カエル王子と闇落ち聖女

涼暮 月

文字の大きさ
上 下
5 / 13

5.変わる聖女

しおりを挟む
「ユイ、調子はよくなったかい?」

 案の定、エドワードは午前中からやってきた。お見舞いにと薔薇の花束を携えて。
 
 その薔薇は昨日の庭園の、二人がいた薔薇に覆われたガゼボを思い出させた。

 あの綺麗な人と一緒にいた時のエドワードはすごく表情豊かだった。
 嬉しそう、悲しそう、くしゃりとした笑顔、熱い瞳。気を許した人への顔。秘密を共にした人との顔。薔薇に覆われたガゼボの中、二人は顔を寄せ合って二人だけの秘密を楽しんでいた。

 私といる時と全然違った。
 
「お見舞いありがとう。でも私、このお花は好きじゃないの。……香りが強くて苦手なの。頭が痛くなっちゃうのよね。持って帰ってくれる?」

 エドワードは慌てて花束をを引いた。
「し、知らなかったんだ。ごめんね」
「いいのよ」

 今まで私、エドワードが差し出したものを拒否したことがあったかな?ないよね、きっと。
 なんでも喜んで、感謝して受け取った。
 エドワードの期待に応えたかったんだよ。
 そしたら褒められて、好かれたりするんじゃないかと思って。
 私、受け入れられたいと思って一生懸命だったんだよ。

 私はしかめっ面をして、頭痛がするかのように頭に手をやった。
 申し訳ない、なんてそぶりはしない。
 ごめんね、なんて全然思わない。

 エドワードはいつもと違う私に戸惑いながら、まだ体調が悪いのかな、なんて言ってる。
 
 その顔に張り付いた上品な笑みがすごく薄っぺらくて、気持ち悪いと感じてしまう。

「ユイ、本当に大丈夫かい?」
 エドワードが私に近づいてこようとするけれど、私はそれを避けて一歩下がった。
 やだ、傍に来ないで。触らないで。

「ユイ?」

 私は突然エドワードと二人きりで部屋にいることが耐えられなくなった。

 エドワードの横をすり抜けて部屋のドアを開ける。
 ドアの外にはいつものように、護衛騎士が二人立っていた。
 私はその二人に聞こえるように、大きな声で言った。

「王太子様、今後は部屋のドアは開けたままでお入りください。誤解をする者がいるようです!」

 護衛の顔を見ると、苦々しい顔をしている。
 
「ユイ?どうしたんだい?誰かに何か言われた?」

 私は何も答えず、じっとエドワードを見つめる。だから早く出て行ってと言ってんのよ!もう!

「もしかしてその騎士が昨日何かしたのかい?その者はまじめで私によく仕えてくれる、信頼のおける者だよ。何か誤解があったのかもしれないが、私の顔に免じて許してもらえないか」

 エドワードが微笑みながら私に言う。

 おえええええ。その顔、気持ち悪くて吐きそう。

 あとさ、何言ってんのか分かんないわ。誤解?誤解なんて何もないわ!これって全部あんたのせいなんじゃないの?あなたが私に謝るべきでは?なんで私が譲らなきゃいけないのよ!!
 あなたは一体何様なのよ。あ、王太子様か。でも私はここの国民じゃないからね!なんなら聖女だから!あんたたちに召喚された聖女だからね!
 
 護衛はエドワードの言葉に心を打たれたのか感動した様子で、それから私を憎々し気にギロリと睨んだ。

 うわああああ最悪ううううう。

 これって、また私がワガママ言ってるって思ってんじゃないの?王太子はお優しい方です?は?

 私が疎まれ嫌悪されるのって、この王太子のせいなんじゃないの。
 
 もうほんとやだ、王太子、あんたもうホント無理。ムリだから!
 私の近くにいないで!あっちいって!
 
 「本日はお忙しい中をわざわざありがとうございました。もう十分ですのでどうぞお帰りください!」

 私は王太子を部屋から追い出し、バタンとドアを閉じた。
 背中に触っちゃったわ。いやだ、鳥肌が立っちゃった!

「あ~~~~。なんかもう、生理的に無理!もうしばらくあの顔見たくない!王太子の仕事がめちゃくちゃ忙しくなったらいいのに!!!」

 私の願いが叶ったのか、それからしばらく王太子の顔を見ることはなかった。
 なんだか色々あって疲れちゃった。考えなきゃいけないことはたくさんあるけれど、今はすごく眠くて何もできない。
 私はベッドに潜り込み毛布にくるまってうとうとする。
 
 ここでの生活はすごく神経を使うし、周囲の期待や不満に過敏になってしまう。
 疲れた。信じられる人が誰もいないってすごくむなしいな。

 そんな思いを薄布にそっと包んで胸に押し込めるように、私は丸くなって眠る。
 
 私はぼんやりと日々を過ごし、そうしてあの、王家主催のパーティーの日を迎えたのだ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

祝☆聖女召喚!そして国が滅びました☆

ラララキヲ
ファンタジー
 魔物の被害に疲れた国は異世界の少女に救いを求めた。 『聖女召喚』  そして世界で始めてその召喚は成功する。呼び出された少女を見て呼び出した者たちは……  そして呼び出された聖女は考える。彼女には彼女の求めるものがあったのだ……── ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】べつに平凡な令嬢……のはずなのに、なにかと殿下に可愛がれているんです

朝日みらい
恋愛
アシェリー・へーボンハスは平凡な公爵令嬢である。 取り立てて人目を惹く容姿でもないし……令嬢らしくちゃんと着飾っている、普通の令嬢の内の1人である。 フィリップ・デーニッツ王太子殿下に密かに憧れているが、会ったのは宴会の席であいさつした程度で、 王太子妃候補になれるほど家格は高くない。 本人も素敵な王太子殿下との恋を夢見るだけで、自分の立場はキチンと理解しているつもり。 だから、まさか王太子殿下に嫁ぐなんて夢にも思わず、王妃教育も怠けている。 そんなアシェリーが、宮廷内の貴重な蔵書をたくさん読めると、軽い気持ちで『次期王太子妃の婚約選考会』に参加してみたら、なんと王太子殿下に見初められ…。 王妃候補として王宮に住み始めたアシュリーの、まさかのアツアツの日々が始まる?!

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」

まほりろ
恋愛
 聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。  だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗 り換えた。 「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」  聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。  そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。 「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿しています。 ※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。 ※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。 ※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。 ※二章はアルファポリス先行投稿です! ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます! ※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17 ※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。

処理中です...