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5-1. お茶会と憂鬱
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疲れた。それはもう、めちゃくちゃに疲れた。
ようやくお開きとなったお茶会から逃げ出すように僕は皇子宮へと戻ってきた。応接用の二人掛けソファに倒れ込むように身体を投げ出す。ゾラが驚いた顔でこちらを見ているが今日ばかりは許してほしい。ある意味授業よりも疲れるお茶会だったのだ。
「まぁ、イリヤ皇子殿下!」
「殿下がお茶会に参加されるなんて、いつぶりでしょうか。お会いできてとても嬉しいですわ」
「そういえば、殿下。最近ご体調を崩されたのだとか。もう大丈夫なのですか?」
「ご回復されたとのことで安心しましたわ。ですが、くれぐれも無理は禁物ですよ」
出席者たちからこういう感じで話しかけられるのは想定内だった。でも、出席者の数が完全に想定外だった。身内のみを招いた小さなお茶会と聞いていた気がするのに、かなり立派な催しだった。おかげで社交辞令極まりないこういった会話だけでも相当な回数をこなすことになり、早々に口と表情筋が疲弊してしまった。
「そういえば、殿下。噂になっておりますのよ。ルヴィエ様が殿下の侍従になられたのでしょう?」
「わたくし、先日お二人が一緒にいらっしゃるところをお見掛けしましたわ!」
「まぁ、私も!静かに何かを語らいあっていらっしゃいましたわ」
「ええっ、羨ましいですわ!殿下、今日ルヴィエ様はこちらにいらしていないのですか?」
挨拶も兼ねた序盤の会話を終えると大抵これだ。ルヴィエの話を振られる。
なんというか、まずもってしてルヴィエの知名度が高くて驚いた。貴婦人も令嬢も、世代を問わずほとんどの出席者たちがルヴィエの存在を知っていた。
疑問に思い「どうしてみなさんルヴィエのことをご存じなのですか?」と聞いてみたところ、どうやら一時期、皇帝がどこに行くにもルヴィエを連れ回していたんだとか。「いやぁ、この子は私のお気に入りなんだよ~!せっかくだから今のうちに色々勉強させておこうと思ってね!」とあちこちで触れまわっていたらしい。そりゃあ、貴族の皆々様の間でルヴィエが知られているのも当然である。
「なぜ陛下がルヴィエ様を気に入っているのか、ですか?やはり殿下も気になりますよね。実は、最初の頃は私たちも気になっていたのですが……」
「そういえば色々な噂が流れていましたよね。もっとも、どなたかが陛下に直接お伺いしたところ理由は秘密だと言われてしまったそうで」
「あら、厳密には”今はまだ秘密”と笑顔でお答えになられたのだと耳にしましたわ。いずれ明かされるのであれば、無用な詮索は控えるべきではないかということで次第に噂は落ち着いていきましたのよ」
「そうそう。そんな折にルヴィエ様が殿下の侍従に抜擢されたとお聞きして、わたくしたちとっても腑に落ちましたの」
「ええ!陛下のハイテンション……もとい、快活なご様子に全く動じることのないルヴィエ様のお姿は、以前からどことなく殿下に似ていらっしゃるなと思っていたのです」
「それにルヴィエ様は聡明でいらっしゃいますから。陛下が政務の席にルヴィエ様をお連れになった時はさすがに重鎮たちが難色を示したらしいのですが、ルヴィエ様から議論の核心を突くような質問を投げかけられ、誰も答えられずに場が静まり返ったんだとか」
「ルヴィエ様の逸話は他にもありますのよ?あ、わたくしはあの話が好きですわ!ほら、夜中にルヴィエ様が厨房で――」
「ちょっとあなたお待ちなさい!そのお話はまたの機会に。ごほん、失礼いたしました。殿下、話を戻しましょう」
「結論として、どのような経緯でルヴィエ様が陛下のご寵愛を得ることになったのか残念ながら私たちは存じ上げません」
「ですが、今になってようやく分かりましたの。陛下は殿下のことを思ってルヴィエ様に目を掛けていらっしゃったのだと」
「お二人ともご年齢を鑑みると途轍もなく頭脳明晰、容姿端麗、寡黙で冷静沈着ですものねぇ。さぞかし気がお合いになることでしょう」
「なんといっても、お二人が揃っていらっしゃると雰囲気があるのですわ。まるで絵画のようでうっとりしてしまいます」
「その気持ちとってもよく分かりますわ~!殿下、不躾ながらお伺いしたいのですがルヴィエ様とはどんな会話をなさるのですか?」
「まぁ、殿下が困っていらっしゃるわ!みなさま、落ち着いてくださいませ。でも、正直なところわたくしも是非詳しくお聞きしたいですわ~!」
一を尋ねたら十が返ってきた。もう本当に、そんな状況だった。怒涛のごとくもたらされた情報の数々にクラクラしつつも、僕はのらりくらりと当たり障りなく受け答えし、どうにかその場を切り抜けた。そして僕から提供された新たな話題に食いついて、きゃっきゃうふふとばかりに盛り上がる女性陣の輪からこっそりと抜け出して、どうにか自室に逃げ帰ってきた訳だ。うーん、疲労困憊。
