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第二章 箱庭の温泉街
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吸い込まれそうな深い青色の瞳。
その底で金の光がちかちかと瞬いている。私がその不思議な色合いに見入っていると、
「そろそろ自分で立ってくれ」
低い声が耳元に落ちた。
「すみませんっ!」
私は慌てて体を離す。
少し離れて改めて向き合うと、私を助けてくれたのは背の高い、整った顔立ちの青年だった。少し長めのサラリとした黒髪が、仄かにうるりと光る。青く見えたのは光の加減だったのか、瞳は艶めいた黒。
白いカットソーの上に黒に近い濃紺のノーカラージャケット、ブルーグレーのテーパードパンツというシンプルな組み合わせなのに、その顔立ちと相まってまるでメンズ誌の1ページから抜け出してきたように見えた。
ぎゅっと眉根を寄せ、不機嫌そうな空気を纏っているのが少し残念ではあるけれど。
対する私はといえば、一刻も早く母の無事を確認したいと慌てて飛んできたものだから、長い髪をざっと一つに束ね、無難な綿のシンプルなカーキのワンピースに黒いスキニーと黒いスニーカー。メイクも最低限という有様。
そんな私を彼が抱き止めてくれたようで……私はひどく申し訳なくなり深々と頭を下げる。
「ありがとうございます、助かりました」
「いや、すまない。店の者がいたずらを」
青年がそう言うと、その後ろから私の背を押した店員ではなく、エプロンドレスを着た少女が顔を出す。
青年の言葉が不服だったのか、ぷくりと頬を膨らませているのが可愛らしい。
「いたずらじゃないよ、だってこの人、コレ持ってたもん」
小さな手でこちらに指し示したのは、先ほど店員さんに渡した『おもちゃミュージアム』のチラシだった。
あれ? と不思議に思い見回しても、当の店員さんの姿はない。
「だからって、いきなりあの場所に送り込むようなことは……」
青年はそう言いながらチラシを受け取り、印刷がない裏面と私の顔を交互に見て言葉を止め、それからもう一度口を開いた。
「君はもしかして『かづさ』の縁者か? 名前は?」
「え、確かに加津佐ですけど……加津佐 朝陽です」
名乗ると、青年は一層顔を顰め、それから長いため息をついた。
私はびくりと肩を揺らす。
「ああ、怒っているワケじゃない」
「そうだよー、ルリはいつもこんな感じ」
少女はそう言うと、青年の真似なのか眉の間をぎゅっと自分の指で摘んで見せる。
私は思わずふふっと笑い、それからそんな場合ではなかったと思い直した。
「もしかして、母が何処にいるか、知ってるんですか?」
青年は頷いた。
その底で金の光がちかちかと瞬いている。私がその不思議な色合いに見入っていると、
「そろそろ自分で立ってくれ」
低い声が耳元に落ちた。
「すみませんっ!」
私は慌てて体を離す。
少し離れて改めて向き合うと、私を助けてくれたのは背の高い、整った顔立ちの青年だった。少し長めのサラリとした黒髪が、仄かにうるりと光る。青く見えたのは光の加減だったのか、瞳は艶めいた黒。
白いカットソーの上に黒に近い濃紺のノーカラージャケット、ブルーグレーのテーパードパンツというシンプルな組み合わせなのに、その顔立ちと相まってまるでメンズ誌の1ページから抜け出してきたように見えた。
ぎゅっと眉根を寄せ、不機嫌そうな空気を纏っているのが少し残念ではあるけれど。
対する私はといえば、一刻も早く母の無事を確認したいと慌てて飛んできたものだから、長い髪をざっと一つに束ね、無難な綿のシンプルなカーキのワンピースに黒いスキニーと黒いスニーカー。メイクも最低限という有様。
そんな私を彼が抱き止めてくれたようで……私はひどく申し訳なくなり深々と頭を下げる。
「ありがとうございます、助かりました」
「いや、すまない。店の者がいたずらを」
青年がそう言うと、その後ろから私の背を押した店員ではなく、エプロンドレスを着た少女が顔を出す。
青年の言葉が不服だったのか、ぷくりと頬を膨らませているのが可愛らしい。
「いたずらじゃないよ、だってこの人、コレ持ってたもん」
小さな手でこちらに指し示したのは、先ほど店員さんに渡した『おもちゃミュージアム』のチラシだった。
あれ? と不思議に思い見回しても、当の店員さんの姿はない。
「だからって、いきなりあの場所に送り込むようなことは……」
青年はそう言いながらチラシを受け取り、印刷がない裏面と私の顔を交互に見て言葉を止め、それからもう一度口を開いた。
「君はもしかして『かづさ』の縁者か? 名前は?」
「え、確かに加津佐ですけど……加津佐 朝陽です」
名乗ると、青年は一層顔を顰め、それから長いため息をついた。
私はびくりと肩を揺らす。
「ああ、怒っているワケじゃない」
「そうだよー、ルリはいつもこんな感じ」
少女はそう言うと、青年の真似なのか眉の間をぎゅっと自分の指で摘んで見せる。
私は思わずふふっと笑い、それからそんな場合ではなかったと思い直した。
「もしかして、母が何処にいるか、知ってるんですか?」
青年は頷いた。
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