58 / 72
第十四章 女神と魔女
6
しおりを挟む
ふわふわ、ぽかぽか気持ちいい。
私は、良く回っていない頭でそう考える。
手も足も、何かに包まれているみたいに暖かくて心地よくて。
「いい?」
何を聞かれているのかも良くわからないけど、その声は好き。
だから「うん」と、答える。
答えると、いっそう全身暖かくなる。日の光の中で昼寝をしている時みたい。
気持ちいいに包まれる感じ。
「ずっとこうしていたいな」
私の言葉に、冷たい何かが私の頬の辺りに落ちる。
「そう、だね」
切れ切れの声が返る。泣いてるのかな。
私は両手を伸ばして、声の主をぎゅうっと抱く。
暖かいをくれるあなたが、悲しくないように。泣かなくていい様に。
「ずっとこうしていたいね」
優しい言葉が雫と一緒に降ってくる。私はきっとその時、嬉しくて笑ったんだと思う。
「メイナ様、メイナ様」
私を呼ぶ声が聞こえる。混濁した意識から、私は私を引っ張り上げた。
「おはよう、ラウミ」
薄く目を開けると、そこにはいつもならぴしっと背中を伸ばして立っているはずのラウミが、こちらに身を乗り出して私を呼んでいた。
頭をぐるりと巡らせて見ると、肩越しにルルタが見えてびくりとする。
「あれ?」
「殿下はそのままで大丈夫です。メイナ様は一度こちらへ」
なんだか悪い夢と良い夢を見ていた気がすると思いながら、私は身を起こす。……なんだか、体が重いし痛い。
ラウミに伴われて、私は用意されていた浴槽に手をかけて、気づいた。
「そうか、元通りなんだ……」
手が黒い靄の様なものに覆われていた。目を落とすと、足も同様だった。
「ああ、だから世話に慣れているラウミが居るの?」
「そうです。引き継ぎが終わるまでは陛下に温情をいただいていますので、もう少しだけお世話させてくださいね」
ずっとでもいいんだけどな、と私は思うけれど、きっとそういうわけにはいかないんだろう。
お湯にずるずると沈み込みながら、私は行儀悪く天を仰いだ。魔女ケイナーンは無事に私の中に封じられたんだろう。この真っ暗な体から、外に出ることはもう出来ない。
目を閉じて自分の中に存在を探すけれど、随分と奥に居るのか、まったく何も感じられない。
「全部終わったの?」
「そのように聞いております。くわしくは、後ほどカルスがこちらに説明に来るかと」
「そう」
私は崩した姿勢を戻し、ラウミが髪を洗うに任せる。丁寧に髪を漉きながら洗うラウミの指が心地いい。
「女神様、大丈夫だったんでしょうか」
「先ほど神官が解放され、早速に神託があったと聞いています。女神様のお力の回復には時間がかかるものの、大地の魔力の巡りには問題はないと。力が戻ったらまたメイナ様をお呼びするという事でした」
「それなら良かった」
私はまたちょっとふわふわした頭のままで、女神の無事を喜んだ。
私は、良く回っていない頭でそう考える。
手も足も、何かに包まれているみたいに暖かくて心地よくて。
「いい?」
何を聞かれているのかも良くわからないけど、その声は好き。
だから「うん」と、答える。
答えると、いっそう全身暖かくなる。日の光の中で昼寝をしている時みたい。
気持ちいいに包まれる感じ。
「ずっとこうしていたいな」
私の言葉に、冷たい何かが私の頬の辺りに落ちる。
「そう、だね」
切れ切れの声が返る。泣いてるのかな。
私は両手を伸ばして、声の主をぎゅうっと抱く。
暖かいをくれるあなたが、悲しくないように。泣かなくていい様に。
「ずっとこうしていたいね」
優しい言葉が雫と一緒に降ってくる。私はきっとその時、嬉しくて笑ったんだと思う。
「メイナ様、メイナ様」
私を呼ぶ声が聞こえる。混濁した意識から、私は私を引っ張り上げた。
「おはよう、ラウミ」
薄く目を開けると、そこにはいつもならぴしっと背中を伸ばして立っているはずのラウミが、こちらに身を乗り出して私を呼んでいた。
頭をぐるりと巡らせて見ると、肩越しにルルタが見えてびくりとする。
「あれ?」
「殿下はそのままで大丈夫です。メイナ様は一度こちらへ」
なんだか悪い夢と良い夢を見ていた気がすると思いながら、私は身を起こす。……なんだか、体が重いし痛い。
ラウミに伴われて、私は用意されていた浴槽に手をかけて、気づいた。
「そうか、元通りなんだ……」
手が黒い靄の様なものに覆われていた。目を落とすと、足も同様だった。
「ああ、だから世話に慣れているラウミが居るの?」
「そうです。引き継ぎが終わるまでは陛下に温情をいただいていますので、もう少しだけお世話させてくださいね」
ずっとでもいいんだけどな、と私は思うけれど、きっとそういうわけにはいかないんだろう。
お湯にずるずると沈み込みながら、私は行儀悪く天を仰いだ。魔女ケイナーンは無事に私の中に封じられたんだろう。この真っ暗な体から、外に出ることはもう出来ない。
目を閉じて自分の中に存在を探すけれど、随分と奥に居るのか、まったく何も感じられない。
「全部終わったの?」
「そのように聞いております。くわしくは、後ほどカルスがこちらに説明に来るかと」
「そう」
私は崩した姿勢を戻し、ラウミが髪を洗うに任せる。丁寧に髪を漉きながら洗うラウミの指が心地いい。
「女神様、大丈夫だったんでしょうか」
「先ほど神官が解放され、早速に神託があったと聞いています。女神様のお力の回復には時間がかかるものの、大地の魔力の巡りには問題はないと。力が戻ったらまたメイナ様をお呼びするという事でした」
「それなら良かった」
私はまたちょっとふわふわした頭のままで、女神の無事を喜んだ。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる