悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する

めろ

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12-1 前世

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    ◇◇◇


「君、凄いな!?今のどうやったんだ!?」

 いい加減どうにかしなければと思っていた事柄を渋々片付けたら、やけにキラキラした男が現れた。
 内心「げっ……めんどくさ……」と思いながらも、無言で男の横を足早にすり抜ける。敢えて関わりたい訳でもないし、何より次の授業の開始時間が迫っていた。幸い、男の方もその後何も言ってこなかった。

 僕と同じ制服に、上級生の証である赤い徽章を胸元につけた男。
 明るい金の髪に、太陽のようなオレンジの瞳。洗練された立ち振る舞い。
 一瞬の邂逅だったが、おそらく彼は貴族ばかりのこの学園の中でも特に高貴な身分なのだろう。商家ながらも棚ボタ的にうっかり男爵位を授かった我が家とはまるで違う家柄だ。

――優れた商人になりたい。せっかく爵位があるのだから学を積んでみてもいいかもしれない。きっと将来何かしらの形で役に立つだろう。

 そんな漠然とした展望を抱いて、僕は高等貴族学園へと足を踏み入れた。そして気がつけば三年間の学園生活もまもなく折り返し。果たして、僕は何かを掴めているのだろうか。
 当初の目的通り勉強は真面目にこなしている。長期休暇には実家に戻り、見習いとして商人としての経験も積んでいる。全寮制の学園生活に不満を漏らす生徒も多いが、僕の場合はおかげで勉強と実務、どちらも交互に集中して取り組めていた。

 そう、だから。決して悪くはない日々のはずなのに。

(……さすがにやりすぎなのかなぁ、この地味な格好)

 長く、重たい髪型に流行遅れの眼鏡。微妙にサイズが合わない裾の余った制服。
 肩を内側に丸め、首を前傾させた何とも姿勢の悪い立ち姿。
 そして、仕上げに冴えない暗い表情……今更ながら正直やりすぎてしまった感はある。

 入学前、人間関係お疲れモードだったこともあり、僕は敢えて地味で陰気な人物を装って学園生活をスタートさせた。とはいえ、話しかけられればそれなりに返事はするし、授業態度も生活面での様子も真面目。なんか暗いけど人畜無害で影が薄いヤツ。そんな人物をイメージして、僕は学園生活に臨んでいたのだが――この頃、どうにも上手くいっていなかった。

(男子からはやたら喧嘩を売られ、女子からはやたら遠巻きにヒソヒソされ……一年生の時は想定通り程々の距離感で仲良くやれてて、気楽だったんだけどなぁ)

 もしかしなくても地味すぎて逆に目立っていたりするのだろうか。
 入学当初、あどけない面差しを残していた同級生たちが少しづつ垢抜けて、徐々に紳士淑女らしくなりつつあるような気はしている。今冬の社交界デビューを控えて、みんな色めきつつあるのだろう。
 一方、ほぼ平民の僕はというと社交界進出の予定もなく平常運転のままだ。とはいえ、周囲から浮きすぎるのは本意ではない。学園生活云々もそうだが、貴族から目をつけられるなんてことは御免被りたいからだ。まかり間違ってトラブルにでもなれば、将来どんな支障をきたすか分からない。せっかく学園に通えたというのにそんなの本末転倒にも程がある。
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