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 ビルとビルの隙間、昼でもうっすらと暗い路地に隠れるように置かれている『見通す魔女の運命診断』と書かれた小さな看板。
 その大袈裟おおげさな名前の診断の結果として、私はひとしきりそれっぽい前向きな言葉を並べたて『あなたには輝く未来が続いています』と締めくくると、そこまで静かに聞いていた少女は机の上に置いてる料金表を脇に退けた。

「ねえ、んでしょ?」
 つるんと艶めく少女の赤い唇がそんな言葉を零す。

 小さな机越しに向かい合い、私は演出の為に被ったフードの間から目を覗かせて瞬く。
「なにがですか?」
 この辺りではあまり見ない制服をきっちりと着たその少女は、私の答えを聞いて、明るいブラウンの髪が影を落とす整った顔を拗ねたようにちょっと歪める。

 対して私はどうかといえば、そばかすの目立つ頬にかさついた肌、黒めがちな切長の目が涼しげと言えなくも無いが、他のパーツとのバランスが少々悪い。長い黒髪も手入れが行き届いておらず、着ている服に至っては魔女っぽさが少しは出るかなと古着屋で買ってきた、薄っぺらな黒い魔女衣装。多分、ハロウィンのコスプレにでも使った後のものだろう。

 方や美少女、方や低クオリティコスプレ魔女。

 そんな意味の無い比較に落ち込みかけている私の前で、少女は言葉を続けた。
「何がって、裏メニュー」
 少女は私の目を真っ直ぐに見てブラウスの襟元に手をかけボタンを外した。露わになる白い首元。そこにはまるで掴まれたような指の跡が赤黒く残っていた。
「触ってみてもいいですか?」
 頷いたのを確認してから私はそっと手を伸ばした。触れた肌はひたりと冷たくて、でも体温だけじゃ無い何かがじんじんと指先に伝わる。
ますね」
 遠回しに伝えても仕方ないのでさっぱり言い切り、私は机の端に避けられていたメニュー表をくるりと裏返した。料金表の1番下にある、料金だけでメニュー名が空白の部分を指で示す。

「確かにそれなら裏メニューですね。対応できるかお約束はできないですが、まずは一時間五千円でお話し聞く所からで……」
「話を聞くなら、わたしの家でじゃ、ダメ?」
「家に?」
「相談もしたいけど、今日は親が帰ってこないから一人じゃ怖くて……。明日の朝まで居てもらって五万ならどう?」
 私は即座にこう答えた。
「どこまででも着いていきます!」
 と。
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