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12・玉座の対面 下

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 もう、くだくだしい経緯を説明しても仕方ない。
 私はアードンと2人、魔鏡を眺めて呆然としていた。

 召喚勇者ケントの一行の進撃は止まることがなかった。あっという間に20階層へ到達し、ドルムス将軍を一撃のもとに倒した。さすがにここまで来ると1日に1階層が限度のようだったけれど、とにかくそのまま進んで、連日将軍たちが倒されていった。
 昨日はギエルムが倒れた。そして今、私とアードンの目の前で……バルゴラス将軍が音を立てて崩れ落ちたところだった。

「どうやって、逆鱗の位置まで……」

 アードンの言葉に、私はもう答えなかった。将軍たち全員、ほぼ確実に弱点をつかれて倒されているのだから。


 私は心を決めた。

「アードン、外へ出ていて」
「陛下!?」

 アードンはなかなか納得しなかったが、勇者には私が1人で対面したいと言って追い出した。「魔王」さえ倒せば、アードンや他の者たちは生き残れるかもしれないから。それに……。





 大広間の扉が、重い音をたてて開いた。入って来たのは、背の高い男。他の4人の姿は見えない。
 男は恐れる様子もなく、飄々とした歩きぶりでまっすぐ玉座の前まで進んできた。

「……おまえが魔王か?」

 にやりと笑って私を見上げるその顔は、だいぶ変わってはいるけれど、間違いなく謙斗だった。歳を経て渋みを増した声が、広間に響く。

「……よく、ここまで来たわね」

 軽くねめつけるように言ってやると、謙斗はにやりと笑った。

「当然だ」
「……すごい自信だこと。―――ところで、お仲間はどうしたの?」

 続けて入ってくる気配はない。扉の向こうは静まり返っている。

「ああ、奴らならもう返した。お互い、用は済んだからな」
「……用は済んだ? どういうこと」

 私は首をかしげる。勇者一行の用とは、魔王討伐ではないの?

「―――私を倒すのは、貴方1人でじゅうぶん、とでも?」
「ああ、奴らはそう思ってるだろ」


 謙斗はつかつかときざはしを上がってきて、玉座の前に仁王立ちして私を見下ろした。目元に刻まれた皺と、陽に灼けた肌。身長は変わらないけれど、防具を持ち上げんばかりの鍛え上げた身体は、当時とは違う。私は上目遣いでそっと見上げ、無意識に違いを探った。

「あいつらは魔王討伐さえ出来ればいい。俺は、ここに来られさえすれば良かったんだ」
「……どういうこと」

 私は眉を寄せた。確かに、あの日の面影はある。けれど……雰囲気が全然違う。おかしい、なんなのこの……圧倒的な威圧感は。鍛え上げた鋼のような筋肉、喋り方もぜんぜん違う。でも決してそのせいばかりではない。
 すると謙斗が身をかがめ、背もたれに手をついて顔をのぞき込んだ。

「ちょっと、離れ……」

 私もおかしい。魔王オリアニスともあろうものが、この反応は何だろう? これではまるで、村の小娘だ。

「無駄だよ、おまえは俺には敵わない。―――まさか、会えるとは思わなかったけどな」
「何を言っているの?」
「しらばっくれるのは止せ、沙織」

 ―――!?

 突然、自分でも忘れかけていた名を呼ばれ、反射的に顔を上げた。驚きのあまり硬直した私に、謙斗は息がかかるほど、顔を近づける。

「な……」
「会いたかった」

 乾いた唇が、ゆっくりと押し付けられた。

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