上 下
71 / 72
【番外編】僕を取り戻した日に

1

しおりを挟む
 ある日、メイナにウルだった頃の事を恐る恐る聞かれて、ルルタはなるべくメイナが胸を痛めない様にと言葉を選びながら、当時の事を話していた。

「今ならおかしいって思うんだけど、物心ついた時から義理の母だという女から、『本当なら、放り出したっていい前妻の子を、仕方なく面倒見てやってるんだから』って、家事やら炊事やら押し付けられて、浄化の力があるとわかったら『少しは家の為に稼いできな!』って家から放り出される始末」

 さらっと話して居るけれど、当時はただただ辛かった。
 家には義母と義兄がいたが、そのどちらもルルタを便利な道具としか思っていないようだったし、身内として数えられて居るとも思えなかった。だからこそ、言う通りにしなくては居場所がないと思い込んでいたのだ。

「今考えれば、王子だってことが分からない様に、亡くなった王妃が命じていた事だったんだろうけど、性別も見た目も魔法道具で偽って生活させられてたから、ずっと『自分』というものが無くて……言われるままに生きてたんだ。それがメイに助けてもらって、ちょっとずつ『変えたいな』って思える様になったんだよね」

 メイナは、何かを耐える様に口を押さえて、うんうんと頷く。
「それからメイと会いたくて、自分からすすんで浄化の仕事に出るようになって……、気づいたら、僕は彼らより遥かに強くなってた。それで気づいたんだ。もう、言いなりになる必要ないって」

 ルルタは隣に座るメイナの手を取る。『ウル』として一緒にいた時からずっと支えだった彼女の手を。
 メイナはその手を強く握り返す。

「だから、メイをいつか迎えに行くって約束した後、もうあんな家、出て行ってやるって決意して荷物を取りに家に帰ったんだ」
 その日の事を思い出し、ルルタはくすり、と笑う。

「で、家に帰ったら、家が騎士に囲まれてた」

「え!?」
 いきなりの展開に、黙って聞いていたメイナが声を上げた。その驚きは当然だろう。当時のルルタも目を疑った。
「しかも、義理の母とか兄とか名乗ってた二人が、真っ青な顔で家から引き摺り出されて来てて、なんかキラキラした人が彼らの首根っこを捕まえてた」
「もしかして、それがイウリス殿下だったんですか?」
 ルルタは頷く。

「そう。僕を探してやっとあの家に辿り着いたんだって。それで、兄上が調べてみてわかったんだけど、彼ら、僕の義理の家族と言っていたけど全然違ったんだよ。僕を養うために毎月送られて来ていた金目当てに、本当の養い親を殺して家ごと乗っ取っていた奴らだったんだ。挙句、送られてくる金では足りなくなって僕に外で稼いで来ることまで強要してたと」
 メイナは辛そうに眉根を寄せ、握った手にさらにぎゅっと力をこめた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

処理中です...