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 それからというもの、僕とルヴィエは――暇を持て余していた。

 皇帝との会話中に意識を失ってぶっ倒れるという大事件を起こしてしまった僕に下された処遇、それは休暇だった。授業が全て休みになって、一気にやることがなくなってしまったのだ。

 意識を取り戻した直後、悪夢に引き摺られ半ば現実逃避のようにルヴィエと取り留めのない時間を過ごしていた僕だったが、途中から徐々に現実を思い出し、文字通り慌てふためいた。部屋をうろうろしながら「やばい……皇帝になんて説明すれば……波風立てず無難に生きたいだけなのに、どうしてこう次から次へと……」とブツブツ呟く僕を見て、ルヴィエは気味悪そうにしていた。

 が、しかし。ルヴィエのおかげで僕の悩みはあっさりと解消された。というか、僕が意識を失っている間に勝手に解決してくれていた。

 僕が倒れた後、サンドイッチを携えて部屋に戻ってきたルヴィエはてんやわんやする大人たち相手にこう言い放ったらしい。

「イリヤは食事中でも寝る」

 ……言うまでもなく、皇都の書店を訪れるきっかけとなった例の寝落ち事件のことだ。そして、ルヴィエのこの一言を皮切りにゾラとハインリが「慣れない街歩きをしたせいでお疲れになられたのでしょう」だとか「授業続きで身体にご負担が掛かっているようでした」だの、ここぞとばかりに皇帝に奏上した結果、僕はまたしても疲労困憊で寝落ちてしまっただけのお子様と結論付けられた、らしい。
 忸怩たる思いだが、まさに怪我の功名。「イリヤさぁ、やっぱなんか変だよね。高熱出してから挙動不審な感じ?ってか、なんであのタイミングで急に倒れちゃったの?もしかしてなんか思い出したとか?ねぇねぇねぇねぇ(以下略)」なんて調子で皇帝から詰められることを覚悟していた僕は心底ほっとした。

 というわけで、暇を持て余した僕とルヴィエはというと――

「ルヴィエ、ほら見て!結構上手く書けた気がする!」

「俺の方が上手い」

「んー、悔しいけど認めざるをえない……じゃあ次は猫ね」

「分かった」

 砂の上に絵を書いては消して、書いては消して。壮麗たる皇城の隅で僕らはお絵描きに勤しんでいた。そこらへんで拾った木の枝を使って。
 花に蝶に犬に猫、時々誰かの似顔絵。七歳児どころか三歳児でも楽しめるお遊びだ。下手したらもっと小さい子でもできるのではないだろうか。

 なぜ僕らがこんなことをしているのかと言うと、一応理由があるーー朝まで語り合ったあの夜、はからずも僕はルヴィエの秘密を知ってしまったからだ。
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