魔法少女をたすけたら魔王軍に入隊しました

こおり 司

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本当の戦い

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 新人戦が無事に終わり、平穏な日々が戻ってきた。
 数週間とはいえ魔王軍の母艦で過ごした時間は刺激的で、家と学校を往復する生活に戻るとどことなく物足りなさを感じるが、そう思うこと自体がおかしいのだと自分に言い聞かせる。
 元の生活に戻っただけ。
 ごく普通の中学生は勉学や友情に時間を割くべきなのだ。
 決して魔法少女と戦うためではない。
 でも、ボンバーくんやマットちゃん、クロくんと会えないのは素直に寂しい。
 別れらしい別れの言葉も交わしていない。
 新人戦が終わればおのずと会わなくなるとは、あの時の私は思いつきもしなかった。
 みんな今頃何をしているんだろう。
 私のこと少しは思い出してくれているだろうか、なんて女々しいことを考えることもしばしばあった。
 テレビでは相変わらず魔法少女と魔王軍の戦いが流れている。
 倉庫という隔離的な場所で行われた新人戦は、こんな風にテレビや動画サイトで世の中に出回ることはなかった。
 安心半分残念半分。
 承認欲求はそこまで強い方ではないけれど、まったく話題にならないというのもつまらない話だ。
 画面の中で戦っているのはたぶんベテラン枠のメンバーばかりなので、テレビ越しにも彼らの様子を知る術はない。
 新人戦を終えたらデビューってわけでもないんだな。
 そんな感想を抱く。
 瞬間移動もできないし、私はもう魔法少女や魔王軍と関わることはないのだろう。
「……なんかつまんないかもー」
「何がつまらないって?」
「なんでもなーい」
 家計簿をつけているお母さんが怪訝な顔をする。
「未来、最近何かあった? 急に家からいなくなったり気力がなくなったり、最近様子がおかしいわよ」
「んー、思春期? いろいろと悩ましい年ごろなんだよ」
「だったらいいけど……。なんだか魔法少女や魔王軍にのめりこんでいるような気がしない? 今まで真剣に動画あさったりしなかったじゃない」
「趣味が変わることもあるよ。それに私は純粋に魔法少女と魔王軍の戦いを見るのが好きなんじゃなくて、戦っているメンバー自体に興味があるわけで――」
「あらやだ、推し活? だったら早く言いなさいよ。全然恋愛の話もしてくれない未来が推す相手って誰? 最近は魔法少女と魔法軍の人気にあやかってグッズとかコラボの展開がものすごい勢いで世の中に浸透してきてるからね。もう完全にアイドル枠よ、アイドル枠。欲しい人のグッズ買ってあげようか? 前にミッドナイトがかっこいいって言ってなかったっけ?」
「ボンバーくんとマッドちゃん」
「……誰? そんな名前の人いたかしら?」
「いないから動画あさって探してるんでしょ。娘の趣味にあんまり口出ししないで」
 このままではお母さんからの言及が続きそうなので早々に自室に引き上げる。
 せっかくの休日だし久しぶりにみったんとしーちゃんと出かけようか。
 そう思い立って2人にラインを送ってみたがなかなか既読がつかない。
「むー」
 まぁ急にどこか遊びに行こうなんて連絡が来ても困るか。
 予定だってあるだろうし。
 ベッドに寝転がり、スマホを手放す。
 このまま昼寝するか。
 特にやることもやりたいこともないのだし。
 と、スマホにお知らせの通知が届く。
 なんだろうと画面を開いてみれば、私がフォローしている魔法少女と魔王軍の戦いを中心に配信しているチャンネルに新しい動画があがったらしい。
 なんとなく、そのまま配信を見ることにする。
 題名には魔法少女と魔王軍と第三勢力の文字。
 第三勢力?
