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第3章 闘技場とハーレム
第1回戦
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今日は魔術闘技祭の開催式、そして記念すべき俺の初戦の日であった。
闘技場はこの街の中心地に存在する。
年に一度の魔術闘技祭の時期は街全体を上げて、お祭りムードといった様子らしい。
街中にはあちこちに、色とりどりの旗が掲げられていた。
闘技場に到着すると、そこには出場者がほとんど揃っていた。
俺のナンバーは118で、ほぼ整列の後ろの方であったので、参加者は100人強の人数なのだろう。
出場者のほとんどは男たちのようであった。
この街が男ばかりというわけではなかったが、やはり危険な祭りということもあるからか、魔術闘技祭の女性の参加は例年少ないらしい。
「ちょっと……自信をなくすな」
集まった参加者たちは、見た目から自身が満ち溢れていて、この日を待ちわびていた、といった表情である。
闘技場は思った以上に広く、参加者全員が整列しても、グラウンドの中央に固まっている状態で十分すぎるほどの余裕がある。
そして観客席はぐるりと360度備えられている。
いったいこの闘技場全体で何人が収容できるのだろうか。
そんなことを考えていると、参加者全員の前に、長老と思しき魔術闘技祭の実行委員長が現れた。
「……では皆のもの! これより今年の魔術闘技祭を開催する!」
参加者全員、そして客席に座る観客たちが息を呑む。
一瞬で、闘技場全体は静まり返る。
「今年も精鋭の白魔術者を集めておる! まず死ぬようなことはないと思っていただきたい。そのうえで正々堂々と魔術の腕を競い合うように!」
そして改めて魔術闘技祭の概要、ルールが説明された。
魔術闘技祭は約1週間の期間、ずっと開催される。
試合はトーナメント方式で行われる。
一度でも敗退すればそこで挑戦は終了となる。
参加資格および条件はない。
ただし『魔術闘技祭』という名の通り、魔術の優劣を競い合うものである。
そのため魔術に匹敵するような闘い方が求められる。
「……優勝して俺は真実の鏡を手に入れる。そしてコルリに戻ってサムを探すんだ」
俺は小声で呟いた。
魔術闘技祭には、ここまでかなりの意気込みを持ってやってきたはずだ。
この闘技場の大きさや参加者に驚いていたのじゃ話にならない。
一ヶ月近くあの師匠と修行をしたのはもちろん自信になった。
だけど俺は、もういい加減サムに会いたくてたまらなかったのだ。
*
一回戦の相手は、いかにも自信ありげな青年だった。
俺の背中にある弓矢を一瞥すると、勝ちを確信したのかバカにしたように笑った。
「試合、始め!」
審判の掛け声に、相手は瞬時に詠唱を始める。
しかし、明らかにその速度は遅かった。
まずは簡単な魔術で相手を威嚇しつつ、隙をついて大きな攻撃を仕掛けるのが定石のはず。
俺は相手に当てない範囲で適当に弓矢を放ち、相手の気を反らしていく。
「……チッ」
作戦は成功して、相手はうまく詠唱を行えていないようだった。
その証拠に相手から飛んでくる火の魔術は、さっきからぷすぷすと煙ばかりで、俺の元に飛んでくるまでに鎮火ばかりしていた。
「……んなもん使うんじゃねぇよ!」
相手からは罵声が飛ぶ。
それに倣うように客席のあちこちからはブーイングが飛んできていた。
その原因が初めはわからなかったが、相手の言葉でピンとくるものがあった。
おそらく、俺が魔術を使わない武器でばかり闘うことが、この試合の趣旨に反すると言いたいようであった。
「……じゃもう待つ必要はないな」
俺は相手に数本の矢を放ちながら、距離を大きくとった。
そして一本をスッと構えると、一度目を閉じて、瞬時に意識を集中させた。
