転生魔王は逃げ出したい〜元カレが勇者になってやってきた〜

砂月美乃

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15・魔王の服従 下

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「何なの、あいつは……!?」

 周囲を見回して自分の部屋なのを確認すると、私はすっかり力が抜けて、ぺたりと椅子に座り込んでしまった。いったいどうしてこんなことになったのか、まるで理解できない。

 謙斗が勇者として召喚され、魔王城にやって来たまではいいとして。
 倒されたはずの将軍たちが、なぜ揃っていたの? そしてなぜあんなに大人しく、謙斗に従っているの?
 そして謙斗のあの変化は……?

 ―――「創造主ゲームマスター」って、どういうことよ……?

 私はその時になってやっと、謙斗に乱されたままのドレスに気づいた。

「くっ……!」

 慌てて胸をしまい裾を整え、唇を噛む。

 ―――どうしよう、どうしたらいい?

 考えたところで、分かるわけがない。
 勇者としては信じられないくらい強かったし、今はアードンも将軍たちも、みな謙斗に従っている。さっきだって私のことを心配するどころか、ギエルム以外は見もしなかった。
 だから私1人が抗ったって、もうどうにもならないんだろう。でも……、私にだって魔王オリアニスとしてのプライドがあるし、前世のこともある。
 おいそれと謙斗に従うわけにはいかない。それに、あんな死に方をした私が、謙斗の下に立てるとでも思っているの?

 というより、謙斗は何を考えてるの? 私を……愛人にでもしようっていうの?


「―――陛下」

 エリーの声に、私は心からほっとした。エリーは私を「陛下」と呼んでくれた。

「なあに、エリー」

 振り返った私は凍り付いた。エリーの後ろに見える、背の高い男……。

創造主マスターがお越しになりました」
「な、なんで……?」

 当然のように告げるエリーに、私は声が震えるのを隠せなかった。

「さきほど伺いました。創造主マスターと伴侶になられると。おめでとうございます」

 空いた口が塞がらないとは、本当にこういうことなんだ。口を半分開いて、言葉が見つからない私を横目に、謙斗がずかずかと入って来て言った。

「そういうことだ。今日はもう休んでいいぞ、エリー。俺たちはこれから、つもる話があるからな」

 エリーは微笑んで出て行ってしまった。ご丁寧に、ベッドの天蓋のカーテンも、続き部屋のドアもぴっちり閉じて。違う、私はそんなこと頼んでないのに。


「さて、そうは言っても『つもる話』は後だ、沙織」

 いくら混乱した私でも、その意味が分からないほど馬鹿ではない。

「や、やだ。来ないでよ」

 椅子から立ち上がり、壁際にじりじりと後ずさる私に、謙斗はにやりと笑いかけた。

「来るなって言われて引っ込む男はいない。それくらい知ってるだろ。さっきは油断したが、今はもう転移なんてさせないからな」

 そう言って一気に間を詰め、私を壁に貼り付ける。罵ろうと口を開く間もなく、荒々しいキスが降ってきた。


 昔の謙斗からは想像もつかないくらい、激しいキスだった。

「ん……っ!」

 両手を絡めとって身体で壁に押し付けられ、このまま貪り喰われてしまうのではと思うくらいだ。唇に歯がたてられ、舌が喉まで探り尽くし……私は苦しくて涙がにじんだ。こいつ、内臓まで吸い出す気なんじゃないだろうか。
 ギエルムに何度か迫られたときは、こんなじゃなかった。実際、あの時みたいな黒い炎を出そうと思ったけれど、何故か出来ないのだ。謙斗に逆らうような行動は、どうやら本当に出来ないらしい。
 転移魔法もだめだった。さっきのは余程運が良かったのか、それとも火事場の馬鹿力的なやつなのか。

「……まだ何か考えてるな」

 ほんの少し唇を離して、謙斗が囁くように言った。

「決まってるでしょ。もう、放してよ。……っきゃあ!?」

 謙斗は、信じられない行動に出た。ドレスの胸元を掴み、いきなり引き裂いたのだ。そしてそのまま私の腰を抱え上げ、まるで荷物のように担ぐ。

「ちょっ……!」

 驚いて暴れたけれど、気付いたら柔らかいベッドの上に放りだされた後だった。千切れたドレスはベッドまでの5・6歩の間に剥ぎ取られていて、私のダイナマイトボディを隠す布はごくわずかしか残っていない。ヤバい、どうしようどうしよう、もう本当に逃げられない気がする。

 謙斗が重そうな革のブーツを脱ぎ捨て、にやりと笑った。私なんかよりよっぽど怖い……、これではどっちが魔王だか分からない。

「待ってたぜ、この時を」

 ベッドが不吉な音をたてて軋んだ。

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