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第六章 羽ばたくお手紙
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「こんな感じで、どうでしょう?」
私はくるりとノートPCの画面を少女姿のツツジに向けた。今日は駄菓子店がお休みなので、奥の部屋でツツジに昨夜作った『お手紙』をみてもらっていた。
私が息を呑んで見守っていると、ツツジは身を乗り出して確認、今度は体をぐっと引いて眺めた。
そして、ぱぁっと顔が明るくなる。
「うん、ツツジはこれ好き!」
ツツジは元の位置に戻り、それからにこりと笑った。
「写真が良いのはねー、ツツジとギンスイだから当たり前だけど、『もう一度ここで、ゆったりと』っていう、キャッチコピー? っていうのかな、小さく添えてあるだけなのに、なんかすごく良いと思う」
私はその言葉に安心してしまい、ぐずぐずとソファーに深く沈み込んだ。
「よかったぁ……」
正直、緊張していた。全然ダメだって言われる事も覚悟していたから。
「これを、ここで『穢れ』落としをしたみんなに送って、また来てねってお知らせするんだよね?」
私はツツジの質問に体を起こすと、これからやろうとしている事について説明をはじめる。
「はい。それだけでは、本当に来て欲しいと思っている『妖』の皆さんには届かない。でも、この『箱庭温泉』に来てもらってから、SNSへの投稿をお願いしたらどうでしょう?」
「写真をあげていってもらうって事?」
「そうです、『箱庭温泉』の強みは、人の世界と切り離されている所。それを、実際にここで過ごしている方の写真から伝えたいんです」
ツツジにしてもルリにしても、この環境が当たり前と感じていたはず。でも、今回使った足湯での写真もそうだけど、「安心できる場所が確保されている」って事がもっと拡散されたら……。
「それで、ツツジさんにお願いがあるんです」
私はツツジの両手を、ぎゅっと握る。
昨日ギンスイが教えてくれた写真共有系SNS、ざっと見てみたところまだ個人の発信がメインで、集客目的で使用している流れはなかった。
だからこそ、そこにチャンスがある。
「ツツジさんにはギンスイさんと一緒に『箱庭温泉』のマスコットになって欲しいんです!」
その言葉に、ツツジは大きな目をもっとまあるく見開いた。
私はくるりとノートPCの画面を少女姿のツツジに向けた。今日は駄菓子店がお休みなので、奥の部屋でツツジに昨夜作った『お手紙』をみてもらっていた。
私が息を呑んで見守っていると、ツツジは身を乗り出して確認、今度は体をぐっと引いて眺めた。
そして、ぱぁっと顔が明るくなる。
「うん、ツツジはこれ好き!」
ツツジは元の位置に戻り、それからにこりと笑った。
「写真が良いのはねー、ツツジとギンスイだから当たり前だけど、『もう一度ここで、ゆったりと』っていう、キャッチコピー? っていうのかな、小さく添えてあるだけなのに、なんかすごく良いと思う」
私はその言葉に安心してしまい、ぐずぐずとソファーに深く沈み込んだ。
「よかったぁ……」
正直、緊張していた。全然ダメだって言われる事も覚悟していたから。
「これを、ここで『穢れ』落としをしたみんなに送って、また来てねってお知らせするんだよね?」
私はツツジの質問に体を起こすと、これからやろうとしている事について説明をはじめる。
「はい。それだけでは、本当に来て欲しいと思っている『妖』の皆さんには届かない。でも、この『箱庭温泉』に来てもらってから、SNSへの投稿をお願いしたらどうでしょう?」
「写真をあげていってもらうって事?」
「そうです、『箱庭温泉』の強みは、人の世界と切り離されている所。それを、実際にここで過ごしている方の写真から伝えたいんです」
ツツジにしてもルリにしても、この環境が当たり前と感じていたはず。でも、今回使った足湯での写真もそうだけど、「安心できる場所が確保されている」って事がもっと拡散されたら……。
「それで、ツツジさんにお願いがあるんです」
私はツツジの両手を、ぎゅっと握る。
昨日ギンスイが教えてくれた写真共有系SNS、ざっと見てみたところまだ個人の発信がメインで、集客目的で使用している流れはなかった。
だからこそ、そこにチャンスがある。
「ツツジさんにはギンスイさんと一緒に『箱庭温泉』のマスコットになって欲しいんです!」
その言葉に、ツツジは大きな目をもっとまあるく見開いた。
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