魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ

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第3章 闘技場とハーレム

真実の鏡(2)

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そう、そこに現れたその人物は―――写真の通り。
俺の姿にそっくり、といって過言ではなかった。

「おかえり、」

ギルバートは穏やかな笑みを浮かべていた。
それは今まで見たことのないほど、甘い、ギルバートの表情だった。

「ブルーノ」

―――ブルーノ?

ブルーノと呼ばれた俺に似た青年が微笑む。

「ただいま。ギル」

その青年にも俺の姿はやはり見えていないようだった。
やはり、ここは鏡の映し出す過去であるようだ。
とすればこれは、過去に本当に起きていた出来事を覗き見ている―――ということになる。

「すぐ飯にするから、待ってろ」

ギルバートが言う。
さっき持っていた白い袋は今晩の食材なんだろうか。

それにしてもギルバートが料理をするとは意外だった。そんな姿を見たことはない。
確かに調理器具は充実していたけれど、俺が来てからは申し訳なさもあり、食事はほとんど俺が準備していた。

「いや、いいよ。それより……」

すると青年が、言い淀んだ。
下を向いて肩を上げると、少しもじもじとした仕草をしている。
その仕草に違和感を覚えた。

―――やっぱり、俺じゃない。

確かに顔立ちは正直よく似ていて、パッと見ると俺ですら一瞬見間違いそうになる。

しかし横に並んでみると、俺よりも更に少し身長が小さい。
それに顔の右頬の方に俺にはないホクロがある。
そして第一、そんな仕草を俺はやらないな、と思った。

「僕が勝ったんだ、だから……」
「だから……?」

ギルバートが意地の悪そうな顔を浮かべる。
その表情を見たことはあるような気がした。
だけど、それはこんなにも甘かっただろうか。

―――すごく楽しそう、だった。

一方、青年はそんなギルバートを見て絶望した表情をしている。

「……冗談だ。お前は、本当に甘えん坊だよな」

あ、甘えん坊―――!
ギルバートの口から、そんな甘い言葉が聞こえてきて、思わず俺は頭がクラッとする。

ギルバートはブルーノの右腕をガシッと掴むと、リビングを出る。
廊下の一番奥―――そこは、ギルバートの部屋だ。
2人は部屋の扉を勢いよく開け、中に入る。

俺は良くないと思ったが、部屋を覗き込まずにはいられなかった。

さっきも捜索した時に違和感があった。
ギルバートの部屋には、今はなかったはずの大きなベッドがあった。

そしてその目に飛び込んできた光景は。

ベッドの上で、その青年の上に覆いかぶさるギルバートの姿だった。
その肌にビシビシと伝わってくる甘い雰囲気に、思わず一度手で目を塞いだ。

「やっぱりお前には、今年も敵わなかったな」
「でも、僕はギルとの試合が一番……刺激的、だったよ」



―――ギルバートは、このブルーノという青年と恋人だったのだ。

―――俺によく似た、その青年と。



これ以上、見ているのは野暮だなと思い、俺は2人に背中を向け部屋を出ようとした。

「……どう、すれば……」

その時、背後から囁くほどのか細い声が聞こえた。
その声音が震えているように聞こえて、思わず振り返る。

ギルバートは上体を起こしていて、両手を青年の顔の脇に置いている。
そして仰向けのままの青年を見下ろしている。

2人の視線が真正面から、ぶつかり合う。

「どうすれば……お前に、勝てんだよ」

ギルバートの声は震えていた。
すると青年が自身の右手を上げ、ギルバートの左頬に触れた。

「ギルはね……優しいから。僕相手に私情を捨てきれない。……だから、一瞬の隙ができる」
「……隙?」

「そう、今日の試合。相手が僕じゃなければ、ギルは勝ってたよ。……最後に飛ばしたあの魔法、ギルの全力じゃなかった」
「いや、そんなつもりは」
「……うん、わかってる。わざと手を抜いたなら僕だって怒ってるさ」

2人の間に少しばかりの沈黙が流れる。
しかし、視線は2人とも、ずらそうとはしない。

―――4年前の今日ということは、その試合は魔術闘技祭の決勝戦だったのだろう。
そして試合はブルーノ対ギルバートで行われ、ブルーノが勝った。

「でも、僕相手に躊躇したってことはさ。ずるい言い方だと思うけど……僕を……好きだ、ってことでいいんだよね」
「……」

その言葉にギルバートの肩が震える。
青年がギルバートの頬に触れた手にゆっくりと力を込めていくのがわかる。


「だから……君の勝ちだよ」


2人の顔の距離が、近づいていく。




―――これ以上、人の心を覗いてはいけない。




「戻してくれ」

気付けばそう声に出していた。
瞬間、視界が真っ白に覆われて、眩んだ。







気が付けば、そこは自室だった。
床には、粉々に砕けた鏡の破片が散らばっていた。

「あ、鏡が……」
「……見た、のか」

その声に驚いて後ろを振り向くと―――ギルバートがいた。
今日一晩闘技場で泊まって帰ってこないはずの、ギルバートが。



《魔術闘技祭は、3年前からギルバートが連覇してる》

《それまでは別の人が連覇してたんだ》

《その人は亡くなったんだ―――》


―――準決勝で相手をした人の言葉を思い出す。
―――それが本当なら。


《それよりお前、魔術闘技祭に出ろ》

《お前がすぐ負けて、それで笑ってやるつもりだった》

《これ以上、俺を……惑わせないでくれ》




《本気で……来いよ》




―――そして今までのギルバートの言葉を思い出す。



目の前に立っているギルバートの顔は、無表情で感情を読み取れなかった。

ただ4年前のその姿より―――少し大人になったんだな、と思った。
眉間の皴は深く刻み込まれていた。
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