箱庭温泉の不機嫌な神様 〜普通のデザイナーですが、あやかし温泉街の宣伝係をやってます〜

オトカヨル

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第十二章 もとの日々へ

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「朝陽ちゃんが手伝ってくれるんなら、ほんっと助かる!」
 一緒に仕事をしてみないかと手紙をくれたかつての同僚、笹木は大袈裟にそう言い、グラスをこちらに掲げて笑顔で言った。
「正直、まだ決めかねてるんですけど……」
 話に興味があるとメールを送ったら、まずは一度会って話をということになり、指定されたのは小さな路地裏のバーだった。

 共に働いていた時は殆どプライベートで会ったことがなかったので、こんな場所で顔を合わせるとちょっと新鮮。
「そこをなんとかお願いしたいんだよね。……有り難い事に、もう仕事の話もいくつか貰ってるんだけど、一人で回すには無理があってさ。その点、朝陽ちゃんなら安心して仕事が振れるし」
「そう言ってもらえると、素直に嬉しいですね」
 私はテーブルの上のグラスに手を添え微笑む。仕事についてそんな風に言われると、つい頬が緩んでしまう。

「仕事はお互い在宅で。クライアントの希望で対面での打ち合わせが必要になったら、同行をお願いする場合もある、って感じなんだけど、どうかなあ」
「今は、どんな仕事が来てるんですか?」
「直近だと介護系のWEBサイトデザインが入ってるかな。もし話を請けてもらえるなら、サイトは僕がやるから、それにトーンを合わせてパンフレットのデザインを頼みたいんだよね」
 私が黙って聞き入っているから、興味ありと察したのか、笹木は畳み掛けるように言葉を続けた。

「で、パンフレットには、ちょっと他では見ないような仕掛けが欲しいって言われてる。お客様が手にした時に取って置きたくなるようなデザインの仕掛け……心に引っかかる『フック』をデザインするのって、朝陽ちゃん、得意だったでしょ」
 それは、昔からずっと心に留めている事。

 最近はすっかり忘れていたはずなのに、笹木の言葉に、何故かちくりと胸が痛んだ。私はそれを誤魔化すようにグラスに口をつける。
 笹木が飲みやすいよと勧めてくれたそれを一口含むと、紅茶の風味がふわりと広がる。

「美味しいですね」
「確か、事務所でも色んな紅茶を淹れて飲んでたなーって思い出してね。アイスティーみたいなカクテルなんだよ」
 レモンの香りも良くて、するりと喉を通ってゆく。あっという間にグラス半分飲んでしまった。
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