魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ

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第2章 召喚術師と黒魔術師

ギルバート

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目が覚めると、ベッドに寝かされていた。
ベッドはふかふかで随分と寝心地が良い。

「ラルフ……?」

ベッドの脇には椅子に座ったまま、ベッドの縁に頭だけ寄りかかるようにラルフが寝ていた。
すやすやと眠るラルフは、無防備な寝顔の中に、疲れた雰囲気を覗かせていた。
俺は少し愛おしい気持ちが沸いてきて、ラルフの頭をそっと右手で撫でてみた。

もふもふだ。
癒される。

―――俺は、たしかラルフを庇って矢を受けて気を失ったはず。
しかし痛みは全くない。

「傷跡は……」

服の裾をまくると、そこには刺さった矢はなく、少し痛々しい跡が残っていた。
血は止まっているようだった。

―――だが、全身が妙に気怠い。

辺りを見回すと、そこは全く見覚えのない部屋だった。
窓からは外の景色が見られたが、外は鬱蒼と樹木が茂っている。
先程歩いていた街並みとはどこかが違っているようだ。

部屋の中は殺風景で、最低限のランプや棚、机があるのみだった。
寝心地の良い豪華なベッドだけが少し浮いているように見える。
すると、不思議なものが目に留まった。

ベッドのすぐ脇の机の上に、謎の緑色の液体がある。
ビンに入ったその液体は、おおよそ1/3ほどの量だった。
一緒に置いてある紙切れには、少し汚い字で『起きたら飲め』とだけ書いてあった。

「なんだろうこれ、飲めって……」

ラルフがここにいることを考えると、危ないものではないのだろう。
恐る恐るその液体を少しだけ口に含んだところで、独特の臭気と強烈な苦みに思わずむせ返った。

「ゲホッ……ゲホッ……にがっ」

だがその瞬間、すっと全身の怠さが抜け、身体が軽くなった。

「なんだこれ……? 薬……?」

眩しい蛍光色の緑色は明らかに通常の飲料物ではない。
ユウリの実験室にこういった液体が数多くあったような気がする。

その時、キィ……
と、部屋の扉が開いて、人が入ってきた。


そこにはローブを纏い、白い手袋をした魔術師風の男がいた。
身長はサムと同じくらい―――か?
顔立ちは切れ長の目で鼻が高く、髪はオールバックで固めている。
そして途轍もなく、イケメンだった。

「お前は……?」
「……恩人相手にお前なんて呼ぶんじゃねぇ。俺の名前はギルバート」

しかしサムの優しい雰囲気とは違う、神経質かつクールな印象を受けた。
その―――正直ドストライクです。

俺はにやけそうになる顔を必死に抑えて、いたって平常心を保つようにした。

「……悪い。そんなつもりじゃなかったんだ。恩人、ってことはギルバートが俺を助けてくれた……ってことなのか?ありがとう」

俺の言葉に、ギルバートと名乗った男は表情一つ変えない。

「別にお前を助けたかったわけじゃない。ただあのジジイに恩を売るチャンスってだけだ」

あのジジイ―――?

しばらく考えたところで、ユウリのおじいさんに思い当たった。
ラルフが気を失った俺を、手紙の住所まで運んだということなら、ユウリのおじいさんと知り合いというのも話が通る。
それに手紙は確かラルフに手渡していたはずだ。

俺はラルフの方に視線をやる。
ギルバートと話している今もラルフは眠ったままだ。
よほど疲れているのかもしれない。

「ジジイってのは、ユウリのおじいさんのことか」

そう言うとギルバートは「……ああ」と短く返事をした。
俺はラルフを庇ったあの事を思い返した。

「……どうして俺らが狙われたんだ?何かギルバートは知らないか。もしくはこの、ラルフから聞いてないか」

するとギルバートは天井の方を一度見て、呆れた顔をした。
まるで何も知らない俺を馬鹿にしているような表情だった。

「狙われたのはお前じゃない。そこの獣だ。後は直接こいつに聞け」

狙われたのは、やはりラルフのようだ。
確かに、あの時足止めの魔法は俺にはかかっていなかった。
しかしなぜラルフが狙われたというのだろうか。

ラルフが以前この街に仕事に来たのか関係しているのか―――?
それとも―――?

これ以上、ギルバートに話を聞いても、込み入った内容は教えてもらえそうにない。
俺があれこれと考えていると、ギルバートが口を開いた。

「それより自分の心配をしろ。……お前に刺さっていた矢には毒が塗ってあった。あの毒には心当たりがある、だから解毒薬をお前に飲ませた。そこの液体のことだ」

そういってギルバートはビンに入った緑色の液体を指差した。
―――これは解毒薬だったのか。
通りで怠い身体が急速に軽くなったというわけか。

「解毒薬なんて、なんで都合よく持ってるんだ?ギルバートは、何者なんだ?」

「質問の多いやつだ。俺は黒魔術を専門にしている魔術師だ。魔術に必要な薬や素材を、あのジジイから取り寄せてる」

なるほど、だからおじいさんは「私の名前を出せば悪いようにはされないでしょう」なんて言ったのか。
ギルバートにとってあのおじいさんは重要な取引先ということだ。

「……ただな、この解毒薬はあの家にはなかった。だから大量の薬品保管庫のある俺の故郷に"ワープ"した」

「……待て。……ワープ、した?」

俺は今聞き逃しちゃいけない一言を聞いた気がする。
外は確かに街といった雰囲気ではない。
とすれば、もうここは―――?

ギルバートは眉間に皺を寄せ、明らかにめんどくさそうな顔をした。

「ああ。ここはもうコルリじゃねぇ。遠い俺の故郷だ」

「……そうなのか。例えば解毒薬が必要なら、同じ街のユウリのおじいさんの家にワープすればよかったんじゃないか?」

ギルバートは段々と不機嫌な様子になっていく。
しかし、ワイルドなイケメンの不機嫌というのは、それでいて格好良く見えるのが不思議である。

「そんなに便利なもんじゃねぇんだよ。コルリの俺の家とこの故郷の家を繋ぐだけのもので、しかもそれは一方通行だ。魔力も大量に使う。……あれ以上物理的に動かしたら毒が回るからな、ジジイの家には運べなかったんだよ」

そう言うとギルバートは一度ラルフの方を見た。
ラルフは一生懸命俺のことを運んでくれたのだろう。

俺はまた、こうして生き長らえたということか。
でも、勝手にワープしてしまってサムは心配しないだろうか。

「そうだったのか……。ありがとう。ということは、もうコルリの街にはすぐに戻れないってことか?」

「ああ。自力で行くなら、ここから1ヶ月はかかるだろ。……命が助かったんだから、文句ねぇだろ」

1ヶ月……!?
予想以上の時間に俺は呆然とする。

―――サムはこの事を知らない。すぐには会えない。
―――これから、どうやって過ごせばいいんだ?

俺が呆然としていると、ギルバートはイライラが頂点に達したのか、部屋の扉に手をかけた。
部屋を出る直前、俺の方を振り返ると、最後に口を開いた。

「……それから、お前らと馴れ合うつもりは全くない。俺は無駄な時間を過ごすのが一番嫌いなんだ。治ったらさっさと出て行ってくれ」

バタン、と強く扉の閉まる音がした。
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