悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する

めろ

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「あれは……東国の人たちなのかな。どうして皇城内にいるんだろう」

 目立たない色合いのローブを被った一団が目に入る。一見すると城を訪れた帝国の商人たちのように見えるが、ローブの合間から垣間見える衣服の紋様や顔立ちから推測するに、彼らは国外、それも東方からの訪問者であるような気がした。

「まぁ、殿下。よくお分かりになりましたね?実は内密に東国から使者の方がお見えになられているのですわ」

「また?つい先日も訪問があったと陛下がおっしゃっていたけど」

「ええ。なんでも今回はより高貴な方がお見えになっているそうですよ?わたくしも詳しく知らないのですが」

 リザの言葉を聞いて僕はしばし考え込む。東国は遠い。皇后の母国であるシリル王国や北方の国々を経由しなければ帝国まで辿り着けない位置に座す国だ。高貴な身分というのがどの程度なのかよく分からないが、往来するのもそう簡単でない地域からわざわざ使者を遣わすとは。帝国に一体どんな用があるのだろう。
 そう疑問に思った僕は素直にリザに尋ねてみることにした。

「なぜ東国の使者がそんなにも頻繁に帝国へ?」

「そうですねぇ。殿下は東国の歴史についてどの程度ご存じですか?」

 リザにそう言われ、僕は自分の知る範囲でざっくりと東国について説明した。この大陸で最も歴史のある国で、東王と呼ばれる君主が国を治めていること。その歴史の長さゆえに子孫が多く、次期東王の座を争って血で血を洗うような後継者争いが絶えないこと。そして、後継者争いの過程で発展と衰退が繰り返されてきた国であること。

「ええ、おっしゃる通りです。東国の歴史といえば良くも悪くもとにかく後継者争い。これに尽きるのですわ」

「ですが、現在の東王の治世は長く続いていて国の状態も比較的安定していると授業で習いました」

「その認識も合っていますわ。ですが、昨年の初め頃でしょうか。東国の北部地方の外戚を礎とした新たな派閥が形成されたそうなのです。そして今年に入ってから急速に力をつけて来てるんだとか」

 なんとも不穏な話だ。リザの話に僕は眉を顰める。
 幸い、現東王は現実主義者だそうで状況を冷静に見ているらしい。自国内の支持基盤を強化すると同時に国外への根回しに精を出しているのだという。

「ということは、使節の目的は帝国からの支持を得るためというところでしょうか?」

「おそらく。あるいはより直接的に帝国と縁付きたいのかもしれません」

「というと?」

「現東王の血縁者を帝国へ嫁がせる、とか。嫁入りともなるとそう簡単には進みませんから、こうして頻繁に使節を送ってきているのも納得ですわ。とはいっても、これはあくまでわたくしの予測ですけれども」

 嫁入りという言葉に皇帝が話していた内容を思い出した。皇妃候補を選出しているというあの話だ。
 リザはぼかしたが、東王が縁付きたいと願うほどの相手は十中八九皇族、つまりイリヤの父であるユリウス皇帝だろう。なにせ戦の英雄と謳われるほどの実力者。味方としてはこの上なく頼もしい人物だ。

「うーん、でも父上は――」

「殿下、それ以上はなりません。リザ、くれぐれも何も聞かなかったことに」

「あら、いやだ。ハインリ、そんな怖い顔しないで」

 リザの推測と関係がありそうだと思い、皇帝がイザベラを皇妃に据えたいと言っていたことを話そうとしたのだがハインリに遮られた。そう言えば、皇妃の選定についてはまだ公になっていない話だったことを思いだした。
 リザはイザベラと親しいようだが、さすがに皇妃うんぬんの話については知らない可能性がある。危ないところだった。

「まぁ、色々お話させていただきましたが、残念ながら私はこの件についてはあまり詳しくありませんの。これだけは確実ですわ」

 ハインリの鋭い口調から何かを感じ取ったのか、イザベラは大げさに肩を竦めるながら明るい調子でそう言った。

「それにしても、つい話し込んでしまいましたわね。殿下、どちらへ行かれますの?微力ながらわたくしも道中を補佐させていただきますわ」

 さらりと話題を変えられたが、気づかなかったふりをして皇室図書館へ行く予定だと伝える。そして当たり障りのない話をしながら僕たちは再び歩き始めた。

「ところでリザって軍のどこの所属なの?」

「参謀部所属にございます」

 別れ際、図書館まで見送ってくれたことに礼を伝えつつ僕が何の気なしにそう尋ねたところ、リザはにこっと笑ってそう答えた。そして、笑みを絶やすことなくこう付け足した。

「ああ、そういえば。今日はイザベラも登城予定なのだと言っていましたわ。殿下、もしお見掛けすることがあればどうか声をかけてやってください。彼女、最近あまり元気がないようで」
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