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「はー、休みの間に憐ちゃんにそんなことがねぇ。いやぁ、意外だわ」

「ねー。正直、俺自身が一番びっくりしてる」

「それで、この目の下のクマは推し活のせいだと?」

「はい、申し開きのしようもございません」

「あーーら。趣味に熱心なオトコは魅力的だけど、プロとしては失格よ!失格!」

 専属メイクの譲治さん、もといジョルジュに目の下に刻まれたドス黒いクマについて指摘されてしまった。これまで何度も一緒に仕事をしてきた人ということもあり、先日の休暇中の出来事――ルカにハマったという話を気楽に話していたのだが、なんだか雲行きが若干怪しくなってきた。

「かれこれ何度もアンタのメイクを担当してきた訳だけど、こんなにコンディションがよろしくないのは間違いなく初めてよ。さっきマネージャーさんにも釘差されてたけど、睡眠時間削ってまで推し活するのはNGね。今日は雑誌の撮影だからまだいいけど、映像だと結構響くわよ」

 耳が痛い。ジョルジュからのもっともな指摘に憐は無言で頷いて返答した。

「でもさぁ、憐ちゃん今までずっと仕事!仕事!仕事!って感じだったし、多少はいいんじゃない?夢中になれるものが多ければ多いほど人生は豊かよ」

「それ、マネージャーからも似たようなこと言われたんだけど俺そんなに仕事人間に見えんの?仕事以外に特にやりたいことがなかっただけなんだけどなぁ」

「うーん、自覚ないみたいだけど相当だと思うわよ。なんていうか、憐ちゃんって欲がないっていうか、ストイックすぎて人間味に欠けるというか……そういう印象があったからこそ、アイドルの推し活にハマったなんてすんごい意外。あっ、そろそろ目元整えるから目ぇ閉じてちょうだーい」

 ジョルジュはそう言って化粧道具を持ち替えた。指示通り、憐は大人しく目を瞑りながらも内心でジョルジュの言葉を咀嚼する。

(どっちかっていうと俺は欲深い方だと思うんだけどなぁ。まぁ、アイドルにハマるなんて意外って意見には全面的に同意するけど)

 瞳を閉じているせいか、不思議と瞼の裏にルカの姿が浮かんできて思わず憐は苦笑してしまう。我ながら、かなり重症だ。
 
 『星プ』こと『Next Star Idol Produce vol.1』は大手配信サイトと複数の芸能事務所がタッグを組み、次世代アイドル発掘を目的としたサバイバルオーディション番組だ。過去に類がないほど大々的に実施されたこの番組は、後に”伝説のサバ番”と呼ばれるほどのインパクトを残した――現在トップアイドルとして名を馳せる、ルカを見出したことによって。
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