魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ

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第2章 召喚術師と黒魔術師

新たな力の開放

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廊下に出た俺は、部屋の扉がきちんと閉まっていることを確認した。
そして胸のペンダントに向けて、小さく声をかける。

「……なぁ、聞いてるか? ……正直、ドストライクなんだが」
「ワタシもタイプ」

―――俺と魔女の間で、お互いの利害が一致した瞬間だった。
ドストライクというのは、もちろんギルバートのことである。

「……どうすればいい?」

「そうねぇ。……あのクールなイケメンくんに、"魔力供給" を申し出ればいいと思うわ」

「……魔力供給?」

「ええ、そう。あのイケメンくん、魔術師としては致命的なまでに魔力を枯渇している状態だったわ。魔術師にとって、魔力は生命と同じくらい大事なもの。足りなくなった原因はおおよそ、あなたを助けたことと、3人をまとめてワープさせたからでしょうね」

ギルバートはそんな素振りは見せていなかったが、この魔女が言うのなら、そうなのだろう。

「あなたの呪い、相手を好きにさせる力というのは、あなたの魔力を―――正確にはワタシの魔力を相手に "注ぐ" ってことなのよ。今のあなたは、魔力を多量に体内に宿している」

「つまり、俺は触れる度に少なからず相手に魔力を譲渡しているってことか。……だから長い間触れていると、より魔力が注がれて、呪いの力が強く効くってことか?」

「理解が早くて助かるわ。ワタシの魔力の多さを舐めないで頂戴☆ ちなみに魔力耐性の低い獣族なんかは、多量の魔力に当てられれば頭がクラクラすると思うわ。あの虎さんみたいに、ね」

なるほど。
確かにラルフは魔力への耐性が低い。
それも呪いの効果に関わってくる、というのか。

「……それからこれも大事なんだけど、魔力の供給はあなたの気持ち次第で、ある程度コントロールできるわ。魔力を "注ぐ" というイメージを明確に持てば、相手により多くの魔力を注げる」

なるほどー――?

その話の中で、俺は一つ心当たりを思い出した。
ラルフに野営地で肩もみをしたあの夜のことだ。
俺は確かに明確に強い意思を持って、ラルフに触れていた。

あれは完全におふざけのつもりだったのだが、あの時俺はより強く力を発揮していたということか。

「……わかってもらえたみたいね。これからも楽しみにしてるわ☆」

―――そして、またペンダントからは、ぱったりと声は聞こえなくなった。

ラルフよりもギルバートのような魔術師相手には、呪いの力が効きにくいってことか。
しかし、その分長い間触れていられれば―――
俺は心の中で少しほくそ笑んだ。



辺りを見回して、今の会話を誰にも聞かれていないことを確認する。
そのまま廊下を進むと、突き当りの部屋にたどり着いた。
おそらくここがギルバートの部屋だ。

コンコン
と、ノックをすると、「なんだ」と素っ気ない声が返ってきた。

「……開けてもいいか?」
「勝手にしろ」

俺がドアを開けると、そこはまさに魔術師の部屋といった様相だった。

部屋の中は薄暗く、中央には謎の壺が火にかけられている。
奥には暖炉があるが、今はついていないようだ。
ギルバートは天井まである大きな本棚の前で本を物色していた。

ギルバートは一度こちらを見ると、鬱陶しそうな視線だけを向け、また本に視線を戻した。
出ていけと言われない辺り、この部屋にいてもいいのだと認識した俺は、手近にあった椅子に浅く腰掛けた。

「……改めてありがとうな。ラルフから聞いているとは思うが、俺の名前はエルネスト。エルでいいから」
「お前の名前に興味はない」

―――バッサリと切られてしまった。
ギルバートは本をバタンと閉じると、乱暴に本棚に戻す。
すると中央の謎の壺の前に立った。

一体中には何が入っているのだろう。

俺はめげずに話しかけることにした。
ギルバートに "触れる" タイミングを見計らわなければいけない。

「……その壺で何してるんだ?」
「コルリの街に戻るためのワープの準備だ。今は一方通行っつったけど、いずれは繋ぐつもりだったからな。……言っとくが、お前らを連れていく気はねぇぞ」

