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第八章 一客二来
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茜色の小さな光が、ぷかぷかとユノの肩の上に浮いている。
そのうち光は消え、後には茜色の鎧を着た小さな小さな男の子が残っていた。
ユノの肩に座り、こちらを見下ろし足をぶらぶらと揺らしている。
「こちらの妖は蟹ですか?」
ルリの問いに、ユノが頷く。
「そう、地元で夕やけガニと呼ばれている、まあ、ワタリガニだな。あの浜で妖になりかけていた所を拾ってきたんだが、どうにも危なっかしくてなあ。ここの趣旨とは違うかもしれないが、もう少し魂が安定するまで安全なここに滞在させてもらおうかと」
「そういうことかー」
ツツジがつま先立ちで伸び上がり指を差し出すと、その指先を男の子がぎゅ、と握る。
「よろしくねー」
男の子がこくんと頷いた。声は出せないようだけど、ツツジとは意志が通じ合えている様だった。
「賑やかな浜は大歓迎なんだが、どうしても引っ張られて悪いものも湧くってもんでなあ」
ユノは困った様に、顎に手を当てて首をひねる。
「そうでしょうね。その点、ここなら強固に守られてますから」
ルリはそう言いながら、ローテーブルの上に宿帳を開いた。
「では、ユノさんも、そちらの妖も宿帳に名前を書いてください。早速『箱庭温泉』へご案内します」
「書こうにも、そいつはまだ名が無いぞ」
そう言いながらユノが宿帳の少し上で指を振るうと、するすると文字らしき墨痕が浮かび上がる。
筆で書かれたと思っていたけど、そんな風に記帳してたんだ……。
「ああ、それならこの宿帳に手を触れてください。名付けが終わったら、自然と名前が書かれますから」
茜鎧の男の子は、動く度にかちゃかちゃと鎧の音を立てながら、元気よくテーブルに降りた。手をいっぱいに伸ばして、言われるままに宿帳に触れる。一瞬、宿帳の表面が仄かに光を放ち、そのまま空白が残った。
「わかってると思いますが、名付けが終わるまでは宿に滞在し、『地獄』には決して近づけない様に気をつけてください。神気が強すぎてなりかけでは、のまれてしまいますから」
「わかったわかった、じゃあ、案内頼むわ」
ユノの言葉を受けて、ルリが机の上の宿帳を閉じて手に持つと私を振り返った。
「いきなり千客万来とはいかないが、まずは、一客二来。上々のすべり出しだろう」
ルリは口の端に笑みを乗せてそれだけを言うと、ユノ達共々、ふうっと姿が消えた。
そのうち光は消え、後には茜色の鎧を着た小さな小さな男の子が残っていた。
ユノの肩に座り、こちらを見下ろし足をぶらぶらと揺らしている。
「こちらの妖は蟹ですか?」
ルリの問いに、ユノが頷く。
「そう、地元で夕やけガニと呼ばれている、まあ、ワタリガニだな。あの浜で妖になりかけていた所を拾ってきたんだが、どうにも危なっかしくてなあ。ここの趣旨とは違うかもしれないが、もう少し魂が安定するまで安全なここに滞在させてもらおうかと」
「そういうことかー」
ツツジがつま先立ちで伸び上がり指を差し出すと、その指先を男の子がぎゅ、と握る。
「よろしくねー」
男の子がこくんと頷いた。声は出せないようだけど、ツツジとは意志が通じ合えている様だった。
「賑やかな浜は大歓迎なんだが、どうしても引っ張られて悪いものも湧くってもんでなあ」
ユノは困った様に、顎に手を当てて首をひねる。
「そうでしょうね。その点、ここなら強固に守られてますから」
ルリはそう言いながら、ローテーブルの上に宿帳を開いた。
「では、ユノさんも、そちらの妖も宿帳に名前を書いてください。早速『箱庭温泉』へご案内します」
「書こうにも、そいつはまだ名が無いぞ」
そう言いながらユノが宿帳の少し上で指を振るうと、するすると文字らしき墨痕が浮かび上がる。
筆で書かれたと思っていたけど、そんな風に記帳してたんだ……。
「ああ、それならこの宿帳に手を触れてください。名付けが終わったら、自然と名前が書かれますから」
茜鎧の男の子は、動く度にかちゃかちゃと鎧の音を立てながら、元気よくテーブルに降りた。手をいっぱいに伸ばして、言われるままに宿帳に触れる。一瞬、宿帳の表面が仄かに光を放ち、そのまま空白が残った。
「わかってると思いますが、名付けが終わるまでは宿に滞在し、『地獄』には決して近づけない様に気をつけてください。神気が強すぎてなりかけでは、のまれてしまいますから」
「わかったわかった、じゃあ、案内頼むわ」
ユノの言葉を受けて、ルリが机の上の宿帳を閉じて手に持つと私を振り返った。
「いきなり千客万来とはいかないが、まずは、一客二来。上々のすべり出しだろう」
ルリは口の端に笑みを乗せてそれだけを言うと、ユノ達共々、ふうっと姿が消えた。
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