 今まで登場してこなかった単語に興味が湧く。
「……なにこれ」
 動画を再生させると、そこには題名通りの映像が流れ始めた。
 魔法少女と魔王軍、そして配信者が第三勢力と呼んでいる存在が縦横無尽に動き回り戦っている。
 第三勢力。
 この動画ではそう呼ばれている存在は、どこをどう見ても化け物としか形容できない見た目をしていた。
 人間が4足歩行をしている態勢だが、肘と膝にあたる部分が背中よりも上で曲がっており、手のひらと足の裏で体重を支えている格好だ。
 服は着ていなく体毛も一切生えていないし、体の部分には何もついていなく作り物のように凹凸がない。
 顔には鼻がなく、大きな目と鋭い牙の生えた大きな口がついている。
 一言で言って気持ち悪い。
 パニック映画に出てくる化け物みたいだ。
 勢力的には魔法少女と魔王軍対第三勢力。
 どう見ても魔法少女と魔王軍が共闘している。
 今まで敵同士だったのに、お互いの魔法や能力を駆使して相手にダメージを与えているが、第三勢力も負けてはいない。
 どういう原理なのか、細く長い腕と足から繰り出される鞭のような素早い攻撃は、周りのコンクリートや建物を破壊していく。
 爪も発達しているのか垂直に壁を走り回る様はクモを彷彿とさせた。
 動画から目が離せない。
 魔法少女と魔王軍の戦いよりも激しい攻防が繰り広げられている。
 吹っ飛ばしたり吹っ飛ばされたり、それでもお互いに引くことなく続けられた戦いは、魔法少女と魔王軍が同時に放った攻撃が第三勢力に直撃したところで終止符が打たれた。
 第三勢力が爆散し砂埃が画面を満たす。
 息を切らす魔法少女と魔王軍が映し出され、動画は終わった。
「……」
 なんなんだ今のは。
 まるで正義の味方と侵略者のような構図。
 魔法少女と魔王軍はお互いに目的はあれど、要は力試しをしているだけで地球はその会場に選ばれただけ。
 危害を及ぼす気はさらさらないはずだ。
 戦いで壊れたものを毎回きれいに修復してくれているし、戦いに巻き込まれてケガをした人もいない。
 いつの間にかアイドル化してしまう程度には無害な存在だ。
 でも、第三勢力に関しては本気で倒しにいっていたし、現に殺している。
 今までにない臨場感がそこにはあった。
 その日から、テレビや動画サイトで流れる映像が変化していった。
 魔法少女対魔王軍の戦いが、魔法少女と魔王軍対第三勢力――いつの間にかクリーチャーと呼ばれるようになったそれとの戦いになった。
 シュチュエーションはまちまちで、最初の動画のように魔法少女と魔王軍の共闘もあれば単体での戦闘、とにかく相手がクリーチャーである共通点以外はその時々で状況が変わっていた。
 もう魔法少女も魔王軍もひとつのチームでクリーチャーを倒しにかかっている。
 そして私たち地球人も最速クリーチャーを敵視していた。
 クリーチャーは魔法少女や魔王軍と違って誰彼構わず襲ってきたからだ。
 ネットにはクリーチャーに襲われたという書き込みが多く見受けられるようになったが、その度に魔法少女と魔王軍が助けに現れてくれるので、大きなケガや死人は出ていなかった。
 2隻の母艦が現れた時のような恐怖が日本に暗い影を落とし始め、魔法少女と魔王軍は正義の味方と認識が改まり始めた矢先、私は再び魔王軍の母艦に連れてこられることとなった。
「未来、クローンから受け取っただろう。それを渡しておく」
 魔王の部屋で向かい合う。
 魔王が指すのは先ほどクロくんに渡された戦闘服一式。
 私が新人戦で使用したものだ。
「あいつらーー人間はクリーチャーと呼んでいたか。そいつらの存在は知っているな?」
「はい」
「わかっているとは思うが、あいつらは我らの敵だ。もちろん魔法少女の敵でもある」
 魔王は忌々しそうに顔を歪めた。
「あいつらはいつも我らの戦いの邪魔をする。魔王軍と魔法少女が戦う時に放出されるエネルギーに反応して追いかけてきてはその星に寄生するのさ」
 魔王の説明によれば、クリーチャーとは魔法少女も魔王軍も因縁の関係らしい。
 いつもどんな星にも現れて、戦いの邪魔をする。
 ただ、戦いのエネルギーがある程度星に定着しないと現れないため、いつもその前に引き上げるのが通例らしかった。
 クリーチャーが現れたのは、本当に久しぶりだったらしい。
 考えるに、魔法少女と魔王軍の戦いに熱をあげている私たちの影響で、本来よりもエネルギーの蓄積が早まったのだろうと。
