弟王子に狙われました

砂月美乃

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番外2・腹黒王子の秘密 後

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 それから二年、僕はまったく可哀そうな生き物だった。
 成人前とは言え王子だから、僕も王家主催の夜会には、開会にだけは立ち会うことになっている。当然そこにはマリィ姉さまも出席するので、僕は彼女に一目会うことだけを楽しみに出席した。
 確かに姉さまを見ることは出来た。ところが、美しく着飾った姉さまの隣には、いつも他の男が立っている。兄のジェラール殿や父の侯爵のときもあるが、どうやらダンドリュー侯爵令嬢は「社交界の薔薇」などと言われ、もてはやされているらしい。

 大好きな姉さまが美しい女性になるまで、僕はずっと見守ってきた。それなのに、いよいよという頃になってほとんど会うこともかなわず、挨拶をするのがせいいっぱいだなんて。
 僕は毎晩のように姉さまを思い、にはげんだ。しまいには夢にまで姉さまが出てくる始末で、このまま涸れて死んでしまったらどうしようかと思うくらいだった。



 今夜もそうだ。夜会の開始にだけ出席し、ダンスの時間になると子供は寝ろとばかりに退出させられる。今日は姉さまと、まだ目も合わせていないのに。

 姉さまは今夜も綺麗だった。でもちょっと、胸元が開きすぎだったんじゃない? そんなことを考えながら歩いていると、テラスに姉さまの姿があった。思わず近づいて行くと、彼女の前に男が跪いている。その意味が分からないほど、僕は子供じゃない。飛び出していって止めたいのを必死にこらえ、そっと様子を見守っていると、姉さまは笑顔で見事に撃退した。さすが僕のマリィ姉さま。僕は喝采を送りたい気持ちだった。

 すると姉さまはそのまま会場に戻らず、中庭の方へ歩いて行った。そっとついていくと、姉さまは空を見上げ、物憂げにため息をついている。……どうしたんだろう?
 姉さまには、昔みたいに笑っていてほしい。僕は思わず声をかけていた。


 その瞬間、僕の頭に最高のひらめきが浮かんだ。
 そうだ、僕はもう十六、いやもうすぐ十七歳だ。この国の成人だってもうすぐだし、だいたいそんな遠慮をする必要がある? もともと僕はこの世界の住人じゃないんだ、構うもんか。
 こうして二人きりになれたんだもの、チャンス以外の何だっていうんだ?
 この二年間、妄想に妄想を重ねたうちのひとつ。強引に姉さまを手に入れる方法を、実行に移してみようじゃないか。


 手をとって散歩をしているうちに、自然な笑顔が戻ってきた。昔話が良かったのかな? やっぱり姉さまは笑っているほうが絶対いい。僕といれば、一生姉さまに憂鬱な顔なんかさせないのに。
 そんなふうに考える間にも、僕はちらりと使用人や立ち番の近衛の目に留まるコースを選んで姉さまを連れて歩いた。誰かに見つけてもらえないと、たぶん姉さまは無かったことにしてしまう。だから、これは重要だ。ベンチに掛けて話している間にも、巡回がちらりと僕らを見て去って行った。彼らの順路は知っている、この後しばらくは戻って来ない。
 よし、今だ。僕は姉さまに見えない角度でニヤリと笑い、無邪気に声をかけた。

「なら姉さま、僕と結婚してよ」





 まあ、おおむね成功したと言っていいと思う。
 僕らを見つけるのは、十中八九ジェラール殿だと思っていたら、やっぱりその通りだった。うん、一発殴られるくらいは仕方ない。僕の涙をみて父上は完全に味方になってくれたし、伯母上のところへ一年もやられるのは辛いけど、それで姉さまが手に入るなら耐えてみせる。

 そんなことより、姉さまは最高だった。もちろん最後までできるとは思ってなかったし、それをしてしまったらもっと問題になったかもしれない。
 ああ、もう姉さまは……思い出すだけでギンギンになってくる。あの時我慢できて本当に良かった、僕。

 キスしただけで震える唇。キスだけでヤバいくらいだったのは僕のほうだけど、幸い姉さまにはそれに気づく余裕なんかない。
 そして、夢にまでみた憧れのおっぱい。飾りのレースから零れるんじゃないかって、夜会の間中ずっとはらはらしていたから、ついキスマークをいくつもつけてしまった。例えようもないほど柔らかくて、いい匂いで……。そして僕が触るたびに、姉さまが眉を寄せて可愛い声をあげるんだ。僕でも感じてくれるのが嬉しくて、時間を忘れそうになってしまった。

 この世界に来る前に、このゲームをチラ見しておいて正解だった。そしてこっそりダウンロードしたあの動画たち、ありがとう! この世界で僕ほど、エロい知識のある童貞はいない。絶対だ。僕は記憶の限りに姉さまのイイところを探した。
 なんと、姉さまは僕の手でイってしまった。自分でも信じられなかった。でもしっとりと汗ばんで、僕の指を締め付けて震える身体。いつもの姉さまより鼻にかかった、何倍も甘くエロい声。
 可愛い、可愛い。最高だよ姉さま! ああもうこのまま思い切って……!

 どんなに計画を練ったとは言え、所詮は童貞の理性だ。思わずムスコを取り出そうとしたところで、ドスの効いた声が響いた。

「そこまでだ、この馬鹿が」

 あ、やっぱり?
 初出動かなわず、ムスコはもとの可愛いクリスに戻ってしまった。





 今頃は姉さまも、僕の計画を聞いているころかな? 
 呆れただろうか。それとも姉さまのことだ、怒り狂っているかもしれない。

 でも、全部が全部、騙したわけじゃない。途中で姉さまに言った気持ちは、すべて真実だ。まあ、ちょっと涙を見せたりはしたけどね。それだけは分かってもらいたいんだ。
 伯母上のところへ出発する前に、一度だけ姉さまに会いたい。僕はベッドにクッションを並べて膨らませ、寝ているように見えるようにした。それからそっと、部屋を抜け出した。リュシアン兄上も通った道を、若さに任せてひた走る。

 一年間、僕を待っていて、姉さま。
 逃がす気はないけどね。


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