他にも色々と見聞きしたはずなのに、残念ながらおぼろげにしか覚えていない。とにかくみんな僕、というかイリヤとルヴィエについて興味津々な様子だった。
ようやくお開きとなったお茶会から逃げ出すように僕は皇子宮へと戻ってきた。応接用の二人掛けソファに倒れ込むように身体を投げ出す。ゾラが驚いた顔でこちらを見ているが今日ばかりは許してほしい。ある意味授業よりも疲れるお茶会だったのだ。
「まぁ、イリヤ皇子殿下!」
「殿下がお茶会に参加されるなんて、いつぶりでしょうか。お会いできてとても嬉しいですわ」
「そういえば、殿下。最近ご体調を崩されたのだとか。もう大丈夫なのですか?」
「ご回復されたとのことで安心しましたわ。ですが、くれぐれも無理は禁物ですよ」
出席者たちからこういう感じで話しかけられるのは想定内だった。でも、出席者の数が完全に想定外だった。身内のみを招いた小さなお茶会と聞いていた気がするのに、かなり立派な催しだった。おかげで社交辞令極まりないこういった会話だけでも相当な回数をこなすことになり、早々に口と表情筋が疲弊してしまった。
「そういえば、殿下。噂になっておりますのよ。ルヴィエ様が殿下の侍従になられたのでしょう?」
「わたくし、先日お二人が一緒にいらっしゃるところをお見掛けしましたわ!」
「まぁ、私も!静かに何かを語らいあっていらっしゃいましたわ」
「ええっ、羨ましいですわ!殿下、今日ルヴィエ様はこちらにいらしていないのですか?」
挨拶も兼ねた序盤の会話を終えると大抵これだ。ルヴィエの話を振られる。
なんというか、まずもってしてルヴィエの知名度が高くて驚いた。貴婦人も令嬢も、世代を問わずほとんどの出席者たちがルヴィエの存在を知っていた。
疑問に思い「どうしてみなさんルヴィエのことをご存じなのですか?」と聞いてみたところ、どうやら一時期、皇帝がどこに行くにもルヴィエを連れ回していたんだとか。「いやぁ、この子は私のお気に入りなんだよ~!せっかくだから今のうちに色々勉強させておこうと思ってね!」とあちこちで触れまわっていたらしい。そりゃあ、貴族の皆々様の間でルヴィエが知られているのも当然である。
「なぜ陛下がルヴィエ様を気に入っているのか、ですか?やはり殿下も気になりますよね。実は、最初の頃は私たちも気になっていたのですが……」
「そういえば色々な噂が流れていましたよね。もっとも、どなたかが陛下に直接お伺いしたところ理由は秘密だと言われてしまったそうで」
「あら、厳密には”今はまだ秘密”と笑顔でお答えになられたのだと耳にしましたわ。いずれ明かされるのであれば、無用な詮索は控えるべきではないかということで次第に噂は落ち着いていきましたのよ」
「そうそう。そんな折にルヴィエ様が殿下の侍従に抜擢されたとお聞きして、わたくしたちとっても腑に落ちましたの」
「ええ!陛下のハイテンション……もとい、快活なご様子に全く動じることのないルヴィエ様のお姿は、以前からどことなく殿下に似ていらっしゃるなと思っていたのです」
「それにルヴィエ様は聡明でいらっしゃいますから。陛下が政務の席にルヴィエ様をお連れになった時はさすがに重鎮たちが難色を示したらしいのですが、ルヴィエ様から議論の核心を突くような質問を投げかけられ、誰も答えられずに場が静まり返ったんだとか」
「ルヴィエ様の逸話は他にもありますのよ?あ、わたくしはあの話が好きですわ!ほら、夜中にルヴィエ様が厨房で――」
「ちょっとあなたお待ちなさい!そのお話はまたの機会に。ごほん、失礼いたしました。殿下、話を戻しましょう」
「結論として、どのような経緯でルヴィエ様が陛下のご寵愛を得ることになったのか残念ながら私たちは存じ上げません」
「ですが、今になってようやく分かりましたの。陛下は殿下のことを思ってルヴィエ様に目を掛けていらっしゃったのだと」
「お二人ともご年齢を鑑みると途轍もなく頭脳明晰、容姿端麗、寡黙で冷静沈着ですものねぇ。さぞかし気がお合いになることでしょう」
「なんといっても、お二人が揃っていらっしゃると雰囲気があるのですわ。まるで絵画のようでうっとりしてしまいます」
「その気持ちとってもよく分かりますわ~!殿下、不躾ながらお伺いしたいのですがルヴィエ様とはどんな会話をなさるのですか?」
「まぁ、殿下が困っていらっしゃるわ!みなさま、落ち着いてくださいませ。でも、正直なところわたくしも是非詳しくお聞きしたいですわ~!」
一を尋ねたら十が返ってきた。もう本当に、そんな状況だった。怒涛のごとくもたらされた情報の数々にクラクラしつつも、僕はのらりくらりと当たり障りなく受け答えし、どうにかその場を切り抜けた。そして僕から提供された新たな話題に食いついて、きゃっきゃうふふとばかりに盛り上がる女性陣の輪からこっそりと抜け出して、どうにか自室に逃げ帰ってきた訳だ。うーん、疲労困憊。
他にも色々と見聞きしたはずなのに、残念ながらおぼろげにしか覚えていない。とにかくみんな僕、というかイリヤとルヴィエについて興味津々な様子だった。
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