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魔王軍の面接
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ど、どうしよう……。
私は魔王軍の母艦の中にいた。
周りはSF映画の実験施設みたいに白の壁と廊下が続いている。
光を反射する色のせいか、はたまたライトが多いだけなのか妙に明るくてスマホの画面を見ているみたいに目がチカチカした。
フローラに魔王軍入隊をお願いされたのが昨日の話。
あの後は笑いながら流していたらだんだんとお願いの度合いがヒートアップしてきたので、これは本気だと感じた私は逃げるように家へ走って逃げた。
きっとフローラもあの場のテンションで言っていただけで、今頃正気を取り戻して母艦に帰っているだろう。
そう思っても夕食の味は覚えていないし、宿題も全く集中できなかった。
ベッドに入っても思い出すのはフローラのこと。
あの期待に満ちたきらきらした目と希望に弾む声が脳裏から離れない。
彼女を裏切ったかのような罪悪感で胸がいっぱいになりながら、その日は眠った。
そして今日、学校の帰り道。
あの公園でフローラが待ち伏せしていた。
「未来!」
「フローラ!?」
「魔王軍から面接の許可をもらいました。今から魔王の母艦へ移動魔法をかけますので、しっかりアピールしてくるんですよ」
「えっ、えっ!?」
ブローチを魔法のステッキに変え、フローラは笑う。
「健闘を祈ります」
呪文とか唱えないんだ。
視界が霧のようにかすむ中、そんなことを思った。
そして現在、私は魔王軍の母艦と思われる場所にいた。
直前のフローラの言葉が嘘でなければ、ここは間違いなく魔王軍の母艦。
前は先の見えない廊下だし、後ろは壁になっていて行き止まり。
どうしたらいいのかわからなくてしばらくじっとしていれば、廊下の先から足音が聞こえてきた。
「……どうかしましたか?」
隠れようにも何もないのでせめてもの抵抗でうずくまっていれば、頭上から少し困ったような声がふってくる。
恐る恐る顔をあげると、手首から足首まですっぽりおおう長さのポンチョを着たおかっぱ頭の男の子が立っていた。
真ん丸な黒目はかわいいが、男の子に表情はない。
その代わり、小首をかしげている。
「高橋未来様ですか?」
「は、はい」
「魔王様より魔王城へ案内するよう仰せつかっている者です。迷っているだろうからとお迎えにあがりました」
「……ありがとうございます」
「どうしたしまして」
ぺこりとお辞儀をされる。
なんとなく怖がる必要はないかもしれないと思い、立ち上がってもう1度男の子を観察する。
身長は1メートルくらいと小さく、悪魔みたいな2本の角としっぽが生えている。
テレビで観る限り、魔王軍はみんなこの角としっぽが生えていた。
「それでは行きましょうか」
「行くってどこに?」
「魔王城です。魔王軍の面接に来たのでしょう」
「そのことなんですけど、それは手違いというかなんというか、とにかく私は魔王軍に入るつもりはないというか、そもそも私人間だし、魔法少女と戦うなんて無理です!」
「そうですか。それではいきましょう」
「なんで!?」
今の会話でどうしてそうなるの。
こんなに必死に説明してるのに。
私の言葉なんて聞こえていないみたいに男の子は振り返らずにどんどん進んでいく。
このまま取り残されてもどうすることもできないので仕方なく追いかける。
「私ただの中学生ですよ。ここに来たのだってフローラルフラワーっていう魔法少女に無理やり連れてこられただけで。大体、どうして敵対している魔法少女の紹介する人間なんて受け入れるんですか?」
「敵対?」
男の子が立ち止まり振り返る。
相変わらず無表情でそれを補うように首を傾げる。
「僕たちは別に敵対しているわけではないですよ。馴れ合うような仲の良さはありませんがお互いに切磋琢磨して実力を高め合うような間柄です」
まさかの事実に言葉を失う。
あんなに激しく戦っているのだから、勝手に憎しみ合う敵対関係なのだと思っていた。
言葉に詰まっていると男の子が続ける。
