箱庭温泉の不機嫌な神様 〜普通のデザイナーですが、あやかし温泉街の宣伝係をやってます〜

オトカヨル

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第四章 地獄めぐり

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 私が小屋を出ると、猫は尾を振ってするりとまた何処かへ歩いていってしまった。
「案内、ありがとうね」
 声をかけてから、私はルリの姿を探して頭を巡らせる。

 小屋の少し上に、石造りの腰掛けが並んでいた。近くにある看板を見ると、座って地熱で足を温める『足湯』ならぬ『足蒸し』なんだそうで。
 そこにルリが座って待っていた。私は靴を脱いで、ちょこんと横に腰を下ろす。
 足元がぽかぽかと暖かい。時々ふわっと噴気が上がるのも気持ちいい。
「これ、ひとつどうぞ」
「ああ、ありがとう」
 二人で黙々とたまごの殻を剥く。つるりとした卵にちょっとだけ塩をつけて一口。程よい硬さの黄身が、ほろり口の中でほどける。
 こくり飲み込んでから、いただいたレモネードを。
 ほんのりレモンの風味と、炭酸の爽やかさがすっと喉を通った。

 美味しい。

「ここのたまご、半熟じゃないんですね」
「そうだな。120℃にもなると言われている地獄の噴気で蒸しているから、固茹でなんだ」
「味が濃くて、美味しいです」
 
 ルリは雲仙のものを褒められると、ちょっとだけ目の色が柔らかくなる。まだ付き合いは浅いけど、それがわかるようになってきた。

 不機嫌そうな見た目と硬い話し方。
 顔立ちが整っているとはいえ、普通なら関わる事を避けたいと思ってもおかしくないタイプなのに、最初から何故かそんなに怖いとか嫌だと感じなかった。
 むしろ、こんな風に話が途切れても、沈黙が心地いいなあと思ったりする。

「さて、そろそろ次へ移動しよう」
 そう言われ、私は暖かさと美味しいものですっかりその場に根が生えそうだったけど、なんとか立ち上がる。

 それからは、残りのエリアも遊歩道を辿ってゆっくりと回った。

 ボーボーというような不気味な音が噴気と共に上がり、その音が叫び喚くようだと名が付いた『大叫喚地獄』。
 地中から噴気で泥が山のように盛り上がる様子が見られる『泥火山』。

 どこもゴロゴロと岩が転がり、その隙間から白煙と湯が噴き上がる様子は、『地獄』に見立てられるのもわかるなあと思う。

 そんな事を考えていると、徐々に木々や岩肌ばかりの景色が変わって、湯宿が見えて来た。そろそろ地獄めぐりも終わりみたい。
 
 せっかく案内してもらったんだから、実際に体験したこの感覚を生かさなきゃ。私は決意できゅっと拳を握った。
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