魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ

文字の大きさ
9 / 75
第1章 魔女の呪いと変わる世界

旅立ち

しおりを挟む
目を覚ましてカーテンを開けると、眩しいほどの太陽の光に思わず目を覆った。
少しずつ目を慣らし、意を決して窓を勢いよく開けて、外の空気を吸い込んだ。
新鮮な空気が肺に入っていく。
爽やかな朝の澄んだ空は気持ちよく、既に温かさを纏う空気は、春の訪れを感じさせていた。

俺の退院祝いをしてもらってから、ちょうど1週間が経っていた。

酒場でのあの日、サムは村人に捕まり、ラルフは酔っ払い、と結局大した話し合いはできなかった。
決まった事と言えば、まずはダンテ村から一番近い町で魔女の情報を集めること、そして今日という「出発」の日だけである。

俺は前日のうちに準備していた服装に着替え、家を出る準備を整えていく。
あの日から今日までの1週間というのは非常に短く、あっという間に過ぎてしまった。

まず村の警備隊の仕事を休止するための手続きが必要であった。
これはもちろんサムとラルフも同様である。
一度に3人も仕事を抜けるというのは、村にとっては痛手であり、当初は難しいと思われた。
しかし結論から言うと、仕事の休止にはならなかった。
魔女にまつわる事件を一時的に解決したこと、そして今後同様の事件を引き起こさないための継続的調査としての旅という扱いになり、好意的に受け止められた。

次に装備を整えることであった。
俺は弓を、サムは剣と盾を、ラルフは拳のグローブを調達した。
また旅で必要な野営ができるような道具なども、手分けをして調達していった。

そして俺の場合は特にだが、身辺の整理であった。
もしかするともうこのダンテ村には戻ってこられないかもしれない。
最後かもしれない、そう思うと、交友関係は狭い方であるが世話になった人たちには挨拶をしようと思う性分ではあった。
―――いや、最後じゃない。

真実の愛を手に入れて、未来を手に入れるんだ。

「いってきます」

俺は玄関の扉を力強く開けた。



俺は出発のため、村の出口の方角にあるサムとラルフとの待ち合わせ場所に向かった。

「それにしても、あの日のラルフとの帰り道には参ったな……」

あの日、村の酒場で3人で飲んだ後のラルフと帰った時のことを、なんとなく思い出していた。

(……オメェが生きていてくれて、嬉しいんだ)

俺は頭の上に手を乗せる。
あの日のラルフの手の感触を未だ覚えている。
ラルフに触れて好きになってもらおうとして、逆に好きにさせられてしまうとは。

これは。
―――俺の攻め力が圧倒的に足りない。
あれは、その事を自覚した「事件」であった。

「俺は本気で腹を括るよ」

ペンダントに向けて、そう声をかけたが返事はない。
魔女様は気まぐれのご様子だ。



待ち合わせ場所に着くと、既にそこにはラルフの姿があった。
俺はラルフに気づかれないように背後から忍び寄る。
弓使いとして、気配を消すことには長けている。

「ラルフー!」

そう言って、俺は後ろから抱き着いた。
背の小さい俺は、頭を押し付けてもラルフの肩すら余裕で届かない。

「うおッ……!? お、おいエルか、ちょっとなんだよおい……離れ、ろ」

ラルフは体を揺らして、俺の事を振りほどいた。
俺はひとまず、サッと離れた。
いくらこの能力があるとはいえ、突然のスキンシップで嫌われては困る。

「ごめん、悪ふざけが過ぎたな」
「いや……別にそういうわけじゃねェけどよ、いきなりはビックリするだろうが」

そういって、ラルフは照れ臭そうに左手で自身の頬をポリポリと指で掻いた。
あーかわいい。
これは思ったより好反応だ。
かなりラルフとの距離が縮まっている気がする。

「これからよろしくな」

そういって、俺は更に一歩下がって丁寧に右手を差し出した。
ラルフも同じように右手を出し、俺らは握手をした。
ラルフの手はやはり大きく、俺の手の大きさ全体でラルフの指と握手をしているような感じだ。
そのまま俺はぐっと力を込めて、いつまでもにぎにぎしてみた。

「いつまで握ってんだよ……その、なァ……」

そういって、ラルフはやはり左手で自身の頬をポリポリと指で掻いた。
それでも俺は手を放さずに、へへへっと笑って見せた。

「二人とも、何やってんだよ……」

背後で声が聞こえたと思って振り返ると、呆れ顔のサムが立っていた。
俺はラルフの手をぱっと離した。

「エルとラルフさ、いつの間にか本当に仲良くなったよな」
「そうかな。……俺はみんなと仲良くなりたいんだ。これからの旅でいろんな奴と」

俺は心の底からそう思った。
もう覚悟を決めたのだ。
俺はみんなとラブな意味で仲良くなります。

サムとラルフとで、2人顔を見合わせて俺の発言に少し驚いたような表情をした。
多分、今までの俺の事を思うとそんなことを言ったのが珍しいと思ったのだろう。

「オレはそういうオメェの方がいいと思うぜ」
「……ちょっと驚いたけど。俺もさ、なんか嬉しいよ」

サムはその時、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
今までの後ろ向きな俺ばかりを見ていてくれたからだろうか。
思わずラルフのように抱き着きたくなったが、ぐっとこらえる。

ああ、サムとずっと一緒に居られるなんて、少し前の俺なら喜びに思わずにやけてしまった所だろう。
でも今この力でサムを服従させるわけには、いかないのだ。
サムとはしばらく旅の仲間として一緒に過ごしてもらいたい。
サムに嫌われたら俺はもう多分生きていけない。

「……じゃ、行こうか」

俺がそう言うと、3人で村の方向をもう一度振り返り、無言で歩き出した。

―――さようなら、またこの村に帰ってこれますように。

そう、これから俺たちの新しいラブでうぶなムフフな旅が始まる。かもしれない。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

【16話完結】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!

キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!? あらすじ 「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」 前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。 今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。 お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。 顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……? 「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」 「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」 スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!? しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。 【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】 「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」

処理中です...