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第一章 雲の上へ
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たどり着いた温泉街は、すでに夕方に差し掛かっていたのもあり、すっかり人はまばらで、どこか寂しい印象を受ける。
車を駐車場に預け、冷蔵庫から剥して持ってきたチラシを片手に私は目的の店を探す。
本来なら湯治客で賑わっているだろう通りは、並んだカフェも土産店も閉店前の片付けに取り掛かっている。
間に合ってと祈りながら、私は石畳風の歩道を足早に歩いた。
なんとか目的の店に着き、中を覗き込む。
所狭しと駄菓子が並んだ店内には、駄菓子だけではなくいろんな時代のオモチャが飾られていた。
パッケージにはその時代ごとのデザインの流行が表れていて、こんな時でなければ隅々まで見て回りたいくらい貴重な資料。
だけど今はそれどころじゃない。
私はまず、駄菓子の入った棚の前で商品の整理をしているエプロンをつけた老齢の女性に声をかけた。
「すみません、まだ大丈夫ですか?」
声をかけると、その人はこちらを向いて柔らかい笑みを浮かべる。
「どうぞどうぞ、ゆっくり見ていってください」
私はその言葉にほっとして、足を踏み入れる。まずはダメ元で母について聞いてみる事に。
「あの、ちょっと人を探していて。……この人、最近このお店に来ませんでしたか?」
店員さんに近づき、スマートフォンに母の写真を表示させて問う。
「私の母なんですが……」
店員さんはちらりとその写真を見て首を捻った。
「見たような、見んかったような……こん店は、多い時は日に何十人も来ますけんねえ、中々一人一人は覚えておられんもんで」
方言混じりの返答に私は肩を落とす。
「忙しいところにすみませんでした」
そんな簡単に見つかるわけもない。私は作業の邪魔をしないよう早々に立ち去ろうとした。
「そんチラシは?」
私はそう言われて、今の今までしっかりとチラシを握りしめていた事に気がついた。
「あ、これですか? 母の家に残っていたんです。だからもしかしたらここに来たのかもって思って」
「ちょっと見せてもらえんですか?」
自分のお店のチラシだろうに、と不思議に思いながら私は言われるままチラシを差し出す。
受け取った店員さんはチラシを開き、表、何も印刷されていない裏まで確認し、それから大きく頷いた。
「もしかしたら、ここに来たかもしれんですね」
「本当ですか?」
「奥の部屋ば見たいって言うた人じゃなかかな」
そう言い、店員さんは店の奥にある引き戸を指差す。
入り口には、『おもちゃミュージアム』と白く染め抜かれたのれんがかかっていた。
車を駐車場に預け、冷蔵庫から剥して持ってきたチラシを片手に私は目的の店を探す。
本来なら湯治客で賑わっているだろう通りは、並んだカフェも土産店も閉店前の片付けに取り掛かっている。
間に合ってと祈りながら、私は石畳風の歩道を足早に歩いた。
なんとか目的の店に着き、中を覗き込む。
所狭しと駄菓子が並んだ店内には、駄菓子だけではなくいろんな時代のオモチャが飾られていた。
パッケージにはその時代ごとのデザインの流行が表れていて、こんな時でなければ隅々まで見て回りたいくらい貴重な資料。
だけど今はそれどころじゃない。
私はまず、駄菓子の入った棚の前で商品の整理をしているエプロンをつけた老齢の女性に声をかけた。
「すみません、まだ大丈夫ですか?」
声をかけると、その人はこちらを向いて柔らかい笑みを浮かべる。
「どうぞどうぞ、ゆっくり見ていってください」
私はその言葉にほっとして、足を踏み入れる。まずはダメ元で母について聞いてみる事に。
「あの、ちょっと人を探していて。……この人、最近このお店に来ませんでしたか?」
店員さんに近づき、スマートフォンに母の写真を表示させて問う。
「私の母なんですが……」
店員さんはちらりとその写真を見て首を捻った。
「見たような、見んかったような……こん店は、多い時は日に何十人も来ますけんねえ、中々一人一人は覚えておられんもんで」
方言混じりの返答に私は肩を落とす。
「忙しいところにすみませんでした」
そんな簡単に見つかるわけもない。私は作業の邪魔をしないよう早々に立ち去ろうとした。
「そんチラシは?」
私はそう言われて、今の今までしっかりとチラシを握りしめていた事に気がついた。
「あ、これですか? 母の家に残っていたんです。だからもしかしたらここに来たのかもって思って」
「ちょっと見せてもらえんですか?」
自分のお店のチラシだろうに、と不思議に思いながら私は言われるままチラシを差し出す。
受け取った店員さんはチラシを開き、表、何も印刷されていない裏まで確認し、それから大きく頷いた。
「もしかしたら、ここに来たかもしれんですね」
「本当ですか?」
「奥の部屋ば見たいって言うた人じゃなかかな」
そう言い、店員さんは店の奥にある引き戸を指差す。
入り口には、『おもちゃミュージアム』と白く染め抜かれたのれんがかかっていた。
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