そう言うと、返答を聞く気はないのか、何やらブツブツと呪文のようなものを唱え始めた。

しばらく俺はその様子を部屋の隅から眺めていた。

―――突然、壺がピカッと光った。
しかし、すぐにプスン……と怪しい煙を出し始めた。

「……チッ」

舌打ちが聞こえたぞ。
よくわからないが、おそらく何か失敗したようだ。

「……くそ、魔力が足りねぇな」

独り言で、俺の耳にぎりぎり届くほどの音量だった。
このタイミングしかない。

「なぁ」

俺が声をかけると、ギルバートはそう言えば居たのかという風な視線をこちらに向けた。
完全に俺への興味がないところか、今存在を忘れられていた可能性すらありそうだ。

「……もしかして、魔力が足りないってのは、俺のせいなのか? 俺を助けてくれたから」

その言葉に、ギルバートはあからさまに俺を非難する目線を向ける。

「……ああ。お前らまとめて3人をここにワープさせた上に、お前の怪我の治療までやったんだ。……俺は本当は黒魔術が専門だからな、治療は本来専門外だ。おかげで俺の中の魔力は空っぽだ」

「……悪いことをしたな、謝るよゴメン。……ところで、もしできるなら、俺の魔力って使えないかな」

その俺の提案に、ギルバートの表情が曇る。
何を馬鹿なこと言っているんだ、とその目が訴えている。

「一般人ごときの魔力で足りると思ってんじゃねぇよ。俺の魔力をなめるんじゃねぇ」

怒らせてしまった。
やっぱりそううまくはいかないか。
そう俺が落胆した時だった。

「……やれるもんならやってみろよ」

ギルバートは少し挑発的な笑みを浮かべて、俺に左手を差し出してきた。
どうやら手を繋げということらしい。

―――チャンスが巡ってきた。
―――失敗は許されない。
ここで失敗すれば、俺はギルバートに受け入れられることはないだろう。

(魔力を注ぐイメージ―――)

俺はその手を両手で優しく包み込むように握った。
そして強く目を瞑った。

(伝われ……伝われ……)

強く念じながら、両手の指の先に意識を集中する。
頭のてっぺんから、首、肩、両腕、両手、指の先、とそのエネルギーが伝わっていくのをイメージした。

「あ……あ、もう、いい」

―――俺はギルバートのその声が意識の遠くで聞こえたような気がした。
しかし俺は意識をより遠く、より一層、集中させていく。

「バカやろう!!!」

その瞬間、勢いよく俺の手が振りほどかれた。

「……殺す気か」

ギルバートの額には汗が滲んでいてハァハァと息を荒くしていた。
―――どうやら、ギルバートの異変を見る限り、魔力の供給には成功していたようだ。

「な、なんで、一般人のお前が……。まぁいい……お前が役に立つことはわかった」
「そうか。それはよかった」

俺はケロッと何も知らない満面の笑顔でそう答えた。

―――ギルバートは自分の得になることなら、応えてくれる。
そう考えた俺は次の提案に踏み込んだ。

「今、俺とラルフで外に放り出されるのは正直避けたい。それに俺らは魔女の情報が知りたい。そのためにギルバートには協力してほしい。……その代償に俺からはいくらでも魔力を供給する」

俺は再びギルバートの左手をとった。
今度は先程とは異なり、優しくエネルギーを静かにその手に送るイメージで。

ギルバートは握られた手をじっと見る。
そして俺のその行為に、不服そうな表情をした。
眉間には皴が寄り、明らかに不快感を滲ませている。

「……お前って、性格悪いんだな」
「そうか? あまり、そう言われることはないんだけどな」

ツンツンとした態度のギルバートに、正直俺の中の苛め欲が沸いて仕方なかった。
ラルフを苛めたい気持ちとはまた少し違う。
この感情は何なのだろう。

俺の魔力は、今のギルバートの身体に必要なものなのだ。
もしかすると、その構図に少し陶酔していたかもしれない。
ギルバートは俺の魔力を受け取るたびに―――

「……わかった」

ギルバートは物凄く不服そうに頭を抱えると、大きくため息をついた。

「……でも俺は、自分の利益になる分しかやらねぇからな」
「ああ、それでいいよ。そういう取引だ」

そうして、俺らはしばらく、このギルバートの故郷で暮らすこととなった。
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