「力試しって感じですね。同族同士だとどうしても限界が来るので。あなたたちがどう考えているのかは知りませんが僕たちにとってはゲームとかトーナメントとかそんな感じですよ。僕たち魔王軍は娯楽のため、魔法少女は女王を決めるための催し。お互いの利害が一致した結果の戦いです」
「そ、そうなんだ……」
「それと、僕たちにとって魔王様は絶対です。魔王様が連れてこいと言っている以上、それ以外の選択肢はありません。なので拒もうが手違いだろうがあなたを連れていくしかないのです」
「そんなー」
それ以上は本当に何を言っても無駄だった。
途中で再びうずくまって抵抗してみたが無言でお姫様抱っこをされたのでやめた。
ここはもうおとなしくついて行って面接で落としてもらおう。
いくら紹介とはいえこんな普通の女子中学生がやってきたんじゃ、かの魔王様もがっかりするだろう。
歩き続けて30分ほど。
ようやく廊下の終わりが見えた。
エレベーターのような取っ手のない扉が天井から床までの壁一面に広がっている。
「わぁ」
開いた扉の向こうには、草原が広がっていた。
青い空に草の匂いのする風。
地面がむき出しの道は少しうねりながら先のほうにのびている。
暖かな日差しが気持ちいい。
これが母船の中なんて信じられない。
思わず来た道を確認するも無機質な廊下が確かにあって、自然と人工のギャップに混乱する。
「首都へはまだかかりますから、これに乗って移動しましょう」
男の子の後について扉をくぐる。
指された先には1台の馬車が停まっていたが、それを引いているのは馬とは少し違う生き物。
魔王軍とはまた違った立派な角が生えているし、身体も大きくがっしりしている。
背骨にそってたてがみのかわりに黒光りするウロコが生えていた。
「大人しい子なので怖がらなくても大丈夫ですよ」
確かにこちらを観察しているのか真っ赤な目は丸くて愛嬌があって、不思議と恐怖心は湧いてこない。
促されるまま馬車に乗ってしばらくすると、遠くに街が見えてきた。
「あれが魔王様が治めているこの母艦の首都です」
向かいに座っていた男の子が説明してくれる。
ちなみに馬車を引いている生き物は自分の意志でちゃんと目的地に連れていってくれるらしく、手綱を握る馭者はいない。
土で出来た道が石畳に変わり、まばらに木々も見えてくる。
小川が流れているのを見つけたが、海や山まであるのだろうか。
首都のメイン通りを走る頃には沢山の家々とお店が並び、ここで生活している人々ーー魔族と表現したほうがわかりやすいだろうか、が行き交っている。
まるでゲームの世界だ。
異世界系のRPGの世界観にそっくりだ。
見たことのない光景にワクワクして心臓の鼓動がいつもより大きい。
顔が少し熱かった。
街を抜け石橋を渡り城門をくぐると、ようやく目的の魔王城へと到着した。
外国にありそうな、立派な石造りのお城だ。
もっとおどろおどろしいものを想像していたが、あまりに普通のお城だった。
意外な結果に口をぽかんと開けてしまう。
「魔王城? これが?」
「はい」
「普通だね」
「普通じゃないお城ってあるんですか?」
確かに。
勝手な想像をして実際と違ったからがっかりみたいなリアクションは失礼かもしれない。
「さぁ、行きましょう。魔王様がお待ちです」
「はい」
そうだった。
すっかり忘れていたが、私は魔王軍入隊の面接を受けに来たんだった。
そして不採用を勝ち取るのだ。
決意を胸に進んでいく。
赤い絨毯の上を歩き続けて、お城の中でも一際大きな扉の前で立ち止まる。
「面接希望の高橋未来様をお連れしました」
その声に答えるように重厚な音を立てながらゆっくりと扉が開く。
「どうぞ、この先はおひとりで」
背中を押されて中に入ると、後ろで扉が閉まる音がした。
「……」
もう、行くしかない。
生唾を飲み込み、勇気を振り絞って1歩を踏み出した。
薄暗い部屋の奥には玉座があり、ひとりの人物が座っていた。
今まで見た中で1番大きく立派な角を頭に生やした女の人だ。
見た目は20代半ばで切れ長な瞳が特徴的な美人だ。
上下に分かれた露出の高い服はアラブ女性の衣装を彷彿とさせた。
玉座に大仰に座っているということは、彼女が魔王なのだろう。
そういうパターンの魔王も最近は漫画や小説で増えてきているから、そこに関してはあまり驚かない。
筋肉ムキムキの男よりずっといい。
玉座から数メートル離れたところで立ち止まる。
王様に謁見するような生活は送っていないので、こういう時どうしたらいいのかわからない。
魔王も何を言うでもなく、私をじっと見つめるだけ。
表情から感情を読み取れず困る。
機嫌がいいのか悪いのかもわからないので、とりあえず礼儀として頭を下げた。
「は、初めまして。高橋未来です」
「……」
「えと、魔王様。今日は魔王軍の入隊面接ということでーー」
「採用」
「……えっ」
「可愛いから採用」
「ちょっーー」
「小鳥みたいで気に入った。採用」
真顔で親指を立てながら、魔王は事も無げにそう言った。
予想外の流れに動揺が隠せない。
「早速戦闘服なり武器なり揃えないとな。新人戦は来月だからまぁ時間はあるが、メンバーとの顔合わせと交流会くらいはやっておいたほうがいいだろう。未来は確か学生だったな。放課後は何かと忙しいだろうから、来週の週末はどうだろうか。こちらにもいろいろと準備があるのだ」
ひとりわたわたしている私を気にせず、魔王は淡々と話す。
えっ、私魔王軍に入隊するの?
しがない中学2年生が?
魔法少女と魔王軍の戦いがどんなものなのか、テレビで観て知っている。
あんなに簡単に相手を吹っ飛ばしたり建物を破壊できるような人たちだ。
文字通りの人外同士の戦いにどうして私が巻き込まれないといけないのか。
意味がわからない。
「私、戦えません!」
相手が魔王だとかどうでもいい。
大声で否定する。
「誰も新人に高い戦闘能力なんて求めてないさ。あちらもこちらも新人に経験を積ませるための交流戦くらいにしか思ってない。ただの力試しだ」
「その力試しにどうして私がっ」
「ほんの思いつきさ。軍の科学者が地球人でも扱える武器を作るのにハマっていてな。せっかくだから試してみたいと思うのは自然なことだろう。ちょうど新人戦も近かったし素人の地球人を使うのにもいいタイミングだった。ただ、新人戦の雰囲気を壊さないような人材を探すのに苦労してな。困っていたところに魔法少女から紹介されたのがお前だったというわけだ」
というわけだ、じゃない!
「いやー、イメージ通りで安心した。初々しい感じがいい。地球人の戦いぶり、楽しみにしているぞ未来」
ニカッと歯を剥き出しにして魔王が笑う。
美人の豪快な笑顔はやっぱり美人だった。
楽しみだと言われ、嬉しそうな笑顔を向けられて言葉を失う。
私が何を言ってもこの結果が変わることはないだろうと悟ると同時に、フローラに期待を向けられた時と同じ感情がじわりと滲む。
「今日はもう遅い。家族も心配しているだろうから、もう帰れ。我が送ってやる。詳しい話はまた来週にするとして、その時はまた迎えをやるから大人しく家で待っているといい」
玉座から立ち上がった魔王が目の前で立ち止まり、細く長い指が頬を撫でた。
気がつくと我が家の玄関ドアの前に立っていた。
さっきまでも出来事が嘘のように、見慣れた景色が広がっている。
「未来、中に入らないでどうしたの」
洗濯物を取り込もうとベランダから出てきたお母さんが不思議そうに声をかけてきた。
「なんでもない」
それ以外言えなくて、さっとドアを開けて自分の部屋に直行した。
「あらやだ、反抗期?」
そんな声が聞こえたが無視。
頭の整理が追い付かない。
自分の部屋に向かう時、台所からカレーの匂いがしたが、きっと今日も味はしないのだろう。
ーーどうしよう。大変なことになっちゃった。
ベッドに倒れ込み頭を抱える。
高橋未来、14歳。
魔法少女をたすけたら魔王軍に入隊しました。
私は魔王軍の母艦の中にいた。
周りはSF映画の実験施設みたいに白の壁と廊下が続いている。
光を反射する色のせいか、はたまたライトが多いだけなのか妙に明るくてスマホの画面を見ているみたいに目がチカチカした。
フローラに魔王軍入隊をお願いされたのが昨日の話。
あの後は笑いながら流していたらだんだんとお願いの度合いがヒートアップしてきたので、これは本気だと感じた私は逃げるように家へ走って逃げた。
きっとフローラもあの場のテンションで言っていただけで、今頃正気を取り戻して母艦に帰っているだろう。
そう思っても夕食の味は覚えていないし、宿題も全く集中できなかった。
ベッドに入っても思い出すのはフローラのこと。
あの期待に満ちたきらきらした目と希望に弾む声が脳裏から離れない。
