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第十章 ファンになってほしいんです

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「それは、案としては出したんですけど、ツツジさんに人形には魂が宿るかもしれないからやめておいた方がいいと言われて」
「ツツジはそれも楽しそうでいいなって思うけど、ギンスイは嫌かなーって」
「それはそうねえ」
 ギンスイは、自分そっくりのぬいぐるみたちが並んで動き出す。その光景を想像したのか、ちょっと低い声でそう言うと身を震わせた。

「マスコットって、元々は『幸運をもたらすもの』って意味をもっているそうです。だから、私はお二方がぴったりだと思って」
 私の言葉に、まんざらでもないというように、ギンスイの尾が2本揃って、ぴんと立てられた。
 ツツジがいつものように胸を張る。
 
 どちらも可愛い。

「じゃあ、後でツツジがアカウント作っておくねー。今日からちょっとずつ、やってみるよ!」
「ツツジさんはお仕事もあるので、無理なくお願いします」
「はーい」
 元気に返事をしてから、ツツジはコーヒーの残りを呷ると、立ち上がる。
「じゃあ、ツツジは仕事に戻るねー」
「私もキリカに呼ばれているから、そちらに行ってくるわ。味見を頼まれたの。……なんだか、素敵なものを作ってるから期待してって言われたわよ」
 昨日の今日で、キリカも寒ざらし作りに取り掛かってくれてるみたい。

 少しずつだけど、ちゃんと進んでるはず。

「みんなでがんばろうねー」

 ついつい力の入った私の肩を、背伸びしてぽんと叩いてからツツジの姿がふわり消える。
 一人で負いすぎなくていいよ、そう言われた気がした。

 ギンスイも私の手を尻尾で軽く叩いてから、空中に飛び上がるとくるりと回り、次の瞬間には消えていた。


◇◇◇


 キリカが作ってくれた特製の『寒ざらし』。それをツツジとギンスイが向かい合って食べている。

 最初にたくさんの反応があったのは、そんな写真だった。
 ツツジの笑顔も、ギンスイが器用に木の匙を使って白玉を掬い上げているのも、見た人の心を掴んでくれたみたいでたくさんのハートがついた。
 嬉しいことに『寒ざらし』が気になるというコメントもたくさん。

 まだ直接来客につながっていないけど、とっても嬉しい反応だった。

 ルリの元にも、『お手紙』の効果もあってか『箱庭温泉』滞在についての問い合わせが、ちらほら届き始めたと聞いて、私は少し安心する。
 
 ……でも、その考えは甘かったと知ったのは、それからしばらく後の事だった。
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