カエル王子と闇落ち聖女

涼暮 月

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13.元王子と元聖女

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 それからしばらく、エドワードはあれこれ手紙を書いたり旅の準備をしたりしていた。
 私はもうこのまま歩いてすぐにでも国境を越えよう、みたいに思っていたのだけど、エドワードに微笑みながら止められた。あれは冷笑だったわ。ちょっとバカにしたような顔をしていたわね!
 でもやっぱりありがたいことだと思い直してお任せすることにした。聖女の力とやらはなるべく使いたくないし、王子の力をフルに使ってもらおうじゃないの。

「王が聖女の望むとおりの褒美を取らせると言っていただろう?たっぷり資金はある。任せてくれ」
 エドワードはすごいやる気でちょっと気圧されるくらいだ。この人って本当に有能なのかもしれない。よろしくお願いします。

 どこに行きたいかと聞かれたけれど、どこでもいい。そう答えるとエドワードはしばらく考え、海でも目指そうか、と言った。国境を越えて海を目指し、そこから船に乗ってまた違う国へ行ってもいい。途中で気に入る土地があればそこで滞在してもいい。
 豪華だね!と言ったらエドワードにため息をつかれた。
「まずは馬車旅がどんなものか経験したらいい。休みながら進むけど、具合が悪くなったらその地で静養だ」
「え……だ、大丈夫だよ。……たぶん」
 エドワードがいてくれてよかった!頼りにしてます!

 数日後にはシンプルな二頭立ての箱馬車やトランクが用意され、王子の白馬とはお別れした。私も2年近く住んだ平屋を綺麗に掃除し、ありがとうとお礼を言った。
  
「国王が引退するそうだよ」
 さっき届いた書簡を読み終えたエドワードが教えてくれる。
「そうなの?早くない?まだそんな年じゃないでしょう」
「なんだか急に衰えたと言っているらしい。近頃何をしても上手くいかないそうだよ」

 あ、それってあれだ。

 私があの時、国王の困り顔をやめさせたからだ。
 
 有能な王。困り顔をすればスイスイ物事が自分の思うように進む王。

 あれって聖女の加護だったのよね。きっと。
 国王の困り顔を見ると、見た人は国王のために良いように動いてしまうのよ。
 でも新しい聖女(私のこと)が現れて、その加護は解かれたというわけ。
 普通よね。この世の決まり事みたいなものだわ。別に私が短気だとかそういうことじゃないはずよ。

「そういえばエドワード、あなたお母様は?お会いしたことないけど」
「母は僕の幼い頃に亡くなったよ。父はその後2度王妃を迎えたけれど、どなたも子を成さないまま早世なさってね。それから後は誰とも縁を結ぶことはないな」

 わあ怖い。
 それって絶対聖女の加護のせいよ。加護の引き換えに聖女が持って行ったんだわ。
 聖女は国王のこと本当にかわいいと思ったのね。
 だから加護を与えて、だから代わりに国王のご縁を持って行ったんだわ。

「私も王子のこと持って行っちゃうもんね」
「え?何か言った?」
「なにも。独り言だよ」

 聖女の力、こわいなあ。私も力を使うとすっごく疲れるもん。
 この力、いつまであるんだろう。いつまで使っても大丈夫なのかな。
 もうこれからはあまり使わないようにしよう。
 
「それから、あの時の護衛騎士が結婚したそうだよ。相手は国境に住む少数民族の女だそうだ。退団してその女の一族に属すると連絡が来た」
 え?!?あのゴリラにしちゃった人?!?!
「そ、そうなんだ。彼はあのままでいいのかな?」
「いいんじゃない?女がいいと言っているんだから。いい女に会えたんだな」
 顔がゴリラでも強くて情に厚い男だよ。とエドワードはあの護衛騎士のことを話してくれた。エドワードにとってはいい人だったのだろう。私にはいい所は全くなかったけれど。まあゴリラならそれほど違和感なくやっていけるのかもしれない。ゴリラ、強いな。
 そういえば髪がなくなってしまった令嬢はどうしてるかな。カツラもあるし困ってないといいんだけど。もう新しく生えてきてるかな。もしまだ生えてこないなら、私がここからいなくなった後また生えてくるといいな。

「ねえ、本当に国王に会ってこなくていいの?」
「いいんだ。僕はカエル王子のままで消えたほうがいい。父には手紙で知らせてあるし、後のことは従弟のヘンリーに任せておけば大丈夫だよ」
「そうかなあ」
「さあ、出発しよう」

 ある晴れた日の朝、私達は旅立った。




 ◇ ◇ ◇


 
 それから3年程して、私たちはとある街で結婚届を書いていた。
 妊娠したのだ。
 それで治安のよさそうなこの街に居を構え、しばらく落ち着いた生活をすることにした。

 結婚届に書いた名前を見せながら、私はエドワードに告げた。

「ね、私の本当の名前は、ゆいな。ゆいなって言うの」

「はあ?」

「これからはゆいなって呼んで」

「……君って本当に……疑い深くて性格が悪いな?!」

「はあ?それ今言うセリフ?」

「おまけに怒りっぽい!」

 ぐいと手を引かれ、私はエドワードの腕の中に落ち着く。いつの間にかここはなじみのある、安心できる場所になっていた。抱きしめられた腕の中でホッと息をつき、身をゆだねる。

「失礼な。用心深いと言ってほしいわ。慎重だとか」

 だってそうじゃない?この世界がどんな所か分からないうちは本名なんて言えないよね?用心するに越したことはないでしょう?生き残るためのライフハックみたいのものよね。あと言ってないけど、気づいているかもしれないけれど、私はエドワードより3歳ほど年上だ。

 エドワードはそっと私の頬をなで、腕をさすり、その手を優しく背中にまわす。私もエドワードの背にてのひらをあて、その温かさを感じた。


「僕のことを信じられなくてもいい。僕は絶対に君の傍に居続けるからね。君が死ぬとき、僕の顔を見ながら、僕の愛を実感すればいい」

「もう信じてるよ」

「いや、分からないね」


 見上げるエドワードの顔は日に焼け目じりに笑い皺ができていてとても美しい。
 エドワードは軽くため息をつき、仕方ないなあという顔をして私の頭をわしわし撫でた。
 それから私のお腹もそっと撫でる。

 時々どうしようもなく寂しくなる時があるけど、私はもう独りではない。
 
「ゆいな……か」
「うん」
「ゆいな」
「はい」
「ゆいな、愛してるよ」
「私も愛してる。私こそ離さないから。エドワード、ずっと一緒にいてね」

 エドワードは嬉しそうに笑う。
 そのくしゃりとした笑顔を見て、私はとても幸福な気持ちになった。




  end
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