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第3章 闘技場とハーレム
ラルフとデート(3)
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頭がふわふわとしていた。
足取りは覚束なくて、肩と首に感じるモフモフとした毛皮のような感触が気持ち良くてたまらなかった。
俺は気付けばベッドに寝転がされていた。
「まったくオメェは……明日もあるから、飲み過ぎるなっていったのによォ」
頭がどうにも重くて、うっすら目を開けるとベッドの端に座るラルフの姿があった。
「……」
―――ああ、そうだ。
俺は久しぶりにラルフと、もっと話がしたくて、飲みに誘ったんだ。
そこで、俺は久しぶりの自由な時間が嬉しくて、ついつい飲み過ぎてしまった―――。
「……じゃァな、今日はゆっくり休めよ」
そう言って、ラルフはベッドの端から立ち上がろうとする。
その腕を、つい、思いっきり引っ張ってしまった。
「ウォッ!?」
ドンとベッドが揺れて、頭にビリビリと振動が響く。
ラルフは体勢を崩して、俺が寝転ぶ横に投げ出される。
「ヘヘヘ」
俺はラルフの顔が見たくて、横を向く。
するとラルフの顔が至近距離にあった。
ラルフの白い毛並みと髭、そして青く透き通った瞳が間近で見える。
「……かっこいいな」
俺はそう呟くと、ラルフは顔をしかめた。
「かっこいいよな、ラルフ」
そう言って、俺はついラルフの顔に手を当てようとした。
―――その瞬間、その手をバンッと強くはじかれた。
その衝撃に驚く。
はじかれた手がビリビリとする。
急に視界が、クリアに見えていく、そんな気がした。
「……やめてくれ」
そう言ってラルフは自分の顔を手で覆う。
そして少し手を開いて、その隙間から俺の顔を覗いた。
―――俺はその瞬間、どんな顔をしていたんだろう。
ちょっと傷付いた顔をしていたのかもしれない。
途端にラルフが慌てた素振りをした。
「エ、エル! ……すまん、そういうんじゃねェんだ」
するとラルフはベッドに座り直す。
そして寝転がる俺の顔を見下ろした。
「そういうんじゃ……ねェんだ」
ラルフは真剣な顔をしていた。
火照っている自分の顔の熱が、急速に落ち着いていくのがわかった。
その時、ラルフがふと何かに気づいたような表情をした。
その視線が一点に集中する。
「オ、オメェ……これは」
ラルフは俺の胸に手を伸ばし、ペンダントを手に持った。
普段は首から下げて服の中に入れているのだが。
―――ベッドに倒れた時の衝撃だろうか。
ペンダントは服の外に出ていた。
「ヒビが入ってやがる」
「え、本当か?」
俺もベッドに座りなおすと、手元にペンダントを持った。
紫色の水晶の欠片は、いつも通り輝いている。
しかし先端の方から中央に一筋のヒビが入っているのがわかった。
―――気づかなかった。
顔を上げると、ラルフの顔が思ったよりも近い位置にあって俺はドキッとする。
眉と目が垂れ下がって、今にも泣きそうなラルフの表情が、薄暗い部屋の中でもわかった。
「……オレはな。あの日からオメェに命を捧げるって決めたんだ」
「あの日……?」
ラルフは再びベッドの端に座り、俺に背を向けた。
「……ああ。オメェがオレの身代わりになってよ……それから」
「それから?」
「……オレを普通の、奴だ、って言ってくれた日だよ。……覚えているか?」
「……ああ。もちろん」
―――部屋の中は、より一層の静寂に包まれる。
「この1ヶ月、オレはこの村をあちこち駆け回った。でも結局オメェを助けられる情報は見つけられなかった。オメェのために……何か、したくて……オレは、オメェを助けたくて……」
ラルフが少しずつ泣き声になっていくのがわかった。
「なァ、オレはどうしたら……」
その声を聞いているのが少しずつ苦しくなる。
「ラルフ」
俺はラルフを後ろから優しく抱きしめた。
「ありがとな」
「……」
ラルフはもう、反発をしなかった。
全身に感じる、ラルフの背中はとても温くて、心地良かった。
「……わからねェんだ」
小さな声がした。
朦朧としていた頭では聞き逃してしまいそうなほど、か細い声だった。
俺は、その声を本当にラルフが発したのか、耳を疑っていた。
「オメェへのこの気持ちがなんなのか、わからねェんだ」
薄暗い部屋の中で、囁くように声は続いていく。
「……オレには、わからねェんだ」
部屋を照らすロウソクの火が揺れているのが目に入る。
「だから、今はオメェを守る騎士なんだって……そう思わせてくれ」
「……オレは獣でさ、騎士なんてかっこいいもんじゃねェけどな」
「……でもオメェのためだから。絶対オメェを……死なせねェから」
バタン!
瞬間、今までの静寂を破る大きな音がした。
驚いて後ろを振り向くと、そこにはギルバートの姿があった。
「何して……」
急速に頭の熱が冷めていく。
今、俺はベッドの上で後ろからラルフに抱き着いている。
その事実に突然焦り、勢いよくベッドから立ち上がる。
「いや! これは違うんだ!」
俺はなんとか弁解しようと、手をバタバタと動かす。
―――なぜ今ギルバートがやってきたのだろう?
