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17・初めての夜は 後 ☆
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顔を寄せ、アメリアの香りを感じる。その途端、ヴィルフリートはアメリアのことしか考えられなくなった。すぐにも奪ってしまいたい気持ちを必死で押さえつけ、それでも本能に突き動かされるようにアメリアの唇を求める。
―――ああ、なんて……!
初めて味わうアメリアの唇は、今まで味わったどんなものよりも甘いと思った。身体中の感覚が、アメリアを求めて暴走し始める。鼻いっぱいにアメリアの香りを吸い込み、果実のような唇を味わう。初めての口づけに思わず洩らすアメリアの息と、激しく音をたてる鼓動までもを、彼の敏感な耳がとらえた。そしてそっと触れた頬の吸い付くような手触りに、ヴィルフリートは我を忘れてその感覚を楽しんだ。
アメリアは轟くような自分の胸の音を聞いていた。
身分を隠して町に出入りしていた時、同じ年ごろの娘たちの内緒話を耳にすることは何度かあった。町の娘たちは自分たちよりも自由に恋愛を楽しんでいるようで、好きな相手との口づけがいかに素敵だったか、あるいは親の目を盗んで二人きりで過ごした夜が、いかに素晴らしかったか。そんなことを楽しげに語り合っていたのを、羨ましく思っていたのを覚えている。
―――あれはきっと、何か別の話だったに違いないわ。
アメリアは混乱した頭の中でそんなことを思った。そんなロマンチックな感情など微塵も湧いてこないし、むしろどうしたらいいのか全く分からず、ただじっとヴィルフリートの口づけを受けていた。
―――『初めては辛いそうですよ』って、ラウラが言ってたけど……?
それ以上考える余裕などあるわけがなく、アメリアは初めての夜への恐れと緊張に、さらに身を強張らせた。
アメリアの香りに酔ったようになっていたヴィルフリートは、もちろんアメリアのそんな状態には気づかなかった。何度も何度も口づけを繰り返し、アメリアが息苦しくなって口を開くと、さらにアメリアを味わおうと舌を忍び込ませる。
「!?」
腕の中の身体がびくっと震え、手足を強張らせたのが分かった。ヴィルフリートの頭のどこかで警鐘が鳴り響いたが、舌が感じ取ったアメリアの口中の柔らかさに、すぐにそれも忘れてしまう。
早くも下腹に熱が集まり始めている気がする。ヴィルフリートの身体中がアメリアを求めてざわめき始めていた。
「んっ……!」
その時聞こえたアメリアの声に、ヴィルフリートは耳を奪われた。
アメリアは戸惑っていた。口づけと言うのは、文字通り唇を合わせるものだとしか思っていなかった。それなのに、ヴィルフリートの舌が自分の咥内を探り尽くそうとせんばかりに動き回り、舌を絡ませてきたのだ。最初は驚きに心臓が止まるかと思ったが、いつかくすぐったいような、それでいてもっとほしいような……そんな知らない感覚が芽生えてきていた。
―――ああ、これ……何? やだ、変な感じ……。
やめてほしいのか、続けてほしいのか分からない。アメリアは、自分でも知らないうちに声を漏らしていた。ほんの小さな声だったけれど、とうてい自分の声とは思えなかった。
ヴィルフリートはその声が何なのか分かった。ほんのわずかな声だったが、完全に彼を魅了した。可憐な唇から洩れるあの声をもっと聞きたい、そう思った。
そして華奢な身体を暴こうと、ヴィルフリートはアメリアの白い寝衣に手をかけた。
「あっ……!」
アメリアはついに来たと身をすくめた。ああ、町になど行かなければ良かった。何も知らない方が、いっそ楽だったかもしれない。
ヴィルフリートの手が、ゆっくりと前のボタンを外していく。
「アメリア……。なんて、美しいんだ……」
ヴィルフリートの囁くような声が聞こえたが、アメリアは目を開けることが出来なかった。胸元がすべてはだけられ、目をぎゅっと閉じていても、なぜかヴィルフリートに見られていることが分かる。それを意識するだけで、アメリアは恥ずかしさに震えてしまった。
ヴィルフリートは目の前の白い身体に目を奪われた。
なよやかな身体のライン、迂闊に触れたら壊れてしまいそうな、細い頸と腰。そして何より二つの膨らみが、彼の目を惹き付けてやまない。
「ああ、アメリア……」
ヴィルフリートの陶酔したような声が聞こえる。だがもうアメリアにはもう限界だった。今日初めて会った相手といきなり同衾することも、その夫たる存在が人間ならざる身だということも。そして思いがけない口づけの刺激も。
それでもヴィルフリートに組み敷かれている以上、逃げることは出来ない。自分は全て覚悟してきたのではなかったか。ところが実際のアメリアは、きつく目を閉じて、ただ震えることしか出来なかった。
吸い寄せられるようにアメリアの乳房に手を伸ばそうとして、ヴィルフリートは初めて、アメリアが小鳥のように震えていることに気がついた。見るときゅっと目を閉じて、まるで耐えるような表情をしている。
ヴィルフリートは以前フリッツが言っていたことを思い出した。
―――そういえば、女性は初めての時は怖がることもあると……。
目の前で甘い香りを放つ身体。彼さえその気になれば、もはや彼のものも同然だ。
だが、彼は大きく息を吐いた。
「アメリア」
寝衣の胸元を軽く合わせ、ヴィルフリートは身を起こした。
「アメリア、目を開けて」
ヴィルフリートが離れた気配に、アメリアはそっと目を開けて不思議そうな顔をする。
「今日はもう休もう」
「え……?」
「信じられないだろうが、ひと目見た時から、私にはたった一人の伴侶なんだ。―――だが、君にはそうじゃないことはよく分かっている。だから、無理をしなくていい」
―――ヴィルフリート様……?