彼女を裏切ったかのような罪悪感で胸がいっぱいになりながら、その日は眠った。
そして今日、学校の帰り道。
あの公園でフローラが待ち伏せしていた。
「未来!」
「フローラ!?」
「魔王軍から面接の許可をもらいました。今から魔王の母艦へ移動魔法をかけますので、しっかりアピールしてくるんですよ」
「えっ、えっ!?」
ブローチを魔法のステッキに変え、フローラは笑う。
「健闘を祈ります」
呪文とか唱えないんだ。
視界が霧のようにかすむ中、そんなことを思った。
そして現在、私は魔王軍の母艦と思われる場所にいた。
直前のフローラの言葉が嘘でなければ、ここは間違いなく魔王軍の母艦。
前は先の見えない廊下だし、後ろは壁になっていて行き止まり。
どうしたらいいのかわからなくてしばらくじっとしていれば、廊下の先から足音が聞こえてきた。
「……どうかしましたか?」
隠れようにも何もないのでせめてもの抵抗でうずくまっていれば、頭上から少し困ったような声がふってくる。
恐る恐る顔をあげると、手首から足首まですっぽりおおう長さのポンチョを着たおかっぱ頭の男の子が立っていた。
真ん丸な黒目はかわいいが、男の子に表情はない。
その代わり、小首をかしげている。
「高橋未来様ですか?」
「は、はい」
「魔王様より魔王城へ案内するよう仰せつかっている者です。迷っているだろうからとお迎えにあがりました」
「……ありがとうございます」
「どうしたしまして」
ぺこりとお辞儀をされる。
なんとなく怖がる必要はないかもしれないと思い、立ち上がってもう1度男の子を観察する。
身長は1メートルくらいと小さく、悪魔みたいな2本の角としっぽが生えている。
テレビで観る限り、魔王軍はみんなこの角としっぽが生えていた。
「それでは行きましょうか」
「行くってどこに?」
「魔王城です。魔王軍の面接に来たのでしょう」
「そのことなんですけど、それは手違いというかなんというか、とにかく私は魔王軍に入るつもりはないというか、そもそも私人間だし、魔法少女と戦うなんて無理です!」
「そうですか。それではいきましょう」
「なんで!?」
今の会話でどうしてそうなるの。
こんなに必死に説明してるのに。
私の言葉なんて聞こえていないみたいに男の子は振り返らずにどんどん進んでいく。
このまま取り残されてもどうすることもできないので仕方なく追いかける。
「私ただの中学生ですよ。ここに来たのだってフローラルフラワーっていう魔法少女に無理やり連れてこられただけで。大体、どうして敵対している魔法少女の紹介する人間なんて受け入れるんですか?」
「敵対?」
男の子が立ち止まり振り返る。
相変わらず無表情でそれを補うように首を傾げる。
「僕たちは別に敵対しているわけではないですよ。馴れ合うような仲の良さはありませんがお互いに切磋琢磨して実力を高め合うような間柄です」
まさかの事実に言葉を失う。
あんなに激しく戦っているのだから、勝手に憎しみ合う敵対関係なのだと思っていた。
言葉に詰まっていると男の子が続ける。
「力試しって感じですね。同族同士だとどうしても限界が来るので。あなたたちがどう考えているのかは知りませんが僕たちにとってはゲームとかトーナメントとかそんな感じですよ。僕たち魔王軍は娯楽のため、魔法少女は女王を決めるための催し。お互いの利害が一致した結果の戦いです」
「そ、そうなんだ……」
「それと、僕たちにとって魔王様は絶対です。魔王様が連れてこいと言っている以上、それ以外の選択肢はありません。なので拒もうが手違いだろうがあなたを連れていくしかないのです」
「そんなー」
それ以上は本当に何を言っても無駄だった。
途中で再びうずくまって抵抗してみたが無言でお姫様抱っこをされたのでやめた。
ここはもうおとなしくついて行って面接で落としてもらおう。
いくら紹介とはいえこんな普通の女子中学生がやってきたんじゃ、かの魔王様もがっかりするだろう。
歩き続けて30分ほど。
ようやく廊下の終わりが見えた。
エレベーターのような取っ手のない扉が天井から床までの壁一面に広がっている。
「わぁ」
開いた扉の向こうには、草原が広がっていた。
青い空に草の匂いのする風。
