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現在の東国の君主、東王には皇子が三人いる。そして、順当にいけば次期東王は三人の皇子のうちの誰かだと言われていた。中でも長兄である第一皇子が後を継ぐ可能性が高いと考えられており、東王は明言は避けつつも、次代のため無用な権力争いを招かぬよう宮中の改革を進めていたのだという。争いの胤を増やさぬよう、後宮の花たちすら大半が故郷に返されたのだとという。
しかし、昨年。突如として外戚を礎とした新たな派閥が形成され、東国内の権力勾配に変化がもたらされた。
「なんでも近年、所有する領地から金鉱山が見つかったとかで急速に力をつけた一族だとか。前東王妃の親族である一方で、数代前の東王の血も引いているらしく、あっという間に一大勢力を築き上げたという話です」
シュヴァルツに言われた言葉を咀嚼する。薄々勘づいていたが、それでも状況を飲み込み難い。
偽の金を用いて、瞬く間に権力と富を得た一族。かつてエヴァレットとして生きていた時、そんな一族が過去、東国に存在していたということを僕は耳にしていた。
一方で今、東国に運よく金鉱山を発見し、一気に勢力を築き上げた一族が存在している。果たしてこれは偶然なのだろうか。
(……僕はイリヤと入れ替わっただけじゃなくて、過去の世界を生きてるのかもしれない)
かつて僕を、エヴァレットを見出してくれた第二皇子。彼が慕っていた兄上の名前が、思い出せない。
「とはいえ、彼ら一族の本拠地は東国の北方。はっきり言って辺鄙な田舎です。勢力を築いたといっても、まさか君主の座を狙ってくることはないだろうと現東王はお考えでした。しかし予想に反し、彼らは大胆にも中央の政治に直接的に関与してくるようになりました」
シュヴァルツが話を続けているが、頭をすり抜けていくような心地がする。
そんな僕の心境を察してか、偶然か。ルヴィエがシュヴァルツに問いかける。
「最近、頻繁に東国から使者が来ていたのは」
「ええ、まさにこの話と関わっている訳です。まったく、陛下は暇ではないというのに……忌々しいことに帝国の支持を得ようとそれぞれの勢力から使者が送り込まれてきたのですよ」
現東王と皇太子の勢力、そして北方の新興勢力。二つの勢力が帝国の支持を得ようとして使者を遣わせてきていた。とはいえ、表向きはどちらも同じ国。まして内容は次期東王の座に関するもの。高度に政治的な事案ということもあり、秘密裏に話し合いが行われていたのだという。
「東国から誰かが嫁いでくるという噂も聞いたが」
「そういう話がされていたこともありましたね。まぁ、陛下に一蹴されて東国側も早々に諦めたようですが。それにしてもルヴィエ様、随分とお話しするようになりましたね?何か心境の変化が?」
「なんとなく」
「さようですか。心なしか表情も明るくなりましたし、良いことですね」
その後、何とも言えない微妙な顔をしたルヴィエとどこか嬉しそうな顔をしたシュヴァルツが他愛もない会話を交わすうちに大きな扉が現れた。
「さて、陛下はこちらの間にてお二人をお待ちです。中には今お話しした東国からの使者もいますが、あまり気になさらず」
シュヴァルツはそう言い終えると、扉越しに僕とルヴィエが到着したことを室内に伝えた。すぐに部屋の中から入室を許可する声が聞こえ、シュヴァルツが扉を開ける。
東国の使者ってどっちの勢力?とか、そんな外交の場にルヴィエも?とか。聞きたいことは色々あった。今日、ここに来るまでに予想していた展開と違っていたこともあって、心の準備が全くできていない。
それでも扉が開けられてしまった以上、この時、僕は立ち止まる訳にはいかなかった。
しかし、昨年。突如として外戚を礎とした新たな派閥が形成され、東国内の権力勾配に変化がもたらされた。
「なんでも近年、所有する領地から金鉱山が見つかったとかで急速に力をつけた一族だとか。前東王妃の親族である一方で、数代前の東王の血も引いているらしく、あっという間に一大勢力を築き上げたという話です」
シュヴァルツに言われた言葉を咀嚼する。薄々勘づいていたが、それでも状況を飲み込み難い。
偽の金を用いて、瞬く間に権力と富を得た一族。かつてエヴァレットとして生きていた時、そんな一族が過去、東国に存在していたということを僕は耳にしていた。
一方で今、東国に運よく金鉱山を発見し、一気に勢力を築き上げた一族が存在している。果たしてこれは偶然なのだろうか。
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「とはいえ、彼ら一族の本拠地は東国の北方。はっきり言って辺鄙な田舎です。勢力を築いたといっても、まさか君主の座を狙ってくることはないだろうと現東王はお考えでした。しかし予想に反し、彼らは大胆にも中央の政治に直接的に関与してくるようになりました」
シュヴァルツが話を続けているが、頭をすり抜けていくような心地がする。
そんな僕の心境を察してか、偶然か。ルヴィエがシュヴァルツに問いかける。
「最近、頻繁に東国から使者が来ていたのは」
「ええ、まさにこの話と関わっている訳です。まったく、陛下は暇ではないというのに……忌々しいことに帝国の支持を得ようとそれぞれの勢力から使者が送り込まれてきたのですよ」
現東王と皇太子の勢力、そして北方の新興勢力。二つの勢力が帝国の支持を得ようとして使者を遣わせてきていた。とはいえ、表向きはどちらも同じ国。まして内容は次期東王の座に関するもの。高度に政治的な事案ということもあり、秘密裏に話し合いが行われていたのだという。
「東国から誰かが嫁いでくるという噂も聞いたが」
「そういう話がされていたこともありましたね。まぁ、陛下に一蹴されて東国側も早々に諦めたようですが。それにしてもルヴィエ様、随分とお話しするようになりましたね?何か心境の変化が?」
「なんとなく」
「さようですか。心なしか表情も明るくなりましたし、良いことですね」
その後、何とも言えない微妙な顔をしたルヴィエとどこか嬉しそうな顔をしたシュヴァルツが他愛もない会話を交わすうちに大きな扉が現れた。
「さて、陛下はこちらの間にてお二人をお待ちです。中には今お話しした東国からの使者もいますが、あまり気になさらず」
シュヴァルツはそう言い終えると、扉越しに僕とルヴィエが到着したことを室内に伝えた。すぐに部屋の中から入室を許可する声が聞こえ、シュヴァルツが扉を開ける。
東国の使者ってどっちの勢力?とか、そんな外交の場にルヴィエも?とか。聞きたいことは色々あった。今日、ここに来るまでに予想していた展開と違っていたこともあって、心の準備が全くできていない。
それでも扉が開けられてしまった以上、この時、僕は立ち止まる訳にはいかなかった。
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