何を言おうとしているのか。アメリアが理解しきらないうちに、ヴィルフリートは、アメリアの手をそっと包みこんだ。
「あ、あの私……何かお気に障ることをしてしまったのでしょうか?」
ようやくアメリアが言葉を絞り出すと、ヴィルフリートは首を振って微笑んだ。
「言っただろう。君に無理をしてほしくないんだ。私の大切な伴侶だからね。……もう少し、出来れば君が私を好きになってくれたら……。それからでいい」
「ヴィルフリート様……」
アメリアは何と言って良いか分からなかった。初夜に夫となる人のほうからそんなことを言われてしまって、花嫁としては失格なのではないか? それでもヴィルフリートの言葉は心底アメリアのことを考えてくれているようで、ほっとしたことも事実だった。
「ただ……出来ればこのままで、いいかな?」
ヴィルフリートが横になり、再度アメリアの手を取った。
「あ……、はい、ヴィルフリート様」
「ではおやすみ、アメリア。よい夢を」
そう言ってヴィルフリートが目を閉じる。本当に眠ってしまったのか、それともアメリアに気を遣ってくれたのかは分からない。
「……お休みなさいませ、ヴィルフリート様」
当分眠れそうにないと思いつつ、アメリアはそっと囁き返した。
―――ああ、なんて……!
初めて味わうアメリアの唇は、今まで味わったどんなものよりも甘いと思った。身体中の感覚が、アメリアを求めて暴走し始める。鼻いっぱいにアメリアの香りを吸い込み、果実のような唇を味わう。初めての口づけに思わず洩らすアメリアの息と、激しく音をたてる鼓動までもを、彼の敏感な耳がとらえた。そしてそっと触れた頬の吸い付くような手触りに、ヴィルフリートは我を忘れてその感覚を楽しんだ。
アメリアは轟くような自分の胸の音を聞いていた。
身分を隠して町に出入りしていた時、同じ年ごろの娘たちの内緒話を耳にすることは何度かあった。町の娘たちは自分たちよりも自由に恋愛を楽しんでいるようで、好きな相手との口づけがいかに素敵だったか、あるいは親の目を盗んで二人きりで過ごした夜が、いかに素晴らしかったか。そんなことを楽しげに語り合っていたのを、羨ましく思っていたのを覚えている。
―――あれはきっと、何か別の話だったに違いないわ。
アメリアは混乱した頭の中でそんなことを思った。そんなロマンチックな感情など微塵も湧いてこないし、むしろどうしたらいいのか全く分からず、ただじっとヴィルフリートの口づけを受けていた。
―――『初めては辛いそうですよ』って、ラウラが言ってたけど……?