地面がむき出しの道は少しうねりながら先のほうにのびている。
暖かな日差しが気持ちいい。
これが母船の中なんて信じられない。
思わず来た道を確認するも無機質な廊下が確かにあって、自然と人工のギャップに混乱する。
「首都へはまだかかりますから、これに乗って移動しましょう」
男の子の後について扉をくぐる。
指された先には1台の馬車が停まっていたが、それを引いているのは馬とは少し違う生き物。
魔王軍とはまた違った立派な角が生えているし、身体も大きくがっしりしている。
背骨にそってたてがみのかわりに黒光りするウロコが生えていた。
「大人しい子なので怖がらなくても大丈夫ですよ」
確かにこちらを観察しているのか真っ赤な目は丸くて愛嬌があって、不思議と恐怖心は湧いてこない。
促されるまま馬車に乗ってしばらくすると、遠くに街が見えてきた。
「あれが魔王様が治めているこの母艦の首都です」
向かいに座っていた男の子が説明してくれる。
ちなみに馬車を引いている生き物は自分の意志でちゃんと目的地に連れていってくれるらしく、手綱を握る馭者はいない。
土で出来た道が石畳に変わり、まばらに木々も見えてくる。
小川が流れているのを見つけたが、海や山まであるのだろうか。
首都のメイン通りを走る頃には沢山の家々とお店が並び、ここで生活している人々ーー魔族と表現したほうがわかりやすいだろうか、が行き交っている。
まるでゲームの世界だ。
異世界系のRPGの世界観にそっくりだ。
見たことのない光景にワクワクして心臓の鼓動がいつもより大きい。
顔が少し熱かった。
街を抜け石橋を渡り城門をくぐると、ようやく目的の魔王城へと到着した。
外国にありそうな、立派な石造りのお城だ。
もっとおどろおどろしいものを想像していたが、あまりに普通のお城だった。
意外な結果に口をぽかんと開けてしまう。
「魔王城? これが?」
「はい」
「普通だね」
「普通じゃないお城ってあるんですか?」
確かに。
勝手な想像をして実際と違ったからがっかりみたいなリアクションは失礼かもしれない。
「さぁ、行きましょう。魔王様がお待ちです」
「はい」
そうだった。
すっかり忘れていたが、私は魔王軍入隊の面接を受けに来たんだった。
そして不採用を勝ち取るのだ。
決意を胸に進んでいく。
赤い絨毯の上を歩き続けて、お城の中でも一際大きな扉の前で立ち止まる。
「面接希望の高橋未来様をお連れしました」
その声に答えるように重厚な音を立てながらゆっくりと扉が開く。
「どうぞ、この先はおひとりで」
背中を押されて中に入ると、後ろで扉が閉まる音がした。
「……」
もう、行くしかない。
生唾を飲み込み、勇気を振り絞って1歩を踏み出した。
薄暗い部屋の奥には玉座があり、ひとりの人物が座っていた。
今まで見た中で1番大きく立派な角を頭に生やした女の人だ。
見た目は20代半ばで切れ長な瞳が特徴的な美人だ。
上下に分かれた露出の高い服はアラブ女性の衣装を彷彿とさせた。
玉座に大仰に座っているということは、彼女が魔王なのだろう。
そういうパターンの魔王も最近は漫画や小説で増えてきているから、そこに関してはあまり驚かない。
筋肉ムキムキの男よりずっといい。
玉座から数メートル離れたところで立ち止まる。
王様に謁見するような生活は送っていないので、こういう時どうしたらいいのかわからない。
魔王も何を言うでもなく、私をじっと見つめるだけ。
表情から感情を読み取れず困る。
機嫌がいいのか悪いのかもわからないので、とりあえず礼儀として頭を下げた。
「は、初めまして。高橋未来です」
「……」
「えと、魔王様。今日は魔王軍の入隊面接ということでーー」
「採用」
「……えっ」
「可愛いから採用」
「ちょっーー」
「小鳥みたいで気に入った。採用」
真顔で親指を立てながら、魔王は事も無げにそう言った。
予想外の流れに動揺が隠せない。
「早速戦闘服なり武器なり揃えないとな。新人戦は来月だからまぁ時間はあるが、メンバーとの顔合わせと交流会くらいはやっておいたほうがいいだろう。未来は確か学生だったな。放課後は何かと忙しいだろうから、来週の週末はどうだろうか。こちらにもいろいろと準備があるのだ」
ひとりわたわたしている私を気にせず、魔王は淡々と話す。
えっ、私魔王軍に入隊するの?
