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3・私は魔王 下

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「陛下、先日召喚されたという勇者の情報が入りました」

 何日かして、宰相アードンが角を振り振りやってきて報告した。

「どうなの?」
「それが……。人間どもの評判は最悪のようです」
「は……?」

 ―――何それ、意味が分からない。役にも立たない先代勇者たちに業を煮やして、異世界から召喚したんじゃなかったの?

 アードンも首をかしげている。

「人間どもの噂では、ですね。『やる気がない』『態度が悪い』おまけに『若くない』だそうで。……強いことは強いらしいですが」
「若くない……? へえ、それは変ね。本当なのかしら」

 確かに不思議だ。召喚に失敗したのかしら? 私はどんな奴か見てやりたくなった。

「アードン、今なら映せる?」


 魔鏡を持って来させ、呪文を唱える。王宮の外へ出ていれば、様子くらい見られるだろう。
 しかし魔鏡の映像は、なかなか静まらなかった。まだ王宮の中なのかなと思っているうちに、声が先に聞こえてきた。

『んなこと言ったって、俺だって好きでこんな世界に来たわけじゃねえ』
『しかし勇者殿!』
『うるせえ、今日はもうやめる』
『勇者殿っ!?』
 足音も荒く去っていくらしい気配。

 ―――あらら、なるほど。

 私は思わず笑ってしまった。勝手な都合で召喚されて『おまえは勇者だ、魔王を倒してこい』とか言われて喜べる奴は、実際はそう多くないと思うのよね。

 そこでようやく魔鏡の画像が落ち着いてきた。見えたのは、背の高い後ろ姿。背中を見ただけで、鍛え上げた筋肉に覆われているのが分かる。そのガタイの良い男は、苛立ちを隠さず、まさに床を踏み鳴らすように歩いている。

『まったく、なんだってんだよこの世界は? これじゃまるで……』

 低めで太い声。髪は黒髪、長髪の多いこの世界では目立つ、短めのカット。それにしても、顔が見えないな。
 私が呪文を追加すると、カメラが回り込むように魔鏡の映像が変化した。

 ―――え?

 私は映像を凝視した。待って、この男……?

「ほう、確かに歳がいっている。―――なかなかふてぶてしい面構えで……」
「黙って!」

 見たところ、人間なら40歳くらい、それとももう少し上か。あまりまっとうな社会人として生きてきたようには見えない、ちょっと疲れた感じの雰囲気を纏う男。こんな男、もちろん知り合いにはいない。いなかった。……けれど。

 ―――でも、似てる。

 この、寄せた眉のかたち。への字に曲げた口元の、片側にできるえくぼ。それから、さっきから聞こえるこの声。いくらか太くなってはいるけれど、でも……。

『お待ちください、勇者ケント様っ!』

「謙斗っ!?」

 思わず叫んだ私を、アードンが驚いて見上げた。

「……陛下?」

 ―――なんで、謙斗? ……でも、歳が違う。でも間違いない、あれは……。謙斗が……勇者……?


 瞼の裏に、駅の階段の上で立ち尽くす男が浮かんだ。
 あの日私が死ぬ原因になった元カレ……謙斗の姿が。



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