 これには魔法女王も同じ意見らしい。
「あいつらは襲えるものは何でも襲う。我らとは全く別の生き物だ。今はまだ数は少ないが、放っておけば繁殖が進む。自衛のためにそれを持っておけ」
「あの、クリーチャーに寄生された星はどうなるんですか?」
「さぁな。まぁ、大方その星の生物の絶滅か……。そんな顔をするな。いつもそうなる前に全滅させているから安心しろ。あいつらの女王を倒せば自動的に他の個体も消滅する」
「本当ですか?」
「ああ。今現在、魔法少女たちと協力して女王を捜索中だ」
 よかった。
 魔王の言葉に少し安心する。
「魔王様!」
 すると、少し慌てた様子でクロくんが魔王の部屋に入ってきた。
「どうした?」
「あるエリアでやつらが大量発生したとの報告がありました。恐らく巣です」
「そうか。今回は動きが早いな。数で押しきるつもりか。広間に軍を集めておけ。全勢力をそこに送る。魔法女王にもそう伝えろ」
「かしこまりました」
「あ、あのっ」
 走り去るクロくんを追って席を立った魔王に話しかける。
「わ、私も……」
「行きたいか」
「……はい!」
 どうしてそう思ったんだろう。
 でも、このまま見て見ぬふりはしたくなかった。
 私にできることはやってみたい。
 私の様子に魔王は微笑を浮かべる。
「なら、着いてこい。我らと共に戦ってもらう」



 急いで着替え、ゴーグルをつける。
 連れてこられたのは大広間で、中にはすでに数10人の魔王軍が集結していた。
 中にはテレビで見た顔もちらほらある。
 ミッドナイトだ。
 こんな時でも有名人を生で見れたことに感動する。
 母艦の中の街を見て思っていたが、住民の全員が戦闘要員といわけではないようだ。
 ボンバーくんとマッドちゃんの姿もあるが、雰囲気的に声をかけることができず向こうも私に気が付いてはいないようだ。
「諸君!」
 魔王が広間の中央に立って演説をする。
「もうすでに聞いているとは思うが、やつらの巣が見つかった。その周辺には分裂個体も多く現れている。このままやつらの好き勝手にさせるわけにはいかない。総攻撃をかけ女王もろとも全滅させろ!」
「魔王様の仰せのままに!」
 広間中に魔王軍の声が響き渡る。
 迫力に気圧されている間に魔王が広間にいた全員を瞬間移動させた。
 気が付けば大きな工場の敷地内にいた。
 複数の建物に大きなタンク、太いパイプが地面から上空にかけて繋がっている。
 地面のコンクリートにはひびが入り草が生え、タンクやパイプには錆が目立つ。
 いたるところにほころびがあり、細長い煙突すべてから煙が上がっていないところを見るに廃工場らしかった。
「……うわっ」
 そして、そこかしこにクリーチャーが待ち構えていた。
 虫の大群を見たときのように、全身に鳥肌が立つ。
 ぎょろぎょろとした目がぐるぐる回って私たちに焦点を当てる。
 牙を見せつけるように大口を開けて奇声を発したかと思うと一斉に飛びかかってきた。
「ひぃ」
 思わず後ずさってしまった私とは違い、周りにいた魔王軍はみんなクリーチャーに向かっていった。
 言葉を交わしていないのに、各々が自分の役目を果たすように阿吽の呼吸でクリーチャーと戦っている。
 個人で戦う者、協力して戦う者、周りを見て能力を補うようにフォローに専念する者もいた。
 やっぱり戦いなれている人たちは違う。
 目の前で繰り広げられているのは間違いなく戦争と言われるものだった。
 どうしよう。
 戦闘についていけずにおろおろする。
 そんな戦闘慣れしていない私に目を付けたのだろう、1匹のクリーチャーがじりじりとにじり寄ってくる。
 なんとかハンマーを構えたが混乱して行動に移せない私は後ずさることしかできなかった。
 いつの間にか壁際に追いつめられ、それ以上後退できなくなった。
 それを見逃さないクリーチャーは一気に手足に力を込めて全力で突進してくる。
「フローラルシャワー!」
 思わず目を瞑ってしまった私の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んでくる。
 目の間に溢れる花が、クリーチャーを覆う。
「こっちです! 未来!」
 急に視界が奪われ戸惑ったような鳴き声を上げるクリーチャーを横目に、腕を引かれた先にいたのは強張った表情のフローラだった。
「フローラ!?」
 腕を引かれて走り出し、クリーチャーの背後を取る。
「未来、とどめを!」
「う、うん!」
