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10・真面目な話もしましたが 後

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「フェリシア、これを見て欲しい」
幸いにもすぐ復活してくれたリュシアンは、何枚かの書類を差し出した。
 明らかに日本語ではない、流れるような書体の文字が並ぶ。普通に読めるところがまだ少し穏やかではないけれど、読み進むうちにそれどころではなくなってきた。
「殿下……あ、リュシアン様、これは……?」
リュシアンはちょっと言いにくそうに微笑んだ。

「……失礼だが君のお父上の財力では、君を王家に嫁がせるのは厳しい。ましてやグランデール博士は研究ひと筋、そもそもその辺りの事情に明るくない」
全くその通りなので、私は頷いた。


 まず養女として入る家には、相応の謝礼が必要だ。もっとも迎える方も、衣食住、私の場合のように社交界デビューならその費用まで持つのだから、これは必要経費とも言える。
 そして結婚するには持参金。万一離婚となった場合には返金され、女性の生活の保障となるものだけど、結婚相手の身分が高ければその分高額になるのが一般的だという。

 領地などないグランデール家だけど、お父様はお抱え学者として、決して低くはない報酬をいただいている。でも学者にありがちな無頓着で、高価な本を惜しげもなく購入することもあるし、それ以外のお金については家令のエルネストに任せきりだ。たぶん家にいくらあるのかなど、考えたこともないと思う。

 当然、今回のことで頭を抱えているのはエルネストで、お父様は「いざとなったらこの家を売れば」くらいにしか考えていない。


「この1枚目は、グランデール博士に今回かかる費用を貸し付けるというものだ。2枚目は、グランデール博士が近い将来受け取る予定の、王家からの見舞金をこれの返済に充てるというもの」
「王家からの見舞金?」
私は首をかしげる。フェリシアの知識にはない言葉のようだ。

「めったにないものだから、知らないのも無理はない。ちょうど君のように、領地を持たない貴族から、王族に嫁すものがあった場合に、王家の親族としての体面を保ってもらうために与えるものだ」
 ―――なるほど。嫁の実家が貧乏では、王家の体面に関わるということか。

「グランデール博士は、体面などに拘る方ではないから、本来は見舞金の必要はないだろう。だがこれで体裁が整う。―――どうだろうか?」
どうも何も、エルネストが泣いて喜ぶだろう。でも、ふと疑問に思った。

「リュシアン様、……どうしてこの件を、父や家令ではなく私にお話し下さったのですか?」
そう、フェリシアはまだ社交界へ出てもいない、いわば未成年なのだ。そんな私に、なぜリュシアンはここまで具体的な話を?

「お父上や家令には、もちろん直接話をさせる。だが、その前に君の考えを聞いておきたかった。私が妻に迎えたいのは君なのだから。それに、まだ17歳とは言え、フェリシア、君ならこのような話も出来ると思ったのだ」
「リュシアン様……!」

 思いがけない言葉に、胸が温かくなるのを感じた。
 好感度のせいでリュシアンは意味もなく私に惹かれてしまったと思っていたけれど、意外なくらい私やグランデール家のことを考えてくれている。
 そして、私にそういう話が出来ると思ってくれたことも嬉しかった。こうしてちゃんと向かい合って、真面目に将来のための話ができるなら、私はリュシアンを愛せるかもしれない。


「ありがとうございます」
「フェリシア……!」
私の感謝の笑みが、また何かを刺激してしまったらしい。
 手首を掴まれたと思ったら、そのままリュシアンの胸に抱き寄せられていた。

「ああ可愛い……! そんな顔を見せてくれるなんて……。大切にするよフェリシア……!」
 ―――ああああ、またですか!? 前言撤回、やっぱり無理かも!?
べったべたに舐めまわされそうな甘い声と一緒に、こめかみに何度も何度もキスが降ってくる。
「え、あの! リュシアンさ、ま……!」
焦ってリュシアンの胸に手を突っ張って顔を上げると、熱に浮かされたような瞳と、目が合ってしまった。

「フェリシア……」
リュシアンの手が、頬に触れたところまでは分かった。
 気づいたら私は、リュシアンに唇を塞がれていた……。

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