そう思い、部屋の時計に目を向けると22時を少し回っていることに気づいた。
「あ! もう約束の時間を過ぎてたな! ご、ごめん」
「いい!」
すると目の前のギルバートから鋭い声が発せられる。
「今日は……来なくていい」
そう言ったギルバートの顔は、今までに見たことがなかった。
―――ひどく傷付いた顔をしていた。
そしてギルバートは俺に背を向けると、部屋を出て行く。
静かな部屋の中には、扉が閉まる、キィと軋んだ音が響いた。
足取りは覚束なくて、肩と首に感じるモフモフとした毛皮のような感触が気持ち良くてたまらなかった。
俺は気付けばベッドに寝転がされていた。
「まったくオメェは……明日もあるから、飲み過ぎるなっていったのによォ」
頭がどうにも重くて、うっすら目を開けるとベッドの端に座るラルフの姿があった。
「……」
―――ああ、そうだ。
俺は久しぶりにラルフと、もっと話がしたくて、飲みに誘ったんだ。
そこで、俺は久しぶりの自由な時間が嬉しくて、ついつい飲み過ぎてしまった―――。
「……じゃァな、今日はゆっくり休めよ」
そう言って、ラルフはベッドの端から立ち上がろうとする。
その腕を、つい、思いっきり引っ張ってしまった。
「ウォッ!?」
ドンとベッドが揺れて、頭にビリビリと振動が響く。
ラルフは体勢を崩して、俺が寝転ぶ横に投げ出される。
「ヘヘヘ」
俺はラルフの顔が見たくて、横を向く。
するとラルフの顔が至近距離にあった。
ラルフの白い毛並みと髭、そして青く透き通った瞳が間近で見える。
「……かっこいいな」
俺はそう呟くと、ラルフは顔をしかめた。
「かっこいいよな、ラルフ」
そう言って、俺はついラルフの顔に手を当てようとした。
―――その瞬間、その手をバンッと強くはじかれた。
その衝撃に驚く。
はじかれた手がビリビリとする。
急に視界が、クリアに見えていく、そんな気がした。
「……やめてくれ」
そう言ってラルフは自分の顔を手で覆う。
そして少し手を開いて、その隙間から俺の顔を覗いた。
―――俺はその瞬間、どんな顔をしていたんだろう。
ちょっと傷付いた顔をしていたのかもしれない。
途端にラルフが慌てた素振りをした。
「エ、エル! ……すまん、そういうんじゃねェんだ」
するとラルフはベッドに座り直す。
そして寝転がる俺の顔を見下ろした。
「そういうんじゃ……ねェんだ」
ラルフは真剣な顔をしていた。
火照っている自分の顔の熱が、急速に落ち着いていくのがわかった。
その時、ラルフがふと何かに気づいたような表情をした。
その視線が一点に集中する。
「オ、オメェ……これは」
ラルフは俺の胸に手を伸ばし、ペンダントを手に持った。
普段は首から下げて服の中に入れているのだが。
―――ベッドに倒れた時の衝撃だろうか。
ペンダントは服の外に出ていた。
「ヒビが入ってやがる」
「え、本当か?」
俺もベッドに座りなおすと、手元にペンダントを持った。
紫色の水晶の欠片は、いつも通り輝いている。
しかし先端の方から中央に一筋のヒビが入っているのがわかった。
―――気づかなかった。
顔を上げると、ラルフの顔が思ったよりも近い位置にあって俺はドキッとする。
眉と目が垂れ下がって、今にも泣きそうなラルフの表情が、薄暗い部屋の中でもわかった。
「……オレはな。あの日からオメェに命を捧げるって決めたんだ」
「あの日……?」
ラルフは再びベッドの端に座り、俺に背を向けた。
「……ああ。オメェがオレの身代わりになってよ……それから」
「それから?」
「……オレを普通の、奴だ、って言ってくれた日だよ。……覚えているか?」
「……ああ。もちろん」
―――部屋の中は、より一層の静寂に包まれる。
「この1ヶ月、オレはこの村をあちこち駆け回った。でも結局オメェを助けられる情報は見つけられなかった。オメェのために……何か、したくて……オレは、オメェを助けたくて……」
ラルフが少しずつ泣き声になっていくのがわかった。
「なァ、オレはどうしたら……」
その声を聞いているのが少しずつ苦しくなる。
「ラルフ」
俺はラルフを後ろから優しく抱きしめた。
「ありがとな」
「……」
ラルフはもう、反発をしなかった。
全身に感じる、ラルフの背中はとても温くて、心地良かった。
「……わからねェんだ」
小さな声がした。
朦朧としていた頭では聞き逃してしまいそうなほど、か細い声だった。
俺は、その声を本当にラルフが発したのか、耳を疑っていた。
「オメェへのこの気持ちがなんなのか、わからねェんだ」
薄暗い部屋の中で、囁くように声は続いていく。
「……オレには、わからねェんだ」
部屋を照らすロウソクの火が揺れているのが目に入る。
「だから、今はオメェを守る騎士なんだって……そう思わせてくれ」
「……オレは獣でさ、騎士なんてかっこいいもんじゃねェけどな」
「……でもオメェのためだから。絶対オメェを……死なせねェから」
バタン!
瞬間、今までの静寂を破る大きな音がした。
驚いて後ろを振り向くと、そこにはギルバートの姿があった。
「何して……」
急速に頭の熱が冷めていく。
今、俺はベッドの上で後ろからラルフに抱き着いている。
その事実に突然焦り、勢いよくベッドから立ち上がる。
「いや! これは違うんだ!」
俺はなんとか弁解しようと、手をバタバタと動かす。
―――なぜ今ギルバートがやってきたのだろう?
そう思い、部屋の時計に目を向けると22時を少し回っていることに気づいた。
「あ! もう約束の時間を過ぎてたな! ご、ごめん」
「いい!」
すると目の前のギルバートから鋭い声が発せられる。
「今日は……来なくていい」
そう言ったギルバートの顔は、今までに見たことがなかった。
―――ひどく傷付いた顔をしていた。
そしてギルバートは俺に背を向けると、部屋を出て行く。
静かな部屋の中には、扉が閉まる、キィと軋んだ音が響いた。
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