 フローラが魔法を解いて花を消したタイミングを見計らい、クリーチャーをハンマーで殴りつける。
 攻撃は見事にクリーンヒットし、クリーチャーは地面にめり込み動かなくなった。
「やりましたね」
「……ありがとう、フローラ」
 御礼を伝えるとフローラが微笑む。
「でも、どうしてフローラがここに?」
「女王様の命令です。魔王軍と一緒にやつらを倒せと。ほら」
 フローラの指さす方向をみると、大勢の魔法少女が魔王軍と同じくクリーチャーと戦っていた。
「すごい」
 そこここで繰り広げられる闘い。
 魔法や能力が飛び交い、美しく鮮明な光景が視界いっぱいに広がっていた。
「わたくしの魔法も少しは役に立つみたいですね」
「うん、すっごく助かった」
「さぁ、わたくしたちも行きましょう。一緒に戦えば怖くないですから」
「うん!」
 ひとりじゃないと思った途端、先ほどまでの恐怖が薄くなる。
 まだ少し怖いけれど、それ以上にアドレナリンが分泌されて戦闘意欲を刺激した。
 それからどのくらい戦ったのかわからない。
 フローラと、途中で出会ったボンバーくんやマッドちゃんと、そのほかの魔法少女や魔王軍と協力してクリーチャーと戦い続けた。
 攻撃されて吹っ飛ばされて、危ない目に遭いそうになったりもしたけれど、ハンマーと戦闘服、周りのみんなのおかげで着実にクリーチャーを倒していった。
 ケガをしても気にしない。
 気にならない。
 そうしてほとんどのクリーチャーを倒したころ、魔法少女と魔王軍にも疲れが見え始めたところで地鳴りがした。
 こんな時に地震!?
 思わず近くにあったパイプに掴まっていると敷地内中央にあった建物が一気に崩れ、巨大なクリーチャーが現れた。
「なにあれ!?」
「あれが女王です」
「女王!?」
 そうだ、忘れていたけれどここがクリーチャーの巣だって魔王が言っていた。
 女王と言っても見た目は巨大なクリーチャー。
 手足が倍の8本に増えている。
 いよいよクモにそっくりだ。
「あれを倒せばいいの?」
「はい、女王を倒せばやつらは全滅します」
「わかった!」
 大きな的の登場に、魔法少女と魔王軍が容赦なく攻撃を仕掛ける。
 しかし、女王も負けてはいない。
 手足を振り回し、魔法少女と魔王軍を薙ぎ払う。
 防御力もほかのクリーチャーに比べて高いらしく、なかなか攻撃が貫通しない。
 私も負けじと女王のもとに走り寄って攻撃をする。
 その間、いくつも瓦礫が降ってきたがフローラが魔法で防いでくれる。
 この戦いでわかったことだが、フローラの魔法は防御にむいているようだ。
 だめだ、まったく歯が立たない。
 ハンマーで手足を殴っても、なかなかダメージが与えられない。
 そこで目に止まったのが、大きな煙突。
 これなら。
 煙突の根元を叩けば思惑通りにヒビが入った。
 これならなんとか壊せそうだ。
 もう1度殴る。
「僕も手伝うんだな!」
 私がしようとしていることがわかったのか、ボンバーくんが飛び上がる。
「ボンバー!」
 煙突に向かって爆発する。
「ありがとう、ボンバーくん!」
 タイミングを合わせて思いっきりハンマーを降れば、煙突が折れて女王の上に倒れた。
 悲鳴をあげ、女王が下敷きになる。
 思うように動けなくなったところで、残りの魔法少女と魔王軍が総攻撃をかけた。
 やがて、女王がびくびくと痙攣し始め、風船のように膨らんでいく。
「あっ、自爆だー」
 マッドちゃんが、私とボンバーくん、フローラを引っ付かんで地面にもぐる。
 瞬間、地面の下からでもわかる衝撃と熱と光。
 静まり返ったところで恐る恐る地面から顔を出せば、女王がいた場所は大きく抉れ焦げているがそこには何もいなかった。
 辛うじて残っていたクリーチャーもいない。
 戦闘の後だけが生々しく残った工場には、ボロボロになった魔法少女と魔王軍、そして人間の私がいるだけだった。
「勝ったの?」
 誰に訊くでもなく呟く。
「勝ったんですよ」
 フローラが笑顔で答えてくれた。
「本当に?」
「本当だよー」
「だなだな」
 マッドちゃんとボンバーくんも満身創痍だが安心したような表情を浮かべている。
 勝った。
 勝ったんだ。
 私たちが勝ったんだ!
「やったー!」
 3人に抱きつき抱き締める。
 私たち4人は喜びの声をあげながら、勝利の余韻に浸っていた。
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