悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する

めろ

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2-1. 仲良くなれる気がしない

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「近しい貴族のみを招いた催しとのことですが、いかがなさいますか?」

「もちろん出席するよ。ゾラ、母上によろしくお伝えしてもらえる?」

「承知いたしました。では、そのように手配させていただきます」

 イリヤとして目覚めてからひと月。皇子の私室で休憩していたところ、なにやら皇后から招待状が送られてきた。
 近々、皇后宮でお茶会を開く予定らしい。招待状に「体調が良いようなら久しぶりに社交の場に顔を出してみては」と大変流麗な字で書き添えられていた。皇后の直筆なのだろう。字は人を表すというが、まさにその通りといった堂々たる書きっぷりだった。

 皇后からの誘いを断る気は元よりない。だが、それはそうとして僕はこのお茶会に乗り気だった。
 というのも、この招待状がイリヤだけに届けられたためだ。

(やっと、久しぶりにルヴィエから離れられる……!)

 喜びのあまり嬉し涙が溢れそうだ――まぁ、実際には表情ひとつ変わってないんだろうけど。
  
 この皇子、表情筋がまるでない。イリヤとして目覚めた当初、混乱していることを周囲に悟られないよう必死に表情を取り繕おうと努力していたのだが、しばらくして無駄な努力だったということに気がついた。
 たとえば、笑顔を浮かべようにも顔の筋肉が錆びついているかのようにぎこちなくしか動かず、なんとも言えない表情しか作れないのだ。つい先日も、日々手厚く身の回りの世話を焼いてくれるゾラに笑顔で感謝の気持ちを伝えようとして怪訝な顔をされてしまった。
 以降時折、表情筋を耕すべく鏡の前であれこれ試行錯誤しているが、残念ながら改善の兆しはほとんど見えない。くるくると表情を変えるあのキラキラした皇帝と血が繋がっているはずなのだが……まぁ、イリヤの顔立ちは明らかに皇后似なので、参考にするなら彼女の方が適切なのだろう。今度のお茶会で皇后の顔をこっそり観察させてもらおう。

 話は逸れたが、そう、ルヴィエについてだ。
 ちなみに彼も表情筋が死滅しているようで相変わらず無表情を貫いている。朝から晩までずっと一緒にいるというのに、ヤツの表情筋が機能しているところを目にしたことは一度たりともない。

 さて、そんな不愛想な少年はというと窓際に置かれた一人掛けソファにちょこんと座り、黙々と本を読んでいる。本のタイトルは『帝国の樹立と戦争の論理』。七歳のイリヤとそう見た目の変わらない子供が読むにはずいぶんと分厚く、難解そうな本だ。

「ねぇー、ルヴィエ。その本難しくない?」

「難しくない」

「いや、どうみても大人向けの専門書じゃん。いくらなんでも僕らが読むにはまだ早いような気が……ってルヴィエ、実は僕より結構年上だったりする?」

「八歳」

「だよね。僕と一歳しか違わないじゃん。だいたいさぁ、そんなに本ばっか読んでて飽きないの?今日は珍しく座学の授業がない日なのに」

「飽きない」

「……そっかぁ。ルヴィエは本当に読書が好きなんだねぇ」

 僕の虚しい相槌に続いて次のぺージを捲る音が聞こえ、以降無音となった。どうやらこれにて会話終了のようだ。

(もうちょっとは頑張れよ……!)

 こちらを向くこともなく、手元の本に視線を落としたままのルヴィエと苦しい会話をこなす。それも一日に何度も。もはや日常となりつつあるものの、はっきりいって結構しんどい。
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