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第十四章 女神と魔女
幕間 これが最後の口づけだとしても
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「メイナ!」
ルルタは魔女ケイナーンを受け入れた後、虚空を見つめて動かないメイナに駆け寄った。そして、その頬に手を添えて唇を触れようとする。 だが、メイナが、すっと顔を逸らした。
「お前は」
「あはは! お前達は本当に愚かね。私が中に入った時点で、もう負けは決まっていたのに ああ、なんて魔力の馴染む体でしょう! 私の力の前には、もう加護なんて意味はないわ」
メイナの顔で、その少女らしさの残る顔で、傲慢に笑う。
「この大地の荒れ狂う魔力を全部私の物にする。これだけの力があればできないことなど何もないわ。女神の死骸という大地を礎に、私という女王を頂く新たな国を興すのよ!」
自分の言葉で段々と興奮してきたのか、頬を上気させ、熱弁を振るう姿。あからさまに、魔女がメイナの体の主導権を握っていた。
「そうよ、私が女王になれば。この大陸を捧げて愛を請うなんて事をしなくても、ルトルゥ殿下もきっと私に跪くわ」
「そんな事をさせると思う?」
冷たい声が、魔女の耳に落ちた。
気がつけば傍にいたはずのルルタが、向かい合い魔女の手を握っている。
「な、何をするのよ!」
「さあ、どうしようか」
想像外の返答だったのだろう、魔女は思わず一歩下がろうとするが、ルルタの手を振り解けない。
どうしてか、ルルタが触れるとそこから力が抜けてしまうのだ。
「聖女がまだ抵抗しているとでも言うの! 体内の魔力は全て掌握しているのに。なのにどうして……」
ルルタはにっこりと笑って、魔女ごとメイナの体を抱きしめる。
「嫌よ、イヤって言っているじゃない!」
魔女の声が徐々に小さくなってゆく。ルルタは、その耳元に声を落とす。
「いい?」
魔女が必死に抗おうとするが、ルルタは手を緩めない。
「やめ、やめなさい、やめて……」
抵抗を示す魔女の声、だけど。
「うん」
と、肯定の声が続いた。それはメイナの言葉に他ならなかった。ルルタは一層強くメイナを掻き抱く。
二人の間に隙間なく、まるで一つになろうとでもいう様に。
しばらくそうして居ると、段々とメイナの体の強張りが抜けてゆく。
「ずっとこうしていたいな」
すっかりと魔女としての表情から、いつものメイナの柔らかな表情に変わり、そうしてぽつりと零された言葉に、ルルタの胸が締め付けられる。
やっと元の姿を取り戻したのに、またルルタの手で『真っ暗』に戻ってしまう大事な大事な人。
「そう、だね」
ルルタの声が途切れる。口付ける以上の事はこれから先、出来なくても『愛してる大事な人』だって事を少しもメイナが疑うことのない様に、できる全てで伝えていこう。
情けないと思いつつも、堪えきれずルルタの目から涙が溢れる。
すると、慰める様にメイナの手がルルタを強く抱き返した。だからルルタは、自分の気持ちを言葉に込めて返す。
「ずっとこうしていたいね」
その言葉に嬉しそうに笑うメイナに、ルルタはゆっくりと、惜しむ様にただゆっくりと唇を重ねた。
ルルタは魔女ケイナーンを受け入れた後、虚空を見つめて動かないメイナに駆け寄った。そして、その頬に手を添えて唇を触れようとする。 だが、メイナが、すっと顔を逸らした。
「お前は」
「あはは! お前達は本当に愚かね。私が中に入った時点で、もう負けは決まっていたのに ああ、なんて魔力の馴染む体でしょう! 私の力の前には、もう加護なんて意味はないわ」
メイナの顔で、その少女らしさの残る顔で、傲慢に笑う。
「この大地の荒れ狂う魔力を全部私の物にする。これだけの力があればできないことなど何もないわ。女神の死骸という大地を礎に、私という女王を頂く新たな国を興すのよ!」
自分の言葉で段々と興奮してきたのか、頬を上気させ、熱弁を振るう姿。あからさまに、魔女がメイナの体の主導権を握っていた。
「そうよ、私が女王になれば。この大陸を捧げて愛を請うなんて事をしなくても、ルトルゥ殿下もきっと私に跪くわ」
「そんな事をさせると思う?」
冷たい声が、魔女の耳に落ちた。
気がつけば傍にいたはずのルルタが、向かい合い魔女の手を握っている。
「な、何をするのよ!」
「さあ、どうしようか」
想像外の返答だったのだろう、魔女は思わず一歩下がろうとするが、ルルタの手を振り解けない。
どうしてか、ルルタが触れるとそこから力が抜けてしまうのだ。
「聖女がまだ抵抗しているとでも言うの! 体内の魔力は全て掌握しているのに。なのにどうして……」
ルルタはにっこりと笑って、魔女ごとメイナの体を抱きしめる。
「嫌よ、イヤって言っているじゃない!」
魔女の声が徐々に小さくなってゆく。ルルタは、その耳元に声を落とす。
「いい?」
魔女が必死に抗おうとするが、ルルタは手を緩めない。
「やめ、やめなさい、やめて……」
抵抗を示す魔女の声、だけど。
「うん」
と、肯定の声が続いた。それはメイナの言葉に他ならなかった。ルルタは一層強くメイナを掻き抱く。
二人の間に隙間なく、まるで一つになろうとでもいう様に。
しばらくそうして居ると、段々とメイナの体の強張りが抜けてゆく。
「ずっとこうしていたいな」
すっかりと魔女としての表情から、いつものメイナの柔らかな表情に変わり、そうしてぽつりと零された言葉に、ルルタの胸が締め付けられる。
やっと元の姿を取り戻したのに、またルルタの手で『真っ暗』に戻ってしまう大事な大事な人。
「そう、だね」
ルルタの声が途切れる。口付ける以上の事はこれから先、出来なくても『愛してる大事な人』だって事を少しもメイナが疑うことのない様に、できる全てで伝えていこう。
情けないと思いつつも、堪えきれずルルタの目から涙が溢れる。
すると、慰める様にメイナの手がルルタを強く抱き返した。だからルルタは、自分の気持ちを言葉に込めて返す。
「ずっとこうしていたいね」
その言葉に嬉しそうに笑うメイナに、ルルタはゆっくりと、惜しむ様にただゆっくりと唇を重ねた。
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