔女に先に会って、このバカバカしいゲームを中断させなければならない。
俺は勝たなければならない。

「なぁ……」

様々に思案している中で、飛び込んできたのはギルバートの声だった。
ギルバートは、サム、ラルフ、ユウリの3人よりも幾分か冷静そうに見えた。

「俺らには危険を冒してまでもこの石を奪い合う意味がない。そのルールで言うなら。……そうだな。例えば、今ここで ”俺” が全員分の石を集めてお前に会うというのでも構わないはずだが」

その発言に明らかにユウリがキッとギルバートを睨んだのがわかった。
その問いはまさしく俺が先程思った内容だった。

「話合いで決める……てことね。そう、ルール上に問題はないわ。でも果たして、そこの可愛い子ちゃんは納得するのかしら。呪いを解く役目を……そこの男を助けられる大事な役目を…… ”何もせず” ただ明け渡しちゃうなんて」

その言葉にユウリの血の気が引いていくのがわかる。
俺は今にも倒れそうだった、ユウリの小さな肩を両手でしっかり押さえた。

「それに一番強くて賢い人が来た方が、ワタシを倒せるかもしれないでしょう? 力試しもせず、アナタ1人に大事な石を預けるだなんて。そこの男1人守れない ”何もできない無能” ……と自分で言っているようなものだわ」

その言葉に今度はサムとラルフの顔が赤くなるのが分かった。

―――そんな分かりやすい挑発に乗ってしまうものなのか。

もしくはこの言葉にも、誰かを洗脳するような力があるのだろうか。

それとも―――

ギルバートが大きなため息を吐く。

「……分かった。ようはお前が楽しみたいだけ、ってことか」
「ウフフ☆ ……本当にアナタは賢いわね。ペットにして、檻の中で従順になるまで飼いならしたいわ」

その言葉にギルバートは心底軽蔑した、というような目を向けた。
それを見た魔女が、今度はうっとりするような吐息をはいた。

「その冷たい目線もステキ。……まぁそもそもねぇ。こんなにお膳立てをしたのに、話合いで、はいおしまい☆ じゃワタシも萌えないわ。気分が乗らなければ、扉を開けても会ってあげないだけだもの」

「お前は……」
俺がそう口を開きかけた、その時だった。

「アナタと口を利く気はないわ。いい? ワタシは "お膳立て” をしたと言っているの。その意味を考えて」
「え……」

それを見たギルバートは不思議そうな目を向けた。
他の3人は既に何かを思案しているように、虚空を見つめている。
魔女は次に3人に目を向けてからこう話した。

「そんな怖い顔をして。……大丈夫よ。もしも本物の殺し合いをしようとしても、死ぬ間際でワタシが助けてあげるわ」

その言葉にサムが突然ピクリと動く。

「……エルの命を奪っておいて、そんなこと信じられるかよ!」

大広間に怒声が響いた。
魔女は少し考えたように、ふぅんと声を漏らした。

「奪った……そうね。まぁそうかしら。信じないなら、それでもいいわ」

その言葉に全員が黙る。

「もう無駄話は良いかしら。……このゲームのリミットはこの時計の針がてっぺんに来るまで」

そういって指さした大広間中央にある大きな時計。
時計は12時を少し回ったところを指している。

「それからこの城の中には様々なワクワクする罠やおもちゃがたくさんあるからね☆ 楽しんでね☆」
「待っ……」

俺が止めようと声をかけた。
しかし空中を見つめると、魔女は既に空中から姿を消していた。

皆を見回すと、サム、ラルフ、ギルバートは魔女の消えた空中を見つめている。
ユウリは先程まで魔女の姿があった場所も見ずに、1人下を向いていた。

「まず作戦を……」

そう俺が呼びかけようとしたその時だった。

(始めましょう、このゲームを―――)

突然、ふわりと宙に浮かぶ感触がした。

「!」

―――いや

―――地面が、消えた?

それに気づいたその瞬間。
同時に落ちていくみんなの姿が少し見えて、

そのまま俺は気を失った。
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