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しおりを挟むそう、『見通す』のにはタネがあった。
私なりの『呪い』。バックドアを仕込むコンピューターウイルス。『運命診断』の時は予約のやり取りの時か、飛び込みの相手なら無線接続を通じてその場で感染させる。
そこからウェブブラウザの履歴、メールやSNSでのやり取り情報をざっと読み取り、それらしく肉付けして話せば、運命を見通していると誤解してくれるから。
ちなみにミクの情報は、最初にタクシーに乗車した時にはもう一通り見ておいた。
「ズルいのは知ってたし、占いじゃないって言ってたけど……」
私は誤魔化すように笑う。
「せっかく家からは出られたんですが、結局、私は『呪い』の味が忘れられなくて。……あ、さっきの『呪い』も中々美味しかったです」
「全然共感できない感想を聞かされても困る」
眉を下げてそう言うミクに構わず、私は話を続ける。
「『運命診断』なんて占いまがいの事をやってるのも……ああいう場には、オカルト絡みの相談が来ることもあるからなんです。一石二鳥なんですよ。生活費の確保と、美味しい『呪い』探しに。ミクさんが書き込んだ相談掲示板も、そういう情報収集の場の一つですし」
「じゃあ、あの書き込みの答えはサリが?」
素直に頷く私。
そんな私を見て、急に不安そうな表情で、ミクは口を開いた。
「なんで私にそんな事まで、教えてくれるの?」
私はゆっくりと手を伸ばし、ミクの頬に優しく触れる。びくりとミクの肩が震える。
「ミクさんが、逃げられなくなるように」
顔を近づけて耳元で低い声で告げる。
「サリ……もしかして」
私はにこりと微笑みかけ、自分の首元を覆っていたニットソーの襟に指をかけ、引き下ろした。そこには、所謂『喉仏』と言われるものが見えたはず。
ミクが目をいっぱいに見開く。
「女の人だから、ノーカンだって思ってたのに」
身を引いたミクが唇を押さえてふるふると身を震わせ、真っ赤になる。
「ああいう格好してる方が、お客さんウケがいいので」
「……見通してもないし、魔女ですらないじゃない」
ミクは、うーっと唸って私を睨むが、私は笑って受け流す。
「今回の事でミクさんは『呪い』と縁が出来てるみたいなんですよね。だから、私と繋がっておく方が安心ですよ?」
「本心は?」
ミクはじっと私の顔を睨みつけて問う。
「次も美味しい『呪い』を楽しみにしてます」
私の心からの言葉に、ミクは手近な所にあったボールを掴んでこちらに投げつける。
「サリの所なんて、絶対もう行かない!」
私はそれを片手で受け止めて、走り去るミクの背中を笑顔で見送る。
「いつでも、あの場所で待ってますから」
答えは返ってこなかった。
◇◇◇
サリは薄暗い中を落ち葉を踏み締めて歩く。ミクの学校裏の雑木林。
その奥に分け入り、サリは目当ての物を見つけた。
崩れかけた小さな祠。そこに、復讐を願えば叶えてくれる神様が居るという。
「学校の七不思議なんて子供っぽいと思ってましたけど」
確かに、居る。ユカに憑いて呪いを振り撒いてた主が。
先ほど殆ど食べてしまったので、もう残り滓だけど……。
「味は期待できないですけど、お残しはいけないですからね」
サリは笑顔で、大きく口を開けた。
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