もうこの意識の集中のさせ方、そして魔力の込め方は完璧であった。
矢は赤い魔力を纏い、徐々にその存在感を増していく。
その様子がさっきまでと明らかに違うためか、観客からはざわめきが立っていた。
「……痛かったらごめんな」
そして俺は矢を放つ。
ヒュンと、一瞬空気を切る音がして。
矢は真っすぐと、相手の胸を貫いた。
「ああああああん!!」
相手は謎の叫び声をあげると、バタリと闘技場の床に倒れ込んだ。
俺はふう、と息を吐き、脱力をした。
流石にこの魔力の込め方は身体への負担があるのか、疲労を感じていた。
「勝者、エルネスト!」
「敗退者に、治癒を!」
そしてどこからか慌てて、治癒術師が現れる。
しかし相手は、どうやらまだ意識があったようで「うう……」とうめき声をあげながら、顔だけを俺に向けた。
その瞳には、先程とは違うギラギラとした光が宿っているのが確かにわかった。
俺がその顔を覗き込むと、突然相手はハァハァと息を切らして、瞳孔をカッと開いた。
「エ……エルネスト様ぁああ!! ど、どうか私を弟子に……! あっあっ……」
そう言うと、意識を失ったのか、再び顔をうずめて静かになった。
*
この1回戦の様子は直ぐに噂となり、初参加者にも関わらず物凄く強い男がいる、と別の参加者から目を付けられることになった。
杖による魔術ではなく、弓矢という実体の武器を扱うという点も非常に珍しいためか、その噂を加速させている一因となっているようだった。
ちなみにちょっと心配していたのだが、魔力を込めた矢であるならば、魔術闘技祭のルールには則っているらしい。
―――そして、俺はその後の試合も、立て続けに勝利していくのだった。
その度、俺の弓矢で貫かれた敗者は「熱狂的なエルネストの信者になる」という状態に陥っていた。
どうやら大量の魔力をその一矢に込めるため、その矢に射抜かれると、俺の魔力(魔女のものなのだが)に憑りつかれてしまう、ということのようだった。
困ったものである。
闘技場はこの街の中心地に存在する。
年に一度の魔術闘技祭の時期は街全体を上げて、お祭りムードといった様子らしい。
街中にはあちこちに、色とりどりの旗が掲げられていた。
闘技場に到着すると、そこには出場者がほとんど揃っていた。
俺のナンバーは118で、ほぼ整列の後ろの方であったので、参加者は100人強の人数なのだろう。
出場者のほとんどは男たちのようであった。
この街が男ばかりというわけではなかったが、やはり危険な祭りということもあるからか、魔術闘技祭の女性の参加は例年少ないらしい。
「ちょっと……自信をなくすな」
集まった参加者たちは、見た目から自身が満ち溢れていて、この日を待ちわびていた、といった表情である。
闘技場は思った以上に広く、参加者全員が整列しても、グラウンドの中央に固まっている状態で十分すぎるほどの余裕がある。
そして観客席はぐるりと360度備えられている。
いったいこの闘技場全体で何人が収容できるのだろうか。
そんなことを考えていると、参加者全員の前に、長老と思しき魔術闘技祭の実行委員長が現れた。
「……では皆のもの! これより今年の魔術闘技祭を開催する!」
参加者全員、そして客席に座る観客たちが息を呑む。
一瞬で、闘技場全体は静まり返る。
「今年も精鋭の白魔術者を集めておる! まず死ぬようなことはないと思っていただきたい。そのうえで正々堂々と魔術の腕を競い合うように!」
そして改めて魔術闘技祭の概要、ルールが説明された。
魔術闘技祭は約1週間の期間、ずっと開催される。
試合はトーナメント方式で行われる。
一度でも敗退すればそこで挑戦は終了となる。
参加資格および条件はない。
ただし『魔術闘技祭』という名の通り、魔術の優劣を競い合うものである。
そのため魔術に匹敵するような闘い方が求められる。
「……優勝して俺は真実の鏡を手に入れる。そしてコルリに戻ってサムを探すんだ」
俺は小声で呟いた。
魔術闘技祭には、ここまでかなりの意気込みを持ってやってきたはずだ。
この闘技場の大きさや参加者に驚いていたのじゃ話にならない。
一ヶ月近くあの師匠と修行をしたのはもちろん自信になった。
だけど俺は、もういい加減サムに会いたくてたまらなかったのだ。
*
一回戦の相手は、いかにも自信ありげな青年だった。
俺の背中にある弓矢を一瞥すると、勝ちを確信したのかバカにしたように笑った。
「試合、始め!」
審判の掛け声に、相手は瞬時に詠唱を始める。
しかし、明らかにその速度は遅かった。
まずは簡単な魔術で相手を威嚇しつつ、隙をついて大きな攻撃を仕掛けるのが定石のはず。
俺は相手に当てない範囲で適当に弓矢を放ち、相手の気を反らしていく。
「……チッ」
作戦は成功して、相手はうまく詠唱を行えていないようだった。
その証拠に相手から飛んでくる火の魔術は、さっきからぷすぷすと煙ばかりで、俺の元に飛んでくるまでに鎮火ばかりしていた。
「……んなもん使うんじゃねぇよ!」
相手からは罵声が飛ぶ。
それに倣うように客席のあちこちからはブーイングが飛んできていた。
その原因が初めはわからなかったが、相手の言葉でピンとくるものがあった。
おそらく、俺が魔術を使わない武器でばかり闘うことが、この試合の趣旨に反すると言いたいようであった。
「……じゃもう待つ必要はないな」
俺は相手に数本の矢を放ちながら、距離を大きくとった。
そして一本をスッと構えると、一度目を閉じて、瞬時に意識を集中させた。
もうこの意識の集中のさせ方、そして魔力の込め方は完璧であった。
矢は赤い魔力を纏い、徐々にその存在感を増していく。
その様子がさっきまでと明らかに違うためか、観客からはざわめきが立っていた。
「……痛かったらごめんな」
そして俺は矢を放つ。
ヒュンと、一瞬空気を切る音がして。
矢は真っすぐと、相手の胸を貫いた。
「ああああああん!!」
相手は謎の叫び声をあげると、バタリと闘技場の床に倒れ込んだ。
俺はふう、と息を吐き、脱力をした。
流石にこの魔力の込め方は身体への負担があるのか、疲労を感じていた。
「勝者、エルネスト!」
「敗退者に、治癒を!」
そしてどこからか慌てて、治癒術師が現れる。
しかし相手は、どうやらまだ意識があったようで「うう……」とうめき声をあげながら、顔だけを俺に向けた。
その瞳には、先程とは違うギラギラとした光が宿っているのが確かにわかった。
俺がその顔を覗き込むと、突然相手はハァハァと息を切らして、瞳孔をカッと開いた。
「エ……エルネスト様ぁああ!! ど、どうか私を弟子に……! あっあっ……」
そう言うと、意識を失ったのか、再び顔をうずめて静かになった。
*
この1回戦の様子は直ぐに噂となり、初参加者にも関わらず物凄く強い男がいる、と別の参加者から目を付けられることになった。
杖による魔術ではなく、弓矢という実体の武器を扱うという点も非常に珍しいためか、その噂を加速させている一因となっているようだった。
ちなみにちょっと心配していたのだが、魔力を込めた矢であるならば、魔術闘技祭のルールには則っているらしい。
―――そして、俺はその後の試合も、立て続けに勝利していくのだった。
その度、俺の弓矢で貫かれた敗者は「熱狂的なエルネストの信者になる」という状態に陥っていた。
どうやら大量の魔力をその一矢に込めるため、その矢に射抜かれると、俺の魔力(魔女のものなのだが)に憑りつかれてしまう、ということのようだった。
困ったものである。
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