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1-3. 皇子殿下に転生したようです
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「さて、これからイリヤにはルヴィエと行動を共にしてもらう。侍従みたいなものだと思えばいい」
侍従という言葉を聞いて、部屋の隅に控える老侍従・ゾラへと視線を移す。イリヤが生まれたばかりの頃から彼の身の回りの世話全般を担っているというロマンスグレーの紳士だ。経験豊富な大ベテランで、かつては皇帝の侍従を務めていた時期もあるという。
右も左も分からない状況の中、根気よく以前のイリヤについて教えてくれた恩人の一人でもある。当然、侍従としての働きも全く持って申し分なく、わざわざ侍従を追加する必要性は皆無だ。仮にゾラからルヴィエへと侍従を交代するだなんてことになったら相当落ち込む自信がある。
僕がゾラを見つめていることに気がついたのだろう。皇帝が再び口を開いた。
「侍従といってもゾラとは役割が違うのさ。皇室の慣習として名目上侍従扱いになるが、実質的にはルヴィエはおまえの側近候補。つまり私とシュヴァルツのような関係だ。私たちもおまえたちと同じ年頃の時に前皇帝の推薦で引き合わされて、以降今に至るまで仲良くやっている。なぁ、シュヴァルツ?」
「はい、陛下。身に余るありがたきお言葉ですが、おっしゃる通りにございます」
皇帝の後ろに影のごとく控えていた男、シュヴァルツが薄い笑みを作りながらそう返事をした。
主従を感じさせる言葉遣いとは裏腹に「本日のお見舞いは手短にお願いいたします」「政務が控えていりますのでそろそろご退出を」「陛下、いい加減になさいませ」などとシュヴァルツが容赦なく皇帝をせっつく姿をこれまで何度も目にしているので、漠然と長い付き合いなんだろうなとは察してはいた。が、そこまでとは思っていなかった。若く見えるが皇帝はもう三十代半ばに差し掛かっているはずなので、二人は実に二十年以上の付き合いということになる。
「各々の所感を定期的に聞かせてもらおうと思っているから、二人ともそのつもりでいるように――じゃ、そんな訳で私たちもそろそろお暇するよ!」
そう言って話を締めくくった皇帝は「はぁー、いい加減溜め込んだ執務に取りかかんないとエレノアに睨まれそうなんだよなぁ」とぼやきながら、シュヴァルツを従えてあっという間に帰って行った。
皇帝を見送り、残された少年に視線を向ける。
毎度騒がしいほどにおしゃべりな皇帝のことだから、ルヴィエについても延々と語り始めるのではと覚悟していたがびっくりするほど何の説明もされなかった。詳しくは直接本人に聞けということなのだろうか。とりあえずもう一度挨拶を、と考えた僕はルヴィエに声を掛ける。
「えっと、知ってるとは思うけど僕はイリヤ。これからよろしくね」
「ああ」
最低限の言葉が返ってきた。そして、ルヴィエは無表情のまま再び黙り込んでしまった。
その、仮にも僕たちは主従関係になるんだから、もうちょっと気遣いがあってもいいんじゃないだろうか。これじゃあどっちが主人なのか分からない。
ただでさえ何を考えているのか分からない上に、碌に返事をしやがらない侍従。
以前のイリヤそのものとはいかなくても極力自然に、とにかく無難に振る舞いたい僕としては御免被りたい存在だ。
(何も分からないなりに今まで上手くやってきたつもりだけど、これは……厄介そうだ……)
こいつとどうやって仲良くなれっていうんだ、皇帝よ。
侍従という言葉を聞いて、部屋の隅に控える老侍従・ゾラへと視線を移す。イリヤが生まれたばかりの頃から彼の身の回りの世話全般を担っているというロマンスグレーの紳士だ。経験豊富な大ベテランで、かつては皇帝の侍従を務めていた時期もあるという。
右も左も分からない状況の中、根気よく以前のイリヤについて教えてくれた恩人の一人でもある。当然、侍従としての働きも全く持って申し分なく、わざわざ侍従を追加する必要性は皆無だ。仮にゾラからルヴィエへと侍従を交代するだなんてことになったら相当落ち込む自信がある。
僕がゾラを見つめていることに気がついたのだろう。皇帝が再び口を開いた。
「侍従といってもゾラとは役割が違うのさ。皇室の慣習として名目上侍従扱いになるが、実質的にはルヴィエはおまえの側近候補。つまり私とシュヴァルツのような関係だ。私たちもおまえたちと同じ年頃の時に前皇帝の推薦で引き合わされて、以降今に至るまで仲良くやっている。なぁ、シュヴァルツ?」
「はい、陛下。身に余るありがたきお言葉ですが、おっしゃる通りにございます」
皇帝の後ろに影のごとく控えていた男、シュヴァルツが薄い笑みを作りながらそう返事をした。
主従を感じさせる言葉遣いとは裏腹に「本日のお見舞いは手短にお願いいたします」「政務が控えていりますのでそろそろご退出を」「陛下、いい加減になさいませ」などとシュヴァルツが容赦なく皇帝をせっつく姿をこれまで何度も目にしているので、漠然と長い付き合いなんだろうなとは察してはいた。が、そこまでとは思っていなかった。若く見えるが皇帝はもう三十代半ばに差し掛かっているはずなので、二人は実に二十年以上の付き合いということになる。
「各々の所感を定期的に聞かせてもらおうと思っているから、二人ともそのつもりでいるように――じゃ、そんな訳で私たちもそろそろお暇するよ!」
そう言って話を締めくくった皇帝は「はぁー、いい加減溜め込んだ執務に取りかかんないとエレノアに睨まれそうなんだよなぁ」とぼやきながら、シュヴァルツを従えてあっという間に帰って行った。
皇帝を見送り、残された少年に視線を向ける。
毎度騒がしいほどにおしゃべりな皇帝のことだから、ルヴィエについても延々と語り始めるのではと覚悟していたがびっくりするほど何の説明もされなかった。詳しくは直接本人に聞けということなのだろうか。とりあえずもう一度挨拶を、と考えた僕はルヴィエに声を掛ける。
「えっと、知ってるとは思うけど僕はイリヤ。これからよろしくね」
「ああ」
最低限の言葉が返ってきた。そして、ルヴィエは無表情のまま再び黙り込んでしまった。
その、仮にも僕たちは主従関係になるんだから、もうちょっと気遣いがあってもいいんじゃないだろうか。これじゃあどっちが主人なのか分からない。
ただでさえ何を考えているのか分からない上に、碌に返事をしやがらない侍従。
以前のイリヤそのものとはいかなくても極力自然に、とにかく無難に振る舞いたい僕としては御免被りたい存在だ。
(何も分からないなりに今まで上手くやってきたつもりだけど、これは……厄介そうだ……)
こいつとどうやって仲良くなれっていうんだ、皇帝よ。
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