* 闇の白虎

慈雨

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08.タチの悪い悪戯

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雨の日は、どこか懐かしい香りがする。
外にいれば鬱陶しい雨音も、室内から聴くと軽快なリズムに変わった。


「今週からずっと雨だな」

「梅雨だからね」

窓の外を見ながら、慎也と瑞稀は当たり前の事を言い合った。


「なんや、辛気臭いなあ。なあ、みおりん?」

「僕に振らないで。あとその呼び方うざい」

訛りのある少年、彰は同意を求めたが、賛同を得る事は残念ながらなかった。


4人は瑞稀の机を中心に集まっているーーといっても、自分の事を“僕”と呼ぶ風変わりな少女、椎名澪梨はもともと瑞稀の隣の席である。

彼女は寧ろ、集ってくるメンバーに嫌気がさしていた。

構わず次の授業の準備を始める。

ふと、彼女の動きが止まった瞬間があった。
次に見た時は、それが気のせいだったかのように、作業が再開されたが。


「澪梨、教科書忘れたのか?」

瑞稀が気にしない筈がない。


「昨日はノート忘れてたよな? 何かあった?」

「別に、関係ないでしょ」

つんとそっぽを向く澪梨だったが、以前は完璧なほど人に頼らないように物事を済ませる人物だっただけに、違和感を抱いた。


「とにかく、次の時間は俺の教科書一緒に見ようよ。池永先生、一人一回は当てるからさ」

瑞稀と澪梨は隣同士だから、二つの席の真ん中に教科書を置くことなど造作もない。


「いい。お構いなく」

だが澪梨はいやに頑固だった。
この間の“チーム対抗鬼ごっこ”で少し距離が縮まったと思ったが、やはりそれは成功報酬のためだったのだろうか。


結局、池永の授業では中盤頃に澪梨が当てられた。
瑞稀が教科書をさり気なく差し出すが、受け取ろうとしない。

椅子をガタッと鳴らして立ち上がり、「教科書を忘れました」とだけ言って再び席に着いた。

池永も追求せず、次の生徒を名指しして、授業は変わらず進んでいく。

澪梨の周りだけが異質な雰囲気を醸し出しているように、瑞稀は感じた。


瑞稀には澪梨の真意が分からなかった。どうして一人になりたがるのか、心を閉ざしてしまうのか。

ーーそもそも、そこまで深く関わる必要もないか。


投げ出してしまえば、それ程楽な事はない。
本人が構うなと言っている以上、関わらないであげた方がその人の為なのかもしれない。
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