箱庭温泉の不機嫌な神様 〜普通のデザイナーですが、あやかし温泉街の宣伝係をやってます〜

オトカヨル

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第五章 作戦会議

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「また会えたわねえ、お嬢さん」
 机を蹴って、猫は私の膝に飛び乗り、すりりと手に顔を擦り付けてきた。やっぱり声はそこから聞こえる。
「あの、あなたもルリさんと同じで眷属の方ですか?」
 私の問いに、尾を振って否定を表す。揺れる尾が、二つに分かれた。
「違うわ、私は『妖』の方よ。猫又のギンスイ。『箱庭』に随分と長く滞在してるのよ」
 そう言い白くもちもちした両方の手で、私の手を挟み込むように触れる。握手のつもりなのかと思うと、可愛らしさについ頬が緩む。

「黙って聞いていようと思ったんだけど、ルリの説明が退屈すぎて」
 ふう、とため息をついて首を振るギンスイ。ピンと立った耳が揺れている。
「ねえ、あなた、お饅頭は好きかしら?」
 突然の質問に、私は面食らいながらも頷く。

 すると、机の上に二つ、温泉まんじゅうと書かれた小さな包みが現れた。
「ギンスイさん、それは『箱庭』製でしょう。朝陽君に食べさせたりしないように気をつけてください」
「わかっているわよ」
 再び机の上に飛び乗って、ギンスイは丸っこい手で器用に一つだけ包みを剥がした。

「こっちが妖で、包んだままのお饅頭が『神』に連なる者ね」
 私の頭に、?マークが行列を成した。
 きょとんとした顔の私を見上げて、ギンスイは優しく言う。

「私たち妖側の存在もルリみたいな神の側の存在も、大きく見れば中身はおんなじような魂から出来ているのよ。ただ、その外側が違うの。包まれていないお饅頭は簡単に汚れたり、カビがついたりもするでしょ。それがけがれがついた状態ね。で、神気に包まれたこっちのお饅頭は汚れにくいってこと」
 包みを開けたお饅頭にぱくりと噛みついて、もぐもぐと口を動かしながらギンスイが続ける。

「濃い神気に浸かると、まず穢れがとれていくのよ。で、綺麗になったところを神気にくるりと包まれて『神』の側の存在になるの」
「それで眷属が増えるとか、そういう事ですか?」
 私の問いにギンスイが尾を振る。どうも違うらしい。
「妖が落とした穢れをたくさん集めて神格が高い神が浄化すると、あら不思議、神気に変わるのよ~」
 
 エネルギーの再利用、という感じなんだろうか。なんだかエコだなあ、と私はのんびり考えた。
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