しがない中学2年生が?
魔法少女と魔王軍の戦いがどんなものなのか、テレビで観て知っている。
あんなに簡単に相手を吹っ飛ばしたり建物を破壊できるような人たちだ。
文字通りの人外同士の戦いにどうして私が巻き込まれないといけないのか。
意味がわからない。
「私、戦えません!」
相手が魔王だとかどうでもいい。
大声で否定する。
「誰も新人に高い戦闘能力なんて求めてないさ。あちらもこちらも新人に経験を積ませるための交流戦くらいにしか思ってない。ただの力試しだ」
「その力試しにどうして私がっ」
「ほんの思いつきさ。軍の科学者が地球人でも扱える武器を作るのにハマっていてな。せっかくだから試してみたいと思うのは自然なことだろう。ちょうど新人戦も近かったし素人の地球人を使うのにもいいタイミングだった。ただ、新人戦の雰囲気を壊さないような人材を探すのに苦労してな。困っていたところに魔法少女から紹介されたのがお前だったというわけだ」
というわけだ、じゃない!
「いやー、イメージ通りで安心した。初々しい感じがいい。地球人の戦いぶり、楽しみにしているぞ未来」
ニカッと歯を剥き出しにして魔王が笑う。
美人の豪快な笑顔はやっぱり美人だった。
楽しみだと言われ、嬉しそうな笑顔を向けられて言葉を失う。
私が何を言ってもこの結果が変わることはないだろうと悟ると同時に、フローラに期待を向けられた時と同じ感情がじわりと滲む。
「今日はもう遅い。家族も心配しているだろうから、もう帰れ。我が送ってやる。詳しい話はまた来週にするとして、その時はまた迎えをやるから大人しく家で待っているといい」
玉座から立ち上がった魔王が目の前で立ち止まり、細く長い指が頬を撫でた。
気がつくと我が家の玄関ドアの前に立っていた。
さっきまでも出来事が嘘のように、見慣れた景色が広がっている。
「未来、中に入らないでどうしたの」
洗濯物を取り込もうとベランダから出てきたお母さんが不思議そうに声をかけてきた。
「なんでもない」
それ以外言えなくて、さっとドアを開けて自分の部屋に直行した。
「あらやだ、反抗期?」
そんな声が聞こえたが無視。
頭の整理が追い付かない。
自分の部屋に向かう時、台所からカレーの匂いがしたが、きっと今日も味はしないのだろう。
ーーどうしよう。大変なことになっちゃった。
ベッドに倒れ込み頭を抱える。
高橋未来、14歳。
魔法少女をたすけたら魔王軍に入隊しました。
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児童書・童話
捨て犬のタロウは人間不信で憎しみにも近い感情を抱きやさぐれていました。
ある日誰も信用していなかったタロウの前にタロウを受け入れてくれる存在が現れます。
タロウはやがて受け入れてくれた存在に恩返しをするため懸命な行動に出ます。
出会いと別れ、そして自己犠牲のものがたり。
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