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第三章 私にできること

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「どういう、事ですか?」

 私はそうルリに聞き返す。
「今年に入ってから、あの『箱庭温泉』で神と成った妖は、やっと十を数えた所だ。……既に晩秋、今年の見込みとしてはいいとこ十二、三だろう」
 私はざっと計算し、声を上げた。
「そのペースだと、母が外に出られるのは七十七年後!? 」
 そうなれば、私だってもう、いなくなっている。
 絶句する私を前に、ルリが再び頭を下げる。

「本当にすまない。あるじは、自分の時間感覚で安易に考えてしまったのだろう……」
「それは、もうどうにも出来ないんですか?」
「力ある神と誓約を交わした以上、破棄はできない」
 
 ルリが深く頭を下げていた理由がこれでわかった。このままでは、母は生きてあの『箱庭』を出られない。

「母は、この事を知らないんですよね?」
 先ほどの母は楽しそうに見えた。まさか知るはずは無い、私はそう思った。だけど、答えに迷っているルリの横に座ったツツジが一言。
「カヅサは、ちゃんと知ってるよ」
「え!」
 知っているのに、なんであんな笑顔で居られるのか、私は理解できなくてつい怪訝な顔になる。
「『まあ、なんとかなるでしょ!』って言ってた」
「あー」

 私はその言葉に全てがに落ちる。
 友達だと信じた人に騙され窮地に陥るたびに、それでも笑顔で母は言っていた『なんとかなるでしょ!』って。
 そして、確かに母は自分だけで『なんとか』してきた。

 そんな母が私を呼んだ。

 助けを求めたわけじゃなくて、本当にただ家の管理だけ頼みたかったのかもしれない、それでも……。
 
「今までの年間の来客数は、ずっとその位で推移を?」
 私は必死に解決の糸口を探りながら問う。ルリは少し考え、それから答えた。
「いや、年々減少している」

 悪い知らせ、というつもりで低い声で口にしただろうルリ。私はだけどその言葉にほんの少し光が見えた気がした。
「減っていっているって事は、昔はもっと沢山のお客様が来てたって事ですよね?」
「ん、ああ。そうだな、五十年程前には年間百を超える妖がこの雲仙へやって来ていた」
 その当時の事を懐かしむように目を閉じるルリ。五十年前の事を思い出しているんだろうけど、そうするとルリって何歳なんだろう……?

 その、今は関係ない考えを振り払うように首を振り、私は質問を続ける。

「減少の原因は、わかっていますか?」
「それは……」
 ぎゅっと眉間に皺を寄せて、言い渋るルリ。
「他にもっと良い所があるからだよー」
「ツツジ! その言い方は主に失礼だろう!」
「だって、主様もいつも言ってるよ。『同じ九州に別府があると比べられて辛いねえ』って」
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