悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する

めろ

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「スヴェン侯爵家のリザがイリヤ皇子殿下にご挨拶申し上げます――殿下、ご無沙汰しておりますわ。皇后陛下のお茶会でお話しさせていただいたのですが、覚えていらっしゃいますでしょうか?」

「スヴェン侯爵令嬢!?挨拶してくださってありがとうございます。もちろん覚えていますが……その、以前お会いした時と雰囲気が」

「見ての通り、わたくし軍属なものでして。社交の場では令嬢らしく見えるよう心掛けておりますが、むしろこちらが日常なのです。どうかリザとお呼びくださいませ」

 茶目っ気のある笑みを浮かべた彼女は、以前皇后のお茶会で「わたくしはあの話が好きですわ!ほら、夜中にルヴィエ様が厨房で」とのたまわって、他の令嬢たちに大慌ててで口を塞がれていた――つまり、ルヴィエ厨房爆破事件について教えてくれたあの令嬢だった。とはいえ、以前会った時はドレス姿だったため名乗られるまで誰だか分からなかった。スヴェン将軍の娘だということは知っていたが、まさか本人まで軍に務めているとは。

「実は先日、皇都のティーサロンで殿下をお見かけしたのですが挨拶しそびれてしまって、ずっと心残りだったのですわ。友人とお話ししてくださり、本当にありがとうございました」

「ティーサロンというと……イザベラ嬢のことでしょうか?失礼ながら、もしやあの時待ち合わせされていたのは」

「ええ、お恥ずかしながらわたくしなのです。遅れてティーサロンに到着したところ、殿下とルヴィエ様とイザベラが同じテーブルを囲んでいてとっても驚きましたわ!」

 あの時、イザベラは友人の到着が遅れていると言っていたが、相手はどうやらリザだったらしい。そういえば皇后のお茶会でも二人は楽しげに話していたような気がする。
 控えめで物静かなイザベラとお茶目で朗らかなリザ。二人の印象は掛け離れているが、名門高位貴族家の歳の近い令嬢同士、話が合うのだろうか。

「おまけにハインリまでいて何事かと思いましたの。あなた、殿下の専属護衛騎士になったんですって?お兄様から聞きましたわ。ずいぶん出世しましたのねぇ」

「リザ、殿下の御前です。口を慎みなさい……失礼いたしました、殿下。スヴェン侯爵令嬢とは旧知の仲でして」

「いいよ、ハインリ。公の場でもないし、リザもそのまま話して」

 意外な関係に驚きつつも僕がそう口にしたところ「まぁ!失礼いたしましたわ!殿下、寛大なお心遣い感謝いたします。実は皇后陛下のお茶会の時もハインリを見かけたのですけど、長らく皇后宮勤めだと聞いていましたから、てっきり今でも陛下の護衛なのだとばかり勘違いしていて、それで」とリザの語り口が倍速になってしまった。

(前回話した時も思ったけど、リザめちゃくちゃよく喋るな……!もしかしたら皇帝並みかも)

 そういえば、イザベラも見た目の印象のわりには結構よく喋っていたなと思い出す。彼女たちが仲良しな理由が少しだけわかったような気がする。
 ハインリはというとげんなりしたような顔でリザの話に相槌を打ったり、話を遮ったりと忙しそうにしていた。どうやらハインリはリザの兄と同い歳だそうで、互いに侯爵令息ということもあり腐れ縁のような関係らしい。ともに士官学校に通った仲でもあるそうで、卒業後は同時期に出征し、以後リザの兄は軍属のまま、ハインリは軍から近衛騎士団へ転籍して今に至るそうだ。

「殿下、知っていらっしゃいます?この男、爽やかぶってますけど実は結構いい歳なのですよ?お兄様はとっくに結婚したというのにいつまで経ってもフラフラフラフラと……チッ、いつになったら結婚するのかしら」

「リザ、殿下の前でなんてことを……君の兄上と違って私は家門を継ぐ訳でもないし別にいいんだよ。第一、そういう君はどうなのさ。仮にも侯爵令嬢だろ」

「あら?わたくしのことはお気になさらず。お父様にバッチリ許可を取った上で行き遅れてますから。このまま軍で登り詰めるも一興、縁があれば結婚してから登り詰めるも一興。これからの人生が楽しみですわ~!」

 そう言って高笑いするリザを前に「君、ほんと変わんないな」とハインリがこめかみを押さえながらぼやいた。そういえばリザはスヴェン侯爵家の子供たちの中でも将軍の血を最も色濃く受け継いでいると耳にしたことがあったような気がするが……事実なのだろう。まだお目にかかったことはないはずなのに、なんとなく僕の中で将軍のイメージが固まりつつある。

「イリヤ」

「ん、どうしたのルヴィエ?」

「あれなに」

 大人たちの強烈なやり取りが繰り広げられる中、ルヴィエがぼそりと呟いた。
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