それ以上考える余裕などあるわけがなく、アメリアは初めての夜への恐れと緊張に、さらに身を強張らせた。
アメリアの香りに酔ったようになっていたヴィルフリートは、もちろんアメリアのそんな状態には気づかなかった。何度も何度も口づけを繰り返し、アメリアが息苦しくなって口を開くと、さらにアメリアを味わおうと舌を忍び込ませる。
「!?」
腕の中の身体がびくっと震え、手足を強張らせたのが分かった。ヴィルフリートの頭のどこかで警鐘が鳴り響いたが、舌が感じ取ったアメリアの口中の柔らかさに、すぐにそれも忘れてしまう。
早くも下腹に熱が集まり始めている気がする。ヴィルフリートの身体中がアメリアを求めてざわめき始めていた。
「んっ……!」
その時聞こえたアメリアの声に、ヴィルフリートは耳を奪われた。
アメリアは戸惑っていた。口づけと言うのは、文字通り唇を合わせるものだとしか思っていなかった。それなのに、ヴィルフリートの舌が自分の咥内を探り尽くそうとせんばかりに動き回り、舌を絡ませてきたのだ。最初は驚きに心臓が止まるかと思ったが、いつかくすぐったいような、それでいてもっとほしいような……そんな知らない感覚が芽生えてきていた。
―――ああ、これ……何? やだ、変な感じ……。
やめてほしいのか、続けてほしいのか分からない。アメリアは、自分でも知らないうちに声を漏らしていた。ほんの小さな声だったけれど、とうてい自分の声とは思えなかった。
ヴィルフリートはその声が何なのか分かった。ほんのわずかな声だったが、完全に彼を魅了した。可憐な唇から洩れるあの声をもっと聞きたい、そう思った。
そして華奢な身体を暴こうと、ヴィルフリートはアメリアの白い寝衣に手をかけた。
「あっ……!」
アメリアはついに来たと身をすくめた。ああ、町になど行かなければ良かった。何も知らない方が、いっそ楽だったかもしれない。
ヴィルフリートの手が、ゆっくりと前のボタンを外していく。
「アメリア……。なんて、美しいんだ……」
ヴィルフリートの囁くような声が聞こえたが、アメリアは目を開けることが出来なかった。胸元がすべてはだけられ、目をぎゅっと閉じていても、なぜかヴィルフリートに見られていることが分かる。それを意識するだけで、アメリアは恥ずかしさに震えてしまった。
ヴィルフリートは目の前の白い身体に目を奪われた。
なよやかな身体のライン、迂闊に触れたら壊れてしまいそうな、細い頸と腰。そして何より二つの膨らみが、彼の目を惹き付けてやまない。
「ああ、アメリア……」
ヴィルフリートの陶酔したような声が聞こえる。だがもうアメリアにはもう限界だった。今日初めて会った相手といきなり同衾することも、その夫たる存在が人間ならざる身だということも。そして思いがけない口づけの刺激も。
それでもヴィルフリートに組み敷かれている以上、逃げることは出来ない。自分は全て覚悟してきたのではなかったか。ところが実際のアメリアは、きつく目を閉じて、ただ震えることしか出来なかった。
吸い寄せられるようにアメリアの乳房に手を伸ばそうとして、ヴィルフリートは初めて、アメリアが小鳥のように震えていることに気がついた。見るときゅっと目を閉じて、まるで耐えるような表情をしている。
ヴィルフリートは以前フリッツが言っていたことを思い出した。
―――そういえば、女性は初めての時は怖がることもあると……。
目の前で甘い香りを放つ身体。彼さえその気になれば、もはや彼のものも同然だ。
だが、彼は大きく息を吐いた。
「アメリア」
寝衣の胸元を軽く合わせ、ヴィルフリートは身を起こした。
「アメリア、目を開けて」
ヴィルフリートが離れた気配に、アメリアはそっと目を開けて不思議そうな顔をする。
「今日はもう休もう」
「え……?」
「信じられないだろうが、ひと目見た時から、私にはたった一人の伴侶なんだ。―――だが、君にはそうじゃないことはよく分かっている。だから、無理をしなくていい」
―――ヴィルフリート様……?
何を言おうとしているのか。アメリアが理解しきらないうちに、ヴィルフリートは、アメリアの手をそっと包みこんだ。
「あ、あの私……何かお気に障ることをしてしまったのでしょうか?」
ようやくアメリアが言葉を絞り出すと、ヴィルフリートは首を振って微笑んだ。
「言っただろう。君に無理をしてほしくないんだ。私の大切な伴侶だからね。……もう少し、出来れば君が私を好きになってくれたら……。それからでいい」
「ヴィルフリート様……」
アメリアは何と言って良いか分からなかった。初夜に夫となる人のほうからそんなことを言われてしまって、花嫁としては失格なのではないか? それでもヴィルフリートの言葉は心底アメリアのことを考えてくれているようで、ほっとしたことも事実だった。
「ただ……出来ればこのままで、いいかな?」
ヴィルフリートが横になり、再度アメリアの手を取った。
「あ……、はい、ヴィルフリート様」
「ではおやすみ、アメリア。よい夢を」
そう言ってヴィルフリートが目を閉じる。本当に眠ってしまったのか、それともアメリアに気を遣ってくれたのかは分からない。
「……お休みなさいませ、ヴィルフリート様」
当分眠れそうにないと思いつつ、アメリアはそっと囁き返した。
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