魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ

文字の大きさ
上 下
29 / 75
第3章 闘技場とハーレム

毎晩の儀式

しおりを挟む
「た、ただいまー……」

初日の修行を終えて、ヘトヘトの状態でギルバートの家に帰ってきた。
ただいまと呼びかけた声は、暗闇の中で響くのみで、応答する声はない。

「で、ですよねー……」

リビングに入ると、そこではギルバートがソファで本を読んでいた。
ギルバートは俺の疲れた顔を一瞥すると、それで全てを察したのか、また目線を手元の本に戻した。

「な、なんか言葉あるだろ!?」

俺がそう言うと、ギルバートはひどく面倒くさそうな顔をした。

「なぜお前と話さなきゃならない」

ギルバートは視線を本に向けたまま、早口でそう言った。
それきり二度と言葉を発さず、こちらを見ようともしなかった。

やはり、俺は相当に嫌われているようです。

だがしかし、―――それならそれでやり方はある。

了承を取ることなく、静かにゆっくりと、ギルバートの座るソファの隣に腰を掛けた。


「あの師匠は、ギルバートの師匠でもあるの?」
しかし、無視。


少し屈んで本の表紙に目を向ける。

「ねぇねぇ、何読んでるの」
しかし、無視。


だ、だめだ―――。


ここまで無視されると、流石の俺でも心が折れる。
直接ギルバートに触れてイタズラをしかけようと思ったが、本当に怒られそうだと直感して止めた。
仕方なく、この家のリビングのものを物色し始める。

俺が寝かされていたベッドの部屋と同じで、このリビングも殺風景だ。
しかし2人が十分に座れるソファも、ダイニングテーブルもある。

―――ギルバートの家系は金持ちかもしれない。

なら、魔術闘技祭の優勝賞金なんて欲しいのだろうか?

その時、ふと伏せられたままの写真立てが目に入った。
俺がそれに手を伸ばそうとしたところで、

「いい加減にしろ」

と声が聞こえた。
いつの間にか、ギルバートが横に立っていた。

「ご、ごめん、つい」

ギルバートはその写真立てをつかむと、部屋を立ち去ろうとする。
どうやらいい加減しつこく怒らせてしまったようである。

ギルバートがドアノブに手をかけ、部屋を出て行くところで、立ち止まった。

「22時になったら部屋へ来い」

ギルバートは振り返ることなくそう告げ、すぐにバタンと勢いよく扉の閉まる音がした。
ソファには先ほどギルバートが読んでいた本がそのままにされていた。
 
 *

『魔獣闘技祭終了までの毎日、毎晩22時にギルバートに魔力を譲渡する。』

それが初日に俺とギルバートの間で交わされた約束だった。

ギルバートの魔術不足は相当に深刻な様子らしい。
魔女に聞いたことではあるが、魔術師は体内の魔力が極端に枯渇したり、逆に溢れたり、と制御できなくなると体調を崩してしまうらしい。

俺はギルバートの部屋の前でドアをノックする。

「入れ」

ドア越しに聞こえたその一言だけで、ギルバートが不機嫌であることがわかる。
俺のことが、さぞ嫌いなようだ。

まぁ、それも仕方ない。
命を助けた上に、こんな生意気な提案を持ちかける、性格の悪い人間がいるだろうか。

「来たよ」

―――しかし、俺は真実の愛を手に入れなければ助からない。
そのためには、できる限りの対応策をとらなければ。

扉を開けた目の前には不機嫌に歪むギルバートの顔。
ああ、やっぱりギルバートの顔がたまらなく好きだった。
綺麗に整えられた眉の間には、皴が寄っていた。

ギルバートは無言で左手を差し出した。
その目が早くしろ、と訴えている。

俺は心の中でほくそ笑む。


無関心になんて、させてやらない―――。


俺はギルバートの左手首を取ると、その被せられた白い手袋をゆっくりと外した。

するとその瞬間に、ギルバートは手を引っ込めた。
ギルバートの顔には明らかに怒りが滲んでいる。

「なんで取りやがる。そのままでいいだろ」

ギルバートに好かれないなら、その鉄壁な感情を揺さぶるのなら。

―――君には、思う存分、嫌われるしかない。

俺はギルバートの前で、いつになく真面目な顔をした。

「効率的に魔力を渡すためだよ。ギルバートも早くこんなことは終わらせたいだろ?」

そう言うと、ギルバートは目線を少し上げ、その後盛大にため息を吐いた。
そして諦めたように手袋の外された左手を再び俺の前に差し出した。

「早くしろ」
「仰せのままに」

俺は笑顔のまま、その左手を、両の手で優しく包み込んだ。
ギルバートの手の体温が直に伝わってくる。
思ったよりもその手は温かく、少しだけ汗ばんでいるようだった。

顔を上げると、ギルバートの眉間の皴が、より一層深く刻まれていた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...