41 / 50
41・王国の闇 後
しおりを挟む「まあ、後でじっくりしっかり話させてもらうから。ひとまず許す」
その“ひとまず”が怖すぎる。
「それでさ、ひなが魔力をコントロールするのに、魔力を感知しなきゃいけないのが必須で。そのコントロールの訓練に、カルにも参加してほしいんだよね」
俺? と言いたげに、カルナークが自分を指さす。
アレックスがうなずき、「お前がやらかしたおかげでの副作用みたいなもんだ」とニヤリと笑う。
強面の笑顔、ある意味怖い。
普段はすごくあったかい視線で見てくれるけど、なにかされそうな笑顔に見えてしまう。今日は。
「陽向の魔力だけだと、誰かの魔力に引っ張ってもらってっていうのがなかなか難しいらしい。特殊な魔力だからな。だが、お前は魔力の扱い関係に関しちゃ、相当に巧い。しかも、ちょっとずつ違和感がないように、まわりにもバレないようにと少量ずつ混ぜていった。陽向の体を覆っている魔力の至る所に、カルナークの魔力の痕跡が残っているらしい。ようするに、馴染んでいるから、カルナークがその魔力を操作して、陽向に意識させたりコントロール訓練のサポートをするのに準備万端な状態になっている。……ということだ」
「それと、それだけ馴染ませてあったら、カルがひなのサポートしてても、ひなにかかる負担も少ないだろうし、ひなが上手く扱えなくなった時に抑え込むことも可能だろう? ……ね? 出来るよね? カルだったら」
アレックスの説明の後に、ジークの命令に聞こえなくもないお願いっぽいのが含まれている。
こ、怖い。
カルナークは大丈夫かなと心配になって顔を覗きこめば、意外な顔をしていた。
「……カルナーク?」
キリリと、今まで見たことがない引き締まった表情。
真剣に二人の話を聞いている姿に、驚いた。
自分が怒られているって、やらかしたって、オロオロしているとばかり思っていたから。
「陽向……」
不意にあたしへ体ごと向きを変え、カルナークが頭を下げる。
「悪かった。悪意はなかった。これは本当。嘘じゃない。謝ったからって、やったことが帳消しになるとかぬるいことは望んでいない。陽向に言っていたように、お前の魔力が心地よすぎて、一回触れたら“もっともっと”って陽向の魔力に触れたくなっていって。――――止められなかった俺が悪い。でも……今後は陽向が魔力の訓練をするのに、俺が一番支えてやれる! こんなことになることを望んで馴染ませてきたつもりはなかったけど、陽向の力になれるなら俺の力を使いたいだけ使ってくれ。お前にだったら、俺のすべてをやってもいい!!!」
“お前にだったら、俺のすべてをやってもいい”
「な…………な、んってこと、いうのぉ……」
言い返したいのに、無自覚な爆弾発言の破壊力がすごすぎて、言葉の最後は蚊の鳴いているような声になってしまった。
「…………もう、やだあ」
両手で顔を覆って、三人に顔が見えないように隠す。
こういう台詞に免疫なし、異性にこういう感情を投げつけられたこともない、自分だけ特別扱いをされたこともない。
「カルナークのばかぁ…」
顔の熱が引かない。
「えぇー。なんでばかって言われてるの? 俺」
投下した本人は、ばかと言われた理由をわかっていない。
天然無自覚系ですか、この人。
「……ばか」
もう一回繰り返すと、「よくわかんないけど、ごめん。悪気ないんだよ、ほんと」って困ったような声で呟いた。
どうしていいかわからなくなって、顔を隠したままジークに聞いてみる。
「説明はわかったから……戻ってもいい? お部屋」
一人になりたい。今はこの場所にいるのは、ちょっと耐えられない。
「んー、まあいいけど。カルはまだ話があるから、部屋に帰るなよ」
とジークがいえば「俺が部屋まで送ろう」とアレックスの声がした。
すこし考えた後に、一回だけうなずく。
「顔を見せたくないんだろう? 俺が抱きあげていってやろうな」
なんて優しげな声が聞こえたと同時に、体がふわりと浮く。
これはこれで予想よりも、恥ずかしい。もう、なんでこうなるのー。
「あ、ちょっとアレク。動きがずいぶん早くないか?」
ジークがドアの前に立ちふさがり、部屋に戻るのを止められる。
「今は俺たちの感情よりも、陽向がどうしたいかを優先すべきだろう。それにジークはカルナークとここで待っていてくれた方がいい。部屋へ送っている間に、残りの話をしておいてくれないか」
抱きあげられて、耳のすぐそばでイケボが優しくあたしを護ってくれている。
(夢みたいなイベントが起きている気がする。ボイスレコーダーで撮っておきたいくらいいい声だった)
この場には不謹慎なことを脳内で考えつつ、アレックスの上着の胸元をちょっとだけつまむ。
「お願い、部屋に行かせて?」
胸元のシャツをつかんでいるあたしの手に、アレックスの手が一瞬重なる。片手で抱きあげているたくましさに、すこしドキドキした。
ドアノブに手をかけてアレックスが「すぐに戻る」と告げて、二人が残る部屋を出ていく。
高身長で、もちろん脚が長いアレックスは歩くのも速い。
……のに。
あたしの部屋までが、ずいぶんと遠い気が。
「アレックス?」
顔を隠していた手を外して、間近にあるアレックスの耳元に囁く。
強面の顔が、目が合った瞬間ふにゃりとだらしなく崩れる。
「へ?」
動揺を隠せないあたし。
アレックスって、こんな顔も出来る人だったの?
「自分で歩くよ、やっぱり」
身をよじって降りようとするけれど、たくましい腕の中から降ろしてはもらえないみたいだ。
「俺にまかせて、たまには甘えてくれていいんだからなっ」
すこし弾んだ声で告げたその言葉に、機嫌がいい時のお兄ちゃんを思い出してしまった。
「…………う、ん」
でも、上手に甘えることは出来ないあたしが返せる、精いっぱいの返事がこれだ。
遠回りしたような気がしたものの、部屋にちゃんと送り届けてくれた。
「それじゃ、またな」
ベッドにそっとあたしを運んで、少し乱れた髪を撫でて整えてくれ。
「ありがとう、アレックス」
あたたかくなった胸の奥。その気持ちを笑顔に込めて、感謝を伝えたら。
「イイコにしてるんだぞ?」
耳元で囁かれて、声の余韻が残ったのかと思うような感覚で。
頬に、キスされてた。
ピシリと固まってしまったあたしに気づくことなく、アレックスは鼻歌まじりで部屋を出ていく。
どの人も、日常のあいさつ感覚でいろんなものを投下しないでほしい!
抱えきれない情報を処理しきれないまま、ベッドで意識を手離した。
――――その日の夜。この世界に来て初めて、熱を出した。
気づいたのは、カルナーク。
あたしに馴染ませていた魔力のおかげで、というのは、若干複雑。
0
お気に入りに追加
1,283
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる