35 / 52
10-4
しおりを挟む
「スヴェン侯爵家のリザがイリヤ皇子殿下にご挨拶申し上げます――殿下、ご無沙汰しておりますわ。皇后陛下のお茶会でお話しさせていただいたのですが、覚えていらっしゃいますでしょうか?」
「スヴェン侯爵令嬢!?挨拶してくださってありがとうございます。もちろん覚えていますが……その、以前お会いした時と雰囲気が」
「見ての通り、わたくし軍属なものでして。社交の場では令嬢らしく見えるよう心掛けておりますが、むしろこちらが日常なのです。どうかリザとお呼びくださいませ」
茶目っ気のある笑みを浮かべた彼女は、以前皇后のお茶会で「わたくしはあの話が好きですわ!ほら、夜中にルヴィエ様が厨房で」とのたまわって、他の令嬢たちに大慌ててで口を塞がれていた――つまり、ルヴィエ厨房爆破事件について教えてくれたあの令嬢だった。とはいえ、以前会った時はドレス姿だったため名乗られるまで誰だか分からなかった。スヴェン将軍の娘だということは知っていたが、まさか本人まで軍に務めているとは。
「実は先日、皇都のティーサロンで殿下をお見かけしたのですが挨拶しそびれてしまって、ずっと心残りだったのですわ。友人とお話ししてくださり、本当にありがとうございました」
「ティーサロンというと……イザベラ嬢のことでしょうか?失礼ながら、もしやあの時待ち合わせされていたのは」
「ええ、お恥ずかしながらわたくしなのです。遅れてティーサロンに到着したところ、殿下とルヴィエ様とイザベラが同じテーブルを囲んでいてとっても驚きましたわ!」
あの時、イザベラは友人の到着が遅れていると言っていたが、相手はどうやらリザだったらしい。そういえば皇后のお茶会でも二人は楽しげに話していたような気がする。
控えめで物静かなイザベラとお茶目で朗らかなリザ。二人の印象は掛け離れているが、名門高位貴族家の歳の近い令嬢同士、話が合うのだろうか。
「おまけにハインリまでいて何事かと思いましたの。あなた、殿下の専属護衛騎士になったんですって?お兄様から聞きましたわ。ずいぶん出世しましたのねぇ」
「リザ、殿下の御前です。口を慎みなさい……失礼いたしました、殿下。スヴェン侯爵令嬢とは旧知の仲でして」
「いいよ、ハインリ。公の場でもないし、リザもそのまま話して」
意外な関係に驚きつつも僕がそう口にしたところ「まぁ!失礼いたしましたわ!殿下、寛大なお心遣い感謝いたします。実は皇后陛下のお茶会の時もハインリを見かけたのですけど、長らく皇后宮勤めだと聞いていましたから、てっきり今でも陛下の護衛なのだとばかり勘違いしていて、それで」とリザの語り口が倍速になってしまった。
(前回話した時も思ったけど、リザめちゃくちゃよく喋るな……!もしかしたら皇帝並みかも)
そういえば、イザベラも見た目の印象のわりには結構よく喋っていたなと思い出す。彼女たちが仲良しな理由が少しだけわかったような気がする。
ハインリはというとげんなりしたような顔でリザの話に相槌を打ったり、話を遮ったりと忙しそうにしていた。どうやらハインリはリザの兄と同い歳だそうで、互いに侯爵令息ということもあり腐れ縁のような関係らしい。ともに士官学校に通った仲でもあるそうで、卒業後は同時期に出征し、以後リザの兄は軍属のまま、ハインリは軍から近衛騎士団へ転籍して今に至るそうだ。
「殿下、知っていらっしゃいます?この男、爽やかぶってますけど実は結構いい歳なのですよ?お兄様はとっくに結婚したというのにいつまで経ってもフラフラフラフラと……チッ、いつになったら結婚するのかしら」
「リザ、殿下の前でなんてことを……君の兄上と違って私は家門を継ぐ訳でもないし別にいいんだよ。第一、そういう君はどうなのさ。仮にも侯爵令嬢だろ」
「あら?わたくしのことはお気になさらず。お父様にバッチリ許可を取った上で行き遅れてますから。このまま軍で登り詰めるも一興、縁があれば結婚してから登り詰めるも一興。これからの人生が楽しみですわ~!」
そう言って高笑いするリザを前に「君、ほんと変わんないな」とハインリがこめかみを押さえながらぼやいた。そういえばリザはスヴェン侯爵家の子供たちの中でも将軍の血を最も色濃く受け継いでいると耳にしたことがあったような気がするが……事実なのだろう。まだお目にかかったことはないはずなのに、なんとなく僕の中で将軍のイメージが固まりつつある。
「イリヤ」
「ん、どうしたのルヴィエ?」
「あれなに」
大人たちの強烈なやり取りが繰り広げられる中、ルヴィエがぼそりと呟いた。
