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 夢というのは、不可解なものだ。
 
「それにしてもあなた、話には聞いてたけど本当に徹底してるのね!」

「お褒め預かり光栄にございます、皇妃殿下」

 秋の初め頃なのだろうか。紅葉が美しい庭で僕は――いや、前世の僕は皇妃と並んで歩いていた。
 若々しく、愛らしい笑顔を向けられて僕はどぎまぎしていた。日傘を差し、優雅に歩く彼女は一見すると貴族の令嬢のようだ。あらかじめ知らなければ、僕と親子ほど歳が離れているとはとても思えない。
 ふと、皇妃の髪が秋風に吹かれて揺れる。春を連想させる明るい桃色の髪がふわりと宙に舞う。

「わたくしもほら、こんな見た目だからよく派手だと言われるのだけどあなたには完敗よ」
 
 ものめずらしげにこちらを見る琥珀の瞳に他意はない。本心から彼女がそう言っていることが伝わってきて、僕は内心笑ってしまった。まるで、出会ったあの日の彼のようだ。

「ご存じの通り、僕は敢えてそう見えるように装っていますので。殿下の輝くようなお美しさとは全くの別物です」

「あらあら、そんなお世辞言わなくてもいいのよ?それに素顔のあなたもとても素敵なのだとあの子が言っていたわ」

「いえ、心からそう思っております。僕のありのままの姿など素朴なものですよ」

 大げさに肩を落としてそう言うと皇妃がじっと僕の顔を覗き込んできた。

「いーえ?確かに派手なお化粧をしてるけどあなた、元の顔もかなり端正よね?お化粧についてはわたくしもそれなりに詳しくてよ?」

「ふふ、ありがとうございます。ですが、顔はあくまでひとつの要素に過ぎませんから。本当の美しさはやはり内面から滲み出るものだと僕は考えています。それこそ皇妃殿下や__のように」

「あら、そういう話ならわたくしは尚更あなたが美しいと思うわよ?社交界で噂の的になるくらいソレを貫き通しているのは本当に見事だわ」

「おや、殿下も僕についての噂を耳にしておいでですか?」

 澄まし顔で僕はそう口にしたが、心の中は大騒ぎだった。皇妃が耳にしたという噂が妙なたぐいのものでないことを祈る。

「正直に言うと、あの子から話を聞いていたとはいえ内心どんな子が来るのか戦々恐々としていたのよ」

 ……どうやら手遅れのようだ。これは開き直るしかない。気恥ずかしさを誤魔化すように僕は一度軽く咳をして、再び口を開いた。

「この見た目で言うのもなんですが、僕にも分別はありますので。実は今日はこれでも控えめな方なのです。夜会の時はそれはもう、派手と下品の境界をギリギリまで攻めてですね……」

「あっはっは!!その見た目でそんな顔つきをしないで!!!」

 朗らかに笑う皇妃の姿を見て、僕はほっとした。彼との今後の関係のためにも、彼女とはできるだけ友好な関係を築きたい。そう思いながらも会話を続けていると、ありがたいことに彼女の方から話を切り出してくれた。
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