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「……え、真夜中に鹿狩りへ?陛下と将軍閣下とルヴィエ殿のお三方で?」
「そう。それで皇帝に肉を焼けと言われて、厨房が爆発した」
「いやいやいや、ルヴィエ。この前も言ったけど話を端折りすぎだって!口下手にもほどがあるよ」
お茶会で耳にしたルヴィエに関する噂話――厨房爆破事件の顛末を耳にし、ハインリはあからさまに聞かなきゃよかったという顔をした。もっとも「まさかあの事件の裏側でそんなことが……いくら陛下ご自身がお決めになられた出陣とはいえ、御身をお守りする私たち近衛が事態を把握できていないのは由々しき問題じゃないか……」といった具合で、ルヴィエが厨房を吹っ飛ばしたことより皇帝の自由奔放な所業に頭を悩ませているようだった。
初夏の爽やかな日差しの中、僕はルヴィエとハインリとともに馬車で皇都へ向かっていた。以前、僕が晒した醜態(寝落ち)を詫びる品を買いに行くためだ。
ルヴィエには気にするなと言われたし、実際彼は本当に気にしてないんだろうけど、僕の気が済まなかった……というのが半分、もう半分は単にたまには城の外に出たいなぁと思ったから。相変わらず普段は授業続きなので気分転換はいくらでもしたい。
目的地へ向かう途中、僕とハインリが他愛もない雑談をしているとルヴィエが突然「鹿が出たのはあの辺りだ」と遠くに見える森を指さした。突拍子のなさに呆れつつもなるほどと納得する僕と鹿狩りの詳細について話し始めたルヴィエを見て、ハインリがギョッとしたので改めて例の事件について最初から説明することになった。
事件が起こったのは半年前、ちょうどルヴィエが皇帝にあちこち連れまわされ始めた頃のこと。その夜、皇帝は晩餐の席にスヴェン将軍を招いていた。将軍は先代皇帝の時代から軍の総指揮を担う隻眼の偉丈夫で、皇帝とはかなり歳の差があるのだが、先の戦で親交を深めたこともあり気の置けない仲らしい。国の重鎮でもあるため、報告も兼ねて定期的に食事をともにしているんだとか。そして食事後はもれなく酒を飲み交わすことになっているそうで、他愛もない話をしながら夜を明かすのだという。
その夜もいつものように皇帝と将軍は酒を飲みながらぐだぐだと話に花を咲かせていた。しかし、二人がほどよく酔いを感じ始めたあたりで将軍の側近が慌ててやってきたのだ。皇都郊外で害獣被害が発生し、軍部に支援要請が来たのだという。
とはいえ、所詮は害獣被害である。本来では将軍の裁可が必要な事案でもない。二人は渋々といった様子で杯を置き、報告を聞いていたのだが――次第に顔色を変え、自分たちも出陣すると言い出したのだ。
楽しいことを見つけたと言わんばかりに喜色を浮かべた酔っ払い二人を見て、面倒事を察知したルヴィエはこっそり逃げ出そうとした。しかし、皇帝に俵抱きにされて無理矢理夜の森まで連れ出される羽目になったのだという。
「そう。それで皇帝に肉を焼けと言われて、厨房が爆発した」
「いやいやいや、ルヴィエ。この前も言ったけど話を端折りすぎだって!口下手にもほどがあるよ」
お茶会で耳にしたルヴィエに関する噂話――厨房爆破事件の顛末を耳にし、ハインリはあからさまに聞かなきゃよかったという顔をした。もっとも「まさかあの事件の裏側でそんなことが……いくら陛下ご自身がお決めになられた出陣とはいえ、御身をお守りする私たち近衛が事態を把握できていないのは由々しき問題じゃないか……」といった具合で、ルヴィエが厨房を吹っ飛ばしたことより皇帝の自由奔放な所業に頭を悩ませているようだった。
初夏の爽やかな日差しの中、僕はルヴィエとハインリとともに馬車で皇都へ向かっていた。以前、僕が晒した醜態(寝落ち)を詫びる品を買いに行くためだ。
ルヴィエには気にするなと言われたし、実際彼は本当に気にしてないんだろうけど、僕の気が済まなかった……というのが半分、もう半分は単にたまには城の外に出たいなぁと思ったから。相変わらず普段は授業続きなので気分転換はいくらでもしたい。
目的地へ向かう途中、僕とハインリが他愛もない雑談をしているとルヴィエが突然「鹿が出たのはあの辺りだ」と遠くに見える森を指さした。突拍子のなさに呆れつつもなるほどと納得する僕と鹿狩りの詳細について話し始めたルヴィエを見て、ハインリがギョッとしたので改めて例の事件について最初から説明することになった。
事件が起こったのは半年前、ちょうどルヴィエが皇帝にあちこち連れまわされ始めた頃のこと。その夜、皇帝は晩餐の席にスヴェン将軍を招いていた。将軍は先代皇帝の時代から軍の総指揮を担う隻眼の偉丈夫で、皇帝とはかなり歳の差があるのだが、先の戦で親交を深めたこともあり気の置けない仲らしい。国の重鎮でもあるため、報告も兼ねて定期的に食事をともにしているんだとか。そして食事後はもれなく酒を飲み交わすことになっているそうで、他愛もない話をしながら夜を明かすのだという。
その夜もいつものように皇帝と将軍は酒を飲みながらぐだぐだと話に花を咲かせていた。しかし、二人がほどよく酔いを感じ始めたあたりで将軍の側近が慌ててやってきたのだ。皇都郊外で害獣被害が発生し、軍部に支援要請が来たのだという。
とはいえ、所詮は害獣被害である。本来では将軍の裁可が必要な事案でもない。二人は渋々といった様子で杯を置き、報告を聞いていたのだが――次第に顔色を変え、自分たちも出陣すると言い出したのだ。
楽しいことを見つけたと言わんばかりに喜色を浮かべた酔っ払い二人を見て、面倒事を察知したルヴィエはこっそり逃げ出そうとした。しかし、皇帝に俵抱きにされて無理矢理夜の森まで連れ出される羽目になったのだという。
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