「スヴェン侯爵令嬢!?挨拶してくださってありがとうございます。もちろん覚えていますが……その、以前お会いした時と雰囲気が」
「見ての通り、わたくし軍属なものでして。社交の場では令嬢らしく見えるよう心掛けておりますが、むしろこちらが日常なのです。どうかリザとお呼びくださいませ」
茶目っ気のある笑みを浮かべた彼女は、以前皇后のお茶会で「わたくしはあの話が好きですわ!ほら、夜中にルヴィエ様が厨房で」とのたまわって、他の令嬢たちに大慌ててで口を塞がれていた――つまり、ルヴィエ厨房爆破事件について教えてくれたあの令嬢だった。とはいえ、以前会った時はドレス姿だったため名乗られるまで誰だか分からなかった。スヴェン将軍の娘だということは知っていたが、まさか本人まで軍に務めているとは。
「実は先日、皇都のティーサロンで殿下をお見かけしたのですが挨拶しそびれてしまって、ずっと心残りだったのですわ。友人とお話ししてくださり、本当にありがとうございました」
「ティーサロンというと……イザベラ嬢のことでしょうか?失礼ながら、もしやあの時待ち合わせされていたのは」
「ええ、お恥ずかしながらわたくしなのです。遅れてティーサロンに到着したところ、殿下とルヴィエ様とイザベラが同じテーブルを囲んでいてとっても驚きましたわ!」
あの時、イザベラは友人の到着が遅れていると言っていたが、相手はどうやらリザだったらしい。そういえば皇后のお茶会でも二人は楽しげに話していたような気がする。
控えめで物静かなイザベラとお茶目で朗らかなリザ。二人の印象は掛け離れているが、名門高位貴族家の歳の近い令嬢同士、話が合うのだろうか。
「おまけにハインリまでいて何事かと思いましたの。あなた、殿下の専属護衛騎士になったんですって?お兄様から聞きましたわ。ずいぶん出世しましたのねぇ」
「リザ、殿下の御前です。口を慎みなさい……失礼いたしました、殿下。スヴェン侯爵令嬢とは旧知の仲でして」
「いいよ、ハインリ。公の場でもないし、リザもそのまま話して」
意外な関係に驚きつつも僕がそう口にしたところ「まぁ!失礼いたしましたわ!殿下、寛大なお心遣い感謝いたします。実は皇后陛下のお茶会の時もハインリを見かけたのですけど、長らく皇后宮勤めだと聞いていましたから、てっきり今でも陛下の護衛なのだとばかり勘違いしていて、それで」とリザの語り口が倍速になってしまった。
(前回話した時も思ったけど、リザめちゃくちゃよく喋るな……!もしかしたら皇帝並みかも)
そういえば、イザベラも見た目の印象のわりには結構よく喋っていたなと思い出す。彼女たちが仲良しな理由が少しだけわかったような気がする。
ハインリはというとげんなりしたような顔でリザの話に相槌を打ったり、話を遮ったりと忙しそうにしていた。どうやらハインリはリザの兄と同い歳だそうで、互いに侯爵令息ということもあり腐れ縁のような関係らしい。ともに士官学校に通った仲でもあるそうで、卒業後は同時期に出征し、以後リザの兄は軍属のまま、ハインリは軍から近衛騎士団へ転籍して今に至るそうだ。
「殿下、知っていらっしゃいます?この男、爽やかぶってますけど実は結構いい歳なのですよ?お兄様はとっくに結婚したというのにいつまで経ってもフラフラフラフラと……チッ、いつになったら結婚するのかしら」
「リザ、殿下の前でなんてことを……君の兄上と違って私は家門を継ぐ訳でもないし別にいいんだよ。第一、そういう君はどうなのさ。仮にも侯爵令嬢だろ」
「あら?わたくしのことはお気になさらず。お父様にバッチリ許可を取った上で行き遅れてますから。このまま軍で登り詰めるも一興、縁があれば結婚してから登り詰めるも一興。これからの人生が楽しみですわ~!」
そう言って高笑いするリザを前に「君、ほんと変わんないな」とハインリがこめかみを押さえながらぼやいた。そういえばリザはスヴェン侯爵家の子供たちの中でも将軍の血を最も色濃く受け継いでいると耳にしたことがあったような気がするが……事実なのだろう。まだお目にかかったことはないはずなのに、なんとなく僕の中で将軍のイメージが固まりつつある。
「イリヤ」
「ん、どうしたのルヴィエ?」
「あれなに」
大人たちの強烈なやり取りが繰り広げられる中、ルヴィエがぼそりと呟いた。
549
お気に入りに追加
1,292
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼毎週、月・水・金に投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる