悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する

めろ

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1-2. 皇子殿下に転生したようです

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――何が何でも秘密を隠し通さなければ。

 目覚めて以来、僕はそんな一心で毎日を過ごしている。

 アスティリオン帝国の第一皇子・イリヤは十日ほど前、突然高熱を出して意識を失った。その後イリヤは昏睡を続け、数日前にようやく目を覚ました。しかし、イリヤはこれまでの記憶を失ってしまった。

 僕以外は皆そう思っているだろう。だが、実際のところは少し違う。
 イリヤとしての記憶がないのは事実。でも一方で、はっきりと自覚していることがあった。

 僕は、イリヤじゃない。

 かといって、じゃあ僕が誰なのかと聞かれても困る。自分でもよく分からないのだ。

 ただ、おそらく僕は一度死んでいる。

 それだけは唯一ぼんやりと覚えていた。
 とはいえ、詳しくは覚えていない。思い出そうとすると毎回尋常じゃない動悸と眩暈に襲われるあたり
、残念ながらあまりいい死に方ではなかったのだろう。

 何かを考え込む皇帝に気取られないよう、さりげなく今生の自分の手のひらへと視線を移す。
 白く、小さな手だ。聞くところによるとイリヤ皇子は七歳になったばかりらしい。

 鏡で顔を見る度に、何気なく身体を動かす度に。ふとした瞬間、どうしても違和感を覚えてしまう。
 それでも今、僕は生きている。違和感を感じながらも、この生にしがみつきたいと思ってしまう。

「イリヤ、おまえに特別なプレゼントを贈ろう」

 小さな手のひらから視線を外し、慌てて顔を上げる。皇帝の言葉に意識を引き戻された。
 イリヤとして目覚めてからもう何日も経っているというのに、考え事をしていたせいか心が妙にざわつく。

「正直どうするか迷っていたんだが、今日連れてきて良かったよ――ルヴィエ、入ってこい」

 部屋の外に向かって皇帝がそう声を掛けると扉が開いた。イリヤとそう変わらない年齢の黒髪の少年が姿を現し、皇帝のすぐ隣までやってくる。

「紹介しよう、彼の名はルヴィエ。これから仲良くするように」

「……よろしく」

 ルヴィエと呼ばれた少年は何の感情も乗らない顔でそう呟いた。愛想も礼儀も感じられない静かな声が僕の耳に届く。

「こちらこそ、よろしく……?」

 僕はルヴィエの顔を見ながら、戸惑いつつもそう返答した。
 好奇心に満ちた皇帝の眼差しとも、憂慮の念が込められた皇后の眼差しとも違う。イリヤとして目覚めてから初めて向けられる類の視線に思わずたじろいでしまう。
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