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13・即位の儀 中
しおりを挟む「駄目です陛下、もっと背筋を伸ばして! ああ違う、玉座の三歩手前で止まるのですよ」
「……この辺?」
「そこは近すぎます! ……ああそうでした、貴女は足が短いんでしたね」
「失礼ね、身体が小さいと言ってよ」
プライベートエリアの執務室。安楽椅子を玉座に見立てて、私は式次第の練習をさせられていた。明日の即位の儀が終わったら、私の正式な魔王としての生活が始まる。
「大丈夫です陛下、お上手ですぞ!」
「そうですとも、お可愛らしくて見惚れてしまいますぞ!」
後ろから熱烈に応援してくれるのは、明日からの護衛として控えるガランとゴロン。勢いで魅了なんかかけちゃったけど、けっこう良かったかもしれない。
「ガラディナック、ゴロディメンティ。少し静かにしていなさい」
フィブリスが注意するけれど、今の彼らは私の命令が最優先だ。軽く頭を下げるだけで、応援をやめようとはしない。それにしてもフィブリス、よくあの名前を覚えてるよ。
一挙手一投足をいちいち注意され、さすがに疲れ果てたところでフィブリスがようやく許してくれた。
「……まあ、威厳が足りないのはもう仕方ないですし、後は転びでもしなければよいでしょう。―――二人とも、陛下がこのような方ですからね、明日は何が起きるか分かりません。しっかりお守りするように」
「はっ!」
「命に替えましても!」
うーん、二人にかけた魔法、効きすぎたかな?
後でフィブリスが教えてくれた。
あの二人は実は「アンチ新魔王」の急先鋒だったそうだ。「俺達があの小生意気なガキを引きずり降ろしてやる!」と、護衛に立候補してきたらしい。
なるほど、本当に首をひねられるところだったわけだ。私はフィブリスをじろりと睨んだ。
「それが分かってて、なんで採用したわけ?」
「そのくらいあしらえなくて、魔王の座につけると思いますか?」
フィブリスは涼しい顔で答える。う、さすが敏腕宰相、求めるレベルが違うわ……。
「貴女のような一見弱そうな王では、これからもあの手合いはいくらでも出てきます。実力なり恐怖感なり、とにかくこいつには敵わぬと見せつけることが重要です。……まあ、まさか魅了などできるとは思いませんでしたが」
「……もし私があっさり首ひねられちゃったら、どうするつもりだったの?」
聞かないほうがいいとは思ったけど、一応聞いてみる。
「……あの二人は気の毒に大罪人となりますが。あとはまた、魔王選出の儀からやり直すだけですね」
―――あーあ、やっぱり聞くんじゃなかった。
魔王城の大広間には、城じゅうの魔物と、国内の魔物達の長が集められていた。
三日前の次代魔王選定の儀と同じだけれど、あの日より欠席者が多いらしい。気持ちは分からなくもない。私みたいな子ウサギに「ばんざーい」なんてやりたくないよね。
「全員出席という決まりだというのに……」
フィブリスはぶつぶつ言っていたけれど、この三日一緒にいて分かった。
彼は私を敬うというよりは、どうやら秩序とか礼儀とか、そういうものを重んじる性格らしい。例え気に食わない子ウサギだろうと、それが王ならば敬わなくてはならない、と。うーん、ストレス溜まりそうだな。
でもだからって、私が頑張って王様らしくしてあげるとか、そういうことはしない。そしたら私がストレス溜めることになるし、だいたいそんなの楽しくないもの。
とは言え、私だって(見た目よりは)子供じゃない。いくら楽しくないからって、儀式を放り出したりはしない。
大広間の扉が開いた。
厳かな音楽が鳴り響くなか、私はフィブリスに教えられた通り、ゆっくりと正面だけを見て歩く。手にはあの王笏が、きらきらと瞬いている。そりゃもう嬉しそうにキラキラチカチカと、輝きどころか色まで変えて。まったく、どこかの世界の、ライブの小道具じゃないんだから。
(陛下、ご立派ですぞ!)
(我らがついておりますぞ!)
後ろから熱烈な囁きが聞こえ、さすがにげんなりしたので聞こえないふりをした。
広間の中央をしずしずと(フィブリスに言わせるとトコトコらしいけど)歩く私に、両側から容赦のない視線が突き刺さる。
値踏みする目、明らかに侮蔑を含んだ目、疑惑や妬みを隠さない目……。まあ、居心地は良くないけれど、これも仕方ない。
中には私に向けて何やら暴言を吐こうとした奴もいた。ところが全員、私の後ろで目を爛々と光らせたガランとゴロンを見ると、驚いて口を噤んでしまう。
「なぜあいつらが、黙って従ってるんだ……?」
離れたところから